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保護主義色を強める米国-新たな国際経済体制が必要
基礎研REPORT(冊子版)5月号

櫨(はじ) 浩一
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1―強まる保護主義色
トランプ大統領が誕生して1年あまりになるが、この間政権の主要スタッフは辞任・解任が相次いだ。最近では、ティラーソン国務長官やマクマスター安全保障担当補佐官などが退任し、政権内には強硬派やポピュリスト的なスタッフが目立つようになった。11月には中間選挙を控えており、さらに選挙で受けの良い保護主義的な政策が打ち出される恐れがある。
2―大幅赤字の継続
しかし日本やドイツとの間の貿易赤字もそれぞれ600億ドル以上あって、無視できない規模だ。また、米国の財貿易収支は、リーマンショック直後には輸入が減少して赤字が大幅に縮小したが、その後景気回復とともに輸入が増加して、2017年10-12月期にはGDP比で4%程度にまで拡大している。サービス収支や利子配当などの第一次所得収支を加えた経常収支の赤字はGDPの2%程度で、赤字の規模を問題視するのは当然だ。
トランプ大統領は貿易赤字を損失(loss)と呼ぶことがあるが、二国間の貿易で、収支が赤字の国側が損をしているという訳ではなく、貿易相手国との収支がそれぞれ均衡している必要はない。したがって二国間の貿易収支均衡を求める政策は間違っているが、米国の大幅な経常収支の赤字を縮小しようという意図自体には意味がある。米国の大幅な経常収支赤字が改善しないかぎり、貿易摩擦は一時的に沈静化してもいずれまた再燃するだろう。
3―新たな国際経済体制
第二次世界大戦後の世界経済を支えたのは、IMFや世界銀行といった国際機関やGATT、そして各国通貨と米ドルとの為替レートを固定しドルが金との交換比率を一定に保つという、ブレトンウッズ体制だ。この仕組みは、米国経済が世界経済の中で圧倒的な力を持っているという第二次世界大戦終了直前の状況を前提としたものだった。欧州経済が大戦の戦災から次第に復興し、日本経済が急速な発展を遂げると、この体制は維持できなくなってしまう。1971年のニクソンショックを経て変動相場制となるとともに、その後WTOの下での貿易体制に移行してきた。
今後中国やインドなどの新興国がさらに発展して世界経済における重要性を増し、米国の経済力が相対的に低下していけば、変動相場制の下で米ドルを基軸通貨として使い続けるという仕組みもいずれ限界を迎えることは目に見えている。
世界経済は米国が大幅な経常収支赤字を出し続けるというグローバルな不均衡を必要としない、新たな国際経済体制の構築を必要としていると考える。
(2018年05月09日「基礎研マンスリー」)
櫨(はじ) 浩一 (はじ こういち)
櫨(はじ) 浩一のレポート
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