2018年03月30日

中国経済:景気指標の総点検(2018年春季号)~景気は一旦再加速!

三尾 幸吉郎

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1.最近の金融マーケット

ここもとの金融マーケットを概観すると、株価は一旦上昇したあと調整、人民元は高値模索の動きとなっており、住宅価格は緩やかな上昇を続け、短期金利はゆっくりと上昇している。まず、株式市場に焦点を当てると、15年夏に急落した中国株は16年1月に底打ち、その後は景気の持ち直しと政府系ファンド(国家隊)による買い支えを背景にじりじりと上昇、18年入り海外株の急伸を背景に1月24日には17年の最高値を超えてきた。しかし、中国政府が金融リスク管理の強化に動き出したことに加えて、米中貿易摩擦が深刻化して米中経済が共倒れとなる恐れがでてきたため株価は下落、調整局面入りしている(図表-1)。人民元市場に目を転じると、15年8月には米ドルに対する基準値を3日間で約4.5%切り下げ、その後も資金流出懸念から下落したが、党大会前に基準値設定方法を変更したことやユーロ高を背景に人民元は上昇に転じた。その後一旦は調整したものの、18年1月に基準値設定方法を元に戻したことや米中貿易摩擦の深刻化に伴って人民元に切り上げ圧力が掛かるとの見方が浮上、高値模索の動きが続いている(図表-2)。また、住宅価格は緩やかな上昇を続けている。16年秋に中国政府(含む中国人民銀行)がバブル退治に乗り出したため、上海や深圳などでは上昇に歯止めが掛かったものの、高騰は周辺都市に飛び火、70都市平均では上昇が続いている(図表-3)。そして、景気が持ち直しバブル懸念が高まる中で、中国人民銀行は17年春にリバースレポ(7日物)や常設流動性ファシリティなどの金利を2回引き上げ、17年12月と18年3月にも米利上げに追随してリバースレポ(7日物)金利を小幅に引き上げた(図表-4)。
(図表-1)上海総合の推移/(図表-2)人民元レート(対米ドル・スポットオファー)
(図表-3)新築分譲住宅価格(除く保障性住宅)の推移/(図表-4)米中の短期金利の推移

2.景気10指標の点検

2.景気10指標の点検

(図表-5)工業生産(実質付加価値ベース、一定規模以上)の推移 1|供給面の3指標

【工業生産】
景気指標の中で国内総生産(GDP)への影響が最も大きいのが工業生産(実質付加価値ベース)である。ここもと中国経済はサービス化が進んでいるが、その影響力は依然として大きい。年明けの1-2月期、工業生産は前年同期比7.2%増と17年10-12月期の同6.3%増(推定1)を大きく上回る伸びを示した(図表-5)。内訳を見ると、鉄鋼や鉱業(石炭等)は1%台の伸びに留まったものの、コンピュータ・通信・その他電子設備や電力エネルギー生産供給が2桁の高い伸びを示した。
 
1 中国では、統計方法の改定時に新基準で計測した過去の数値を公表しない場合が多く、また1月からの年度累計で公表される統計も多い。本稿では、四半期毎の伸びを見るためなどの目的で、ニッセイ基礎研究所で中国国家統計局などが公表したデータを元に推定した数値を掲載している。またその場合には“(推定)”と付して公表された数値と区別している。
(図表-6)製造業PMI 【製造業PMI】
製造業の動向をいち早く反映するのが製造業PMI(製造業購買担当者景気指数、中国国家統計局)である。これは製造業3000社の購買担当者へのアンケート調査を元に計算するもので、通常は50%が拡張・収縮の分岐点となる。年明け後の1月は51.3%、2月は50.3%と、17年10-12月期の平均(51.7%)を下回ってきた。但し、将来3ヵ月の見通しを示す予想指数は50%台後半の高水準を維持しており、春節(旧正月)の時期の一時的な低下に留まる可能性もある(図表-6)。
(図表-7)非製造業PMI 【非製造業PMI】
非製造業の動向をいち早く反映するのが非製造業PMI(非製造業商務活動指数、中国国家統計局)である。中国では製造業からサービス業への構造転換が進行中で、その重要性は徐々に増している。製造業PMIと同様に50%が拡張・収縮の分岐点とされる。年明け後の1月は55.3%、21月は54.4%と、17年10-12月期の平均(54.7%)とほぼ同水準で推移している(図表-7)。
(図表-8)小売売上高の推移

2|需要面の3指標

【小売売上高】
個人消費の動きを見る上で重要なのが小売売上高だ。年明けの1-2月期は前年同期比9.7%増と、17年10-12月期の同9.6%増(推定)とほぼ同水準で推移している(図表-8)。内訳を見ると、家具類の伸びが鈍化、不動産規制強化による住宅販売の減少が影響し始めた可能性がある。但し、ネット販売(商品とサービス)は前年同期比37.3%増と極めて高い伸びを維持、BAT(百度、阿里巴巴、騰訊)などIT企業が牽引役となり、都市部ばかりでなく農村部でも新たな消費を喚起する流れに変調の兆しはない。
(図表-9)固定資産投資(農家の投資を除く) 【固定資産投資】
投資の動きを見る上で重要なのが固定資産投資(除く農家の投資)である。年明けの1-2月期は前年同期比7.9%増と、17年10-12月期の同6.3%増(推定)を1.6ポイント上回るとともに17年通期の同7.2%増も上回った。内訳を見ると、製造業は同4.3%増と伸びが鈍化したものの、不動産開発投資が同9.9%増と伸びを高めたのに加えて、インフラ投資も同16.1%増と高水準の伸びを維持した(図表-9)。投資は17年7-9月期の同5.3%増(推定)をボトムに緩やかな回復過程にあると見られる。
(図表-10)輸出の先行指標 【輸出】
世界の工場といわれる中国では輸出の動きが景気の行方を左右する。年明け1-2月期の輸出額(ドルベース)は前年同期比24.4%増と、17年10-12月期の同9.7%増を大幅に上回った。輸出先別に見ると、日米欧向けが好調だったほか、ASEAN向けなど新興国向けも高い伸びを示した。また、輸出の先行指標を見ると、貿易輸出先行指数(中国税関総署)は横ばいを維持しているものの、新規輸出受注(中国国家統計局)は2ヵ月連続で拡張・収縮の分岐点となる50%を下回り、不透明感が浮上している(図表-10)。
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三尾 幸吉郎

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