2018年04月17日

働き方改革で家庭での男性活躍推進を~企業に期待される少子化対策の取り組みは(下)~

生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 坊 美生子

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3――企業に求められる少子化対策

1|男性社員にも仕事と家庭の両立支援を
共働き家庭において、夫婦ともに仕事と家事・育児の両立を実現するには、第一に働き方改革が必要である。まずは社員自ら仕事の仕方を見直して効率を上げ、企業は業務を整理し直して無駄なものを止めることが必要である。働き方改革は、労使どちらか一方だけでできるものではなく、両者が協力して生産性を高め、長時間労働を見直すことが必要である。また、2-2|でみたように、夫の出勤時間は、2016年時点で1日平均1時間である。業種や職種にもよるが、在宅勤務を週1日でも利用できるようになれば、家庭でのゆとりにつながる。働き方改革は、短期間で実現するものではないが、新卒で労働市場に入ってくる学生は、従前に比べると、ワーク・ライフ・バランスを重視する傾向が強まっており3、両立支援は企業にとっても人材確保のためにプラスになるだろう。

第二が、職場環境の改善である。図表7でみたように、現状で、仕事と家庭の両立のハードルとなっているのは、大きく分けて(1)仕事の都合、(2)キャリアアップへの懸念、(3)職場風土の3点である。(1)は、子どもの用事で早く帰りたくても仕事を代替してくれる人がいなければ帰れない、というものである。これを打開するには、フレックスタイムや在宅勤務など柔軟な働き方を取り入れる制度面の整備と、余裕を持った要員を組んでおく体制面の工夫、日頃から業務に関する情報や取引先等の連絡先を社員2人以上で共有して相互に助け合えるようにしておく運用面の工夫が必要である。この3点のうちいずれかが欠けると、一人でも仕事が遅れたら部署全体の業務が停滞する、という事態に陥るため、上司も承諾するのが難しくなる。また、子どもがいる女性だけではなく、男性を配慮の対象に含めることが必要である。また、上司が普段から部下とコミュニケーションを取り、家庭の事情を適切に把握しておくことも、スムーズに制度を運用する鍵となる。

(2)に関しては、育休や短時間勤務を利用したか、勤務時間が長いか等にかかわらず、仕事の成果で評価する仕組みを定着させることが必要である。国内の多くの企業では、半年などの評価期間ごとに、包括的に社員の実績を査定する『期間型』が用いられているが、この方法だと査定の根拠が曖昧になりやすく、勤務時間が短い社員が相対的に低い評価を受ける可能性がある。「仕事で評価する」ことを実践するには、社員が関わったプロジェクトごとに貢献度を評価して評価期間のスコアを積み上げていく『ジョブ型』に変えていくことが重要だろう。ジョブ型であれば、勤務時間が短い社員も、個別のプロジェクトで大きく貢献することによって高い評価を得られるようになるし、仕事を代替した社員も貢献度が増した分、評価を積み増すことができる。

また、実際に育休や短時間勤務などの制度を利用したり、定時で帰宅したりする男性社員が高い評価を受けた場合には、他の社員と同じルールに則ってキャリアアップさせて先行事例とし、「昇進・昇格や配置転換等で不利になることはない」実績として明確に示す必要がある。また、上司から、子どもができた社員には男女問わず育休取得を促すなど、本人が申し出やすい状況を作り出す配慮が必要である。(3)に関しては、管理職研修や社員研修によって、男女問わず仕事と家庭を両立できるように、会社として制度と運用の両面から応援していることを説明していく必要がある。

職場風土や意識に関わることは、社員個人の努力だけで状況を変えるのは難しい。企業全体で取り組むことが、職場の空気を変え、本人の意識を変えるチャンスにもなるだろう。
 
3 就職情報会社「マイナビ」(東京)が2018年3月卒業予定の大学生ら約15,000人を対象に行った意識調査によると、就職観では「個人の生活と仕事を両立させたい」との回答が26.7%に上り、「楽しく働きたい」(27.9%)に次ぐ2位となり、5年連続増加傾向だった。特に理系女子では1位だった。
2|政治のリーダーシップを期待
企業の取り組みを推進するためには、政治のリーダーシップとインセンティブが必要である。男性の育児参加を推進するため、2017年10月施行の改正育児・介護休業法では、「配偶者出産休暇」など、子どものための独自休暇制度を設けることが企業の努力義務とされた。また、改正の目玉は、保育所等が見つからない場合に、育休の最長期間を従前の「子どもが1歳6ヶ月」から「2歳」に延長したことだったが、改正内容を事前に議論した労働政策審議会では、「妻が1歳6ヶ月まで育休を利用した場合、次に夫が取得するならば2歳まで延長できるようにする」と、夫への割り当て制度と延長を組み合わせるアイデアも出されていた。夫に取得を促すインセンティブにすると同時に、妻だけが職場のブランクが長引いてキャリア上、不利にならないように、という意味合いがあったが、一部委員の反対などにより採用されなかった。

夫への育休の割り当て制は、北欧などで導入され、成果を挙げている。国内でも従来から、夫が取得した場合に育休の原則期間を1歳から1歳2ヶ月まで延長できる制度「パパ・ママ育休プラス」があるが、利用は低迷している。保育所等が見つからない場合は、いずれにせよ、最長2歳まで延長できるため、「パパ・ママ育休プラス」のメリットは実質的に打ち消されている。夫の取得率向上に本腰を入れるには、今後改めて、割り当てのあり方について見直すべきではないだろうか。

2016年度からは、男性社員が育休を取得した企業に対して、一定の条件つきで助成金が支給される制度もスタートした。2017年度の助成額は最大72万円に上る。また、企業が公共調達で加点評価の対象となる「くるみん」マーク4の付与基準について、2017年度から、男性従業員の育休取得率が従来の「1人以上」から「7%以上」に強化された。全国の労働局がこれらの対策について啓発を進め、取得を促してほしい。
 
4 次世代育成支援対策推進法に基づき、子育て支援態勢を整備した企業を厚生労働大臣が認定する仕組み。 男性従業員と女性従業員それぞれの育休取得率や、法定外労働時間などの認定基準が定められている。
 

4――むすびに変えて ~家庭における男性の活躍推進で夫婦に余裕を~

4――むすびにかえて ~家庭における男性の活躍推進で夫婦に余裕を~

第二次安倍政権は「輝く女性」を看板政策に掲げ、2016年、大企業に女性の管理職登用などを促す女性活躍推進法が施行された。政治の強いリーダーシップで、厚生労働大臣の諮問機関・労働政策審議会はわずか2か月で法案の要綱案を仕上げた。「女性活躍」は社会に浸透し、図表3でみたように、女性の結婚、出産、育児期にあたる25~34歳の労働力人口比率は、第二次安倍政権発足前の2011年時点では72.2%だったが、2017年には78.5%に上昇した。これは大きな成果である。しかしこのことは、労働市場における人手不足の改善にはつながっても、これまで論じてきたように、共働き家庭の少子化を改善する方向には働いていないようである。

図表2と図表3で示したように、国内では家事・育児の大部分は妻が負っている。過去20年間、その構造がほとんど変わらないまま、経済的事情や自らの意思によって就業する妻が増えたために、職場と家庭の両方で役割を果たそうとする妻の負担が過重になっている。一方で、夫の仕事の時間も長くなっており、家事・育児の役割分担は欧米に比べて大きく遅れている。結果的に、子どもが0人または1人の夫婦の割合は過去13年で倍増した。このままの状態が続けば、夫婦から「2人目を持とう」「3人目を持とう」という余裕が無くなり、第二子以降の出生がますます抑制されるリスクがある。夫が仕事の時間を短縮して家事・育児により関わる必要がある。

家事を専門業者に外注する手段もあるが、経済的にそれができる世帯とできない世帯がある。また育児の場合は、子どもが熱を出す、けがをした、などの事情が突発的に発生するため、外注では解決できず、親が必要である。特に近年では障害を持った子どもが増えており、育児には妻だけではなく、夫婦の力が必要である。

このような中で、企業に求められる役割とは、働き方改革を実現し、女性社員だけでなく、男性社員が仕事と家庭を両立できる職場環境や、男女ともに通勤負担と時間を軽減できる在宅勤務制度などを整えることだと考える。男性本人に性別役割意識が強く残っている場合でも、勤務先で研修を受けたり、上司から育休取得を推奨されたりすれば、意識改革のチャンスにもなる。社員の意識を変え、家庭での行動を変えるためには、企業トップの働きかけが必要である。政治にはその旗振りを期待したい。女性の活躍推進を無理なく進め、少子化対策と両立するためには、家庭における男性の活躍を推進する取り組みが、同時に求められているのではないだろうか。
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生活研究部   准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任

坊 美生子 (ぼう みおこ)

研究・専門分野
中高年女性の雇用と暮らし、高齢者の移動サービス、ジェロントロジー

(2018年04月17日「基礎研レポート」)

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