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- 急落後のユーロ相場の行方~円の独歩高に繋がるリスクも
2018年06月01日
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1.トピック:急落後のユーロ相場の行方

5月下旬、イタリアの政治不安を背景としてユーロが急落した。当初はEUに懐疑的でポピュリズム政党とされる「五つ星運動」と「同盟」による新政権樹立に伴って、両党が掲げたバラマキ政策で財政赤字が拡大するとの懸念がユーロ安の原因であったが、その後、大統領が閣僚人事を拒否したことで政権樹立が一旦頓挫、再選挙の可能性が高まると、両党が勢力を伸ばすことで同国のユーロ離脱の可能性が高まるとの懸念が台頭し、ユーロ安に拍車がかかった。
5月23日時点で1ユーロ130円台後半であったユーロ円レートは、イタリア財政懸念の尺度である国債利回りの急上昇と歩調を合わせる形で、29日の海外時間に一時11ヶ月ぶりとなる124円台まで下落。ユーロドルレートも1.15ドル台前半まで大きく押し下げられた。
一方、先月の終盤には、急遽一転してイタリアで再び「五つ星運動」と「同盟」による新政権樹立の動きが出てきたことでユーロ安が一服し、昨日発足が確定的になったことを受けて、足元のユーロはやや上昇に転じている。
(ユーロ相場の行方)
以上のとおり、イタリアの政治情勢とユーロ圏の景気動向が最近のユーロ相場を大きく動かしてきたわけだが、今後のユーロ相場を占ううえでもこの2つの材料が大きなカギになる。
メインシナリオとしては、イタリアの新政権は実際に政権を担ううえで、現実路線にシフトしていくとみている。今回の政治不安で市場が動揺し、同国の長期金利が跳ね上がったことが、新政権のバラマキに対する牽制として作用することも期待できる。また、ユーロ圏の景気についても、昨年末にかけて好調が続いたことの反動や、年初に逆風となった悪天候やストライキといった一時的現象の影響が剥落することで持ち直し、ECBは金融政策の正常化路線を維持、7月に量的緩和の再縮小を決定すると見ている。この場合、ユーロは幅広い通貨に対して持ち直していくと予想している(具体的な予測値は7ページに記載)。
ただし、過度の楽観はできない。もし政治に不慣れなイタリアの新政権が、支持基盤を固めることを優先して公約に掲げたバラマキ政策を推し進めようとすれば、財政不安が高まるとともに、財政規律順守を迫るEUとの摩擦が発生することが不可避となる。そうなれば、再びユーロ安圧力がぶり返すことになる。
また、ユーロ圏の景気動向についても、これまでの減速の主因が過去の反動や悪天候などではなく、昨年進んだユーロ高や米保護主義による人々のマインドの悪化であるのだとしたら、景気の低迷が長びき、ECBの金融政策正常化の遅れに繋がることで、さらなるユーロ安を招く恐れがある。イタリアの財政不安が再び高まり、金融市場の混乱や人々のマインド悪化を通じて、ユーロ圏の実体経済に悪影響を及ぼす恐れもある。
以上のとおり、イタリアの政治情勢とユーロ圏の景気動向が最近のユーロ相場を大きく動かしてきたわけだが、今後のユーロ相場を占ううえでもこの2つの材料が大きなカギになる。
メインシナリオとしては、イタリアの新政権は実際に政権を担ううえで、現実路線にシフトしていくとみている。今回の政治不安で市場が動揺し、同国の長期金利が跳ね上がったことが、新政権のバラマキに対する牽制として作用することも期待できる。また、ユーロ圏の景気についても、昨年末にかけて好調が続いたことの反動や、年初に逆風となった悪天候やストライキといった一時的現象の影響が剥落することで持ち直し、ECBは金融政策の正常化路線を維持、7月に量的緩和の再縮小を決定すると見ている。この場合、ユーロは幅広い通貨に対して持ち直していくと予想している(具体的な予測値は7ページに記載)。
ただし、過度の楽観はできない。もし政治に不慣れなイタリアの新政権が、支持基盤を固めることを優先して公約に掲げたバラマキ政策を推し進めようとすれば、財政不安が高まるとともに、財政規律順守を迫るEUとの摩擦が発生することが不可避となる。そうなれば、再びユーロ安圧力がぶり返すことになる。
また、ユーロ圏の景気動向についても、これまでの減速の主因が過去の反動や悪天候などではなく、昨年進んだユーロ高や米保護主義による人々のマインドの悪化であるのだとしたら、景気の低迷が長びき、ECBの金融政策正常化の遅れに繋がることで、さらなるユーロ安を招く恐れがある。イタリアの財政不安が再び高まり、金融市場の混乱や人々のマインド悪化を通じて、ユーロ圏の実体経済に悪影響を及ぼす恐れもある。
ただし、これ以上ユーロ安が進めば、その前提が崩れる恐れが出てくる。ドルの実効レートが押し上げられることで、米企業の景況感が悪化し、米景気の減速に繋がりかねない。さらに、ドル高は米国の物価抑制要因にもなるため、景気減速・物価低迷への懸念からFRBの利上げスタンスが慎重化し、円高ドル安圧力が強まることが想定される。
また、トランプ政権が対外強硬姿勢を強めることを通じて円高が進む可能性もある。トランプ大統領の支持率はここ数ヵ月にわたって上昇基調にあるが、景気回復がその一因になっているとみられる。今後、さらなるユーロ安の裏返しとしてドルが押し上げられれば、景気減速を懸念するトランプ政権がドル安誘導発言や円安誘導批判といった為替への直接的な働きかけを再び行う可能性がある。また、トランプ政権が、支持基盤固めを目的として保護主義的政策にさらに傾倒し、リスク回避的な円買いに繋がる事態も考えられる。
その際は円高ユーロ安のみならず、円高ドル安が進行するため、円は主要通貨のなかで独歩高になる。そうなっても、日本サイドに打てる有効な手段は見当たらない。これまで大規模な金融緩和を続けてきた結果、日銀には(劇薬以外に)追加緩和余地が殆ど残されていないためだ。
ユーロ相場の行方はドル円相場にも大きな影響を与えると考えられるだけに、ドル円の行方を占ううえでユーロの動向も注目される。
また、トランプ政権が対外強硬姿勢を強めることを通じて円高が進む可能性もある。トランプ大統領の支持率はここ数ヵ月にわたって上昇基調にあるが、景気回復がその一因になっているとみられる。今後、さらなるユーロ安の裏返しとしてドルが押し上げられれば、景気減速を懸念するトランプ政権がドル安誘導発言や円安誘導批判といった為替への直接的な働きかけを再び行う可能性がある。また、トランプ政権が、支持基盤固めを目的として保護主義的政策にさらに傾倒し、リスク回避的な円買いに繋がる事態も考えられる。
その際は円高ユーロ安のみならず、円高ドル安が進行するため、円は主要通貨のなかで独歩高になる。そうなっても、日本サイドに打てる有効な手段は見当たらない。これまで大規模な金融緩和を続けてきた結果、日銀には(劇薬以外に)追加緩和余地が殆ど残されていないためだ。
ユーロ相場の行方はドル円相場にも大きな影響を与えると考えられるだけに、ドル円の行方を占ううえでユーロの動向も注目される。
2.日銀金融政策(5月)
(日銀)現状維持
5月は金融政策決定会合が予定されていない月であったため、必然的に金融政策は現状維持となった。次回会合は6月14~15日に開催される予定。
5月10日に公表された「金融政策決定会合における主な意見(4月開催分)」では、前回4月会合で焦点となった物価2%達成時期に関する記述削除について、「2%程度に達する時期は、あくまで見通しであって、その変化と政策変更を機械的に結び付けているわけではない。市場とのコミュニケーションの面からも、この点を明確にすることが適当である。」との意見や、「記述を修正したとしても、2%の「物価安定の目標」を「できるだけ早期に実現する」というコミットメントは、全く変わらないことをしっかり示す必要がある。」との意見といった前回総裁会見での説明に沿った意見が確認できる。一方で、「記述を見直すことは、「物価安定の目標」達成に向けたコミットメントを弱めてしまうことになりかねないと懸念される。」との反対意見もあったことが判明した。これは、前回会合で政策決定に反対票を投じた片岡委員の意見と推察される。また、「現在の政策の要はコミットメントにある。これを強化する手段がないか、更なる研究と議論が望ましい。」との意見もあり、政策におけるコミットメントのあり方について、活発な議論が行われた様子がうかがえる。
同日に行われたきさらぎ会における黒田総裁の講演でも、改めて2%達成時期に関する記述削除について説明がなされた。総裁は、「「物価安定の目標」の位置づけや性格を変更したものではない」、「2%を「できるだけ早期に」実現するという約束に変わりはない」などと説明。「日銀のコミットメントは強力かつ不変」との印象を人々や市場に浸透させたいという意図がうかがわれた。
5月は金融政策決定会合が予定されていない月であったため、必然的に金融政策は現状維持となった。次回会合は6月14~15日に開催される予定。
5月10日に公表された「金融政策決定会合における主な意見(4月開催分)」では、前回4月会合で焦点となった物価2%達成時期に関する記述削除について、「2%程度に達する時期は、あくまで見通しであって、その変化と政策変更を機械的に結び付けているわけではない。市場とのコミュニケーションの面からも、この点を明確にすることが適当である。」との意見や、「記述を修正したとしても、2%の「物価安定の目標」を「できるだけ早期に実現する」というコミットメントは、全く変わらないことをしっかり示す必要がある。」との意見といった前回総裁会見での説明に沿った意見が確認できる。一方で、「記述を見直すことは、「物価安定の目標」達成に向けたコミットメントを弱めてしまうことになりかねないと懸念される。」との反対意見もあったことが判明した。これは、前回会合で政策決定に反対票を投じた片岡委員の意見と推察される。また、「現在の政策の要はコミットメントにある。これを強化する手段がないか、更なる研究と議論が望ましい。」との意見もあり、政策におけるコミットメントのあり方について、活発な議論が行われた様子がうかがえる。
同日に行われたきさらぎ会における黒田総裁の講演でも、改めて2%達成時期に関する記述削除について説明がなされた。総裁は、「「物価安定の目標」の位置づけや性格を変更したものではない」、「2%を「できるだけ早期に」実現するという約束に変わりはない」などと説明。「日銀のコミットメントは強力かつ不変」との印象を人々や市場に浸透させたいという意図がうかがわれた。
今後の金融政策については、物価目標の達成が見通せない状況が続くため、長期にわたり現行緩和の維持が続くと予想している。なお、現行の枠組みのなかで副作用を抑制するために日銀はいずれ小幅な金利上昇を促す調整を行うと見ているが、年度内は金利上昇を許容しないだろう。ETF買入れについてもいずれ減額へ向かうものの、しばらくは現状維持を続けると見ている。日銀は金利を下げすぎることの弊害を認識しているため、金融市場が大きく混乱したり、物価が想定を下回ったりしたとしても、追加緩和として金利を押し下げる措置を採る可能性は低い。
(2018年06月01日「Weekly エコノミスト・レター」)
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経歴
- ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
・ 2007年 日本経済研究センター派遣
・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
・ 2009年 ニッセイ基礎研究所
・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)
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