2018年05月11日

米長期金利の動向-長期金利は一時14年初以来の3%台に上昇。利上げ継続、債務残高増加から一段の上昇へ

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.はじめに

米国の長期金利(10年)は、一時14年初以来となる3%台をつけるなど、16年の夏場を底に上昇基調が持続している(前掲図表1)。長期金利の上昇は、日本や欧州など米国以外の主要国でもみられるものの、これらの長期金利の水準は14年初時点を大幅に下回っており、米国の長期金利上昇が他国と比べて顕著であることが分かる。

これは、米国では他先進国に先立ち15年12月に政策金利の引き上げを開始したほか、トランプ政権下で減税を中心とする税制改革法が成立したほか、2018年超党派予算法に基づく拡張的な財政政策の影響から米債務残高が増加することに対する懸念が背景にあるとみられる。

本稿では、米国の長期金利上昇の背景を政策金利の引き上げが続く金融政策の影響と、債務残高の増加などを通じた国債需給悪化の観点から検証し、今後の長期金利見通しについて説明している。

結論から言えば、当研究所の長期金利予想は18年末が3.3%、19年末が3.6%と今後も緩やかな上昇基調は持続するというものである。一方、インフレ加速に伴う政策金利引き上げスピードの加速や、国債需給の悪化による期間プレミアムの上昇は、長期金利を予想対比で上振れさせよう。
 

2.長期金利上昇要因

2.長期金利上昇要因

(図表2)10年金利の成分分解 長期金利成分分解):16年夏場以降は、短期金利期待、期間プレミアムともに長期金利を押上げ
長期金利は、短期金利期待要因と、期間プレミアム要因に成分分解できる。短期金利期待要因は主に今後の金融政策見通し、期間プレミアム要因は、長期債を保有することに伴う価格変動や流動性リスクなどを反映して変動する。

実際に、サンフランシスコ連銀が公表1する10年金利(ゼロクーポン債)の成分分解をみると、10年金利は16年夏場の1.4%から、18年4月初の2.7%にかけて+1.3%ポイント上昇したが、このうち、短期金利期待要因が+0.3%ポイント、期間プレミアム要因が+1.0%ポイントと、両要因ともに、長期金利を押上げたことが分かる(図表2)。

なお、前回10年金利が3%をつけた14年初では、短期金利期待が低下する一方、期間プレミアムの急激な上昇が長期金利を押上げており、両要因ともに金利を押上げている足元の状況とは異なっていた。

次に、短期金利期待に影響を与える金融政策の動向と、期間プレミアムに影響を与える米国債の需給状況について確認しよう。
 
1 ゼロクーポン債の金利(3ヵ月、6ヵ月、1年、2年、3年、5年、7年、10年)を用いて、無裁定条件を課したアフィン型Nelson-Siegelモデルを中心に構成された3ファクターアフィン型ガウシアン期間構造モデルから推計される。https://www.frbsf.org/economic-research/indicators-data/treasury-yield-premiums/
(金融政策):政策金利の引き上げ継続、今後も政策金利先高観が長期金利を押上げ
FRBは15年12月に政策金利の引き上げを開始し、18年3月までに合計6回(1.5%)の利上げを実施した(図表3)。政策金利の引き上げ回数は15年および16年が年1回に留まっていたものの、労働市場の回復が持続していることに加え、17年夏場以降には漸く物価指標も増加基調に転じた2こともあって、17年は年3回と利上げスピードが大幅に加速した。
(図表3)政策金利およびPCE価格指数、失業率/(図表4)原油先物価格および期待インフレ率
前述の短期金利期待要因は、今後10年間の短期金利見通しを反映しているため、当面政策金利の引き上げが継続されることは既に相当程度長期金利水準に織り込まれているとみられる。

しかしながら、原油価格が足元70ドルを上回るなど上昇が続いていることもあって、金融市場が織り込む期待インフレ率は17年後半以降に顕著に上昇するなど、インフレ評価が見直されている(図表4)。

当研究所は、インフレが加速していることなどを背景に、18年の政策金利予想を年4回の利上げと、FRBの予想(年3回)を上回る上昇幅を見込んでいる(後掲図表12)。一方、金融市場は年4回の利上げを未だ50%程度しか織り込んでいないため、当研究所の予想通り年4回に上方修正される場合には、短期金利要因は一段の長期金利押上げになることが見込まれる。

一方、今般の利上げ局面で長期金利は短期金利に連動して上昇しているものの、長短金利差(10年-2年)は、15年に利上げ開始した時点の1%ポイント台前半から、足元は0.5%ポイント程度に縮小している(図表5)。
(図表5)長短金利差(10年-2年)/(図表6)10年金利およびフォワード・スワップレート
また、変動金利と固定金利を交換するスワップレートで、将来の一時点からスワップ契約を開始する、フォワード・スワップレートから市場が織り込む1年後および2年後の10年金利をみると3、直近(5月8日時点)で1年後および2年後のフォワード・スワップレートは、いずれも3%近辺に留まっており長期金利の大幅な上昇を見込んでいない(前掲図表6)。また、フォワード・スワップレートと長期金利の乖離は、17年初から縮小しており、イールドカーブのフラット化と整合的な動きがみられる。

このように、一部市場は米経済のリセッション懸念などを背景に、イールドカーブのフラット化や逆イールドを予想する向きもあるようだ。しかしながら、当研究所は当面、米経済がリセッションに陥ることを想定していないため、逆イールドとなる可能性は低いと考えており、今後も長期金利の水準は短期金利を上回る状況が持続すると予想している。
 
 
2 物価指標が全般的にインフレ加速を示唆している状況については、Weeklyエコノミストレター(2018年4月20日)「インフレ加速の足音―物価指標はインフレ加速を示唆。今後も賃金上昇、GDPギャップ解消からインフレは加速しよう」を参照下さい。http://www.nli-research.co.jp/files/topics/58491_ext_18_0.pdf?site=nli
3 オランダのCPB経済政策分析局が、今年から10年金利見通しの策定に当ってフォワード・スワップレートの活用を開始。https://www.cpb.nl/en/publication/forecasting-long-term-interest-rates
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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

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