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- 【アジア・新興国】インド医療事情と医療保険制度~モディケアとは何か
2018年03月20日
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(4)医療保険制度の概況
現在、全国的に導入されている医療保険制度は大きく3つ存在する。このうち公的医療保険制度としては、(1)公務員を対象とする中央政府医療制度(CGHS:Central Government Health Scheme)と、(2)一部の民間企業の職員および家族を対象とする従業員州保険制度(ESIS:Employees' State Insurance Scheme)の2つがある。そして(3)国家健康保険制度(RSBY:Rashtriya Swasthya Bima Yojana)は、上記の公的保険制度と民間医療保険に加入できない貧困層が政府支援を受けて民間保険へ加入できる制度である(図表7)。
公的医療保険制度であるCGHSとESISは、公務員と一部の民間企業の従業員、その家族が対象であるが、インフォーマルセクターが大半を占めるインドにおいては、その国民カバー率は低く、CGHSとESISを合わせても人口の1割にも満たない。ところが、2008年にはRSBYが導入されたことにより、国民カバー率は全体の2割にまで増加することとなった。
現在、全国的に導入されている医療保険制度は大きく3つ存在する。このうち公的医療保険制度としては、(1)公務員を対象とする中央政府医療制度(CGHS:Central Government Health Scheme)と、(2)一部の民間企業の職員および家族を対象とする従業員州保険制度(ESIS:Employees' State Insurance Scheme)の2つがある。そして(3)国家健康保険制度(RSBY:Rashtriya Swasthya Bima Yojana)は、上記の公的保険制度と民間医療保険に加入できない貧困層が政府支援を受けて民間保険へ加入できる制度である(図表7)。
公的医療保険制度であるCGHSとESISは、公務員と一部の民間企業の従業員、その家族が対象であるが、インフォーマルセクターが大半を占めるインドにおいては、その国民カバー率は低く、CGHSとESISを合わせても人口の1割にも満たない。ところが、2008年にはRSBYが導入されたことにより、国民カバー率は全体の2割にまで増加することとなった。
3―モディケアの位置づけ
2月1日のジャイトリー財務相の予算演説では、NHPSは約1億世帯(約5億人)の貧困層が対象となり、1世帯当たり年間50万ルピー(約82万円)を上限として医療費を政府が補助する医療保険制度であると発表された。NHPSが現行の医療保険制度のなかで、どのような位置づけにあるのか、これまでに政府が明らかにした制度概要を踏まえて整理みよう。
NHPSは貧困層にかかる医療費の自己負担を軽減することを目的とした制度であり、現行のRSBYを拡張したものだ。来年度以降、RSBYはNHPSに改名される。制度変更のポイントとしては、主に以下の2つが挙げられる。
1つは制度が適用される対象者の拡大だ。現行のRSBYで対象となる貧困層は約6千万世帯(1世帯の人数制限は5人)だが、NHPSでは更に拡大して約1億世帯(人数制限なし)が制度の恩恵を受けることができるようになる。もっともNHPSとRSBYが対象とする貧困層は概ね包含関係にあるため、新たに対象となるのは最大で3.5億人程度になりそうだ。これは全国民の4分の1程度であり、うまくいけば医療保険制度のカバー率は25%程度上昇することになる。
もう1つは1世帯当たりの医療費上限が50万ルピーまで引き上げられることだ。これは現行のRSBYの3万ルピーの約17倍であり、貧困層がより手厚い恩恵を享受することができるようになることを意味する。
一方、政府の費用負担は重くなる。公費負担は現行のRSBYの187.5億ルピー(2016年度予算)から、NHPSでは500-600億ルピーまで拡大すると見込まれている。またNHPSの政府の負担割合は、一部の州を除いて中央政府60%、州政府40%とされ、RBSY(中央政府75%、州政府25%)と比べて州政府の負担がより大きくなる仕組みになっている。州毎に財政余力が異なるため、モディケア導入に消極的な州政府もあるようだ。
政府はNHPSをオバマケアになぞらえて「モディケア」と称した。確かにNHPSは政府の補助を受けて民間医療保険に加入できるようになる点ではオバマケア同様の制度であると言えるが、既にRSBYが存在していることを踏まえれば、NHPSに目新しさはない。しかしながら、従来に比べて最大3.5億人が新たに医療保険制度の恩恵を受けられるようになる影響は大きい。NHPS導入により、医療保険制度の国民カバー率は現行の2割強から5割程度にまで達すると予想され、野心的な医療保険制度の改革と評価できる。
インドの医療保険制度は着実に拡がっているとはいえ、制度の対象から外れる国民は多く、NHPSの給付金額には世帯ごとに上限もある。NHPS導入により、インドの自己負担の割合は今後低下するとはいえ、世界的に見て大きい水準であることには変わりないだろう。インドは、全国民が容易に医療へのアクセスが可能となるユニバーサル・ヘルス・カバレッジの実現を目指している。今後、目標達成に向けて政府は更なる取組みが求められる。
NHPSは貧困層にかかる医療費の自己負担を軽減することを目的とした制度であり、現行のRSBYを拡張したものだ。来年度以降、RSBYはNHPSに改名される。制度変更のポイントとしては、主に以下の2つが挙げられる。
1つは制度が適用される対象者の拡大だ。現行のRSBYで対象となる貧困層は約6千万世帯(1世帯の人数制限は5人)だが、NHPSでは更に拡大して約1億世帯(人数制限なし)が制度の恩恵を受けることができるようになる。もっともNHPSとRSBYが対象とする貧困層は概ね包含関係にあるため、新たに対象となるのは最大で3.5億人程度になりそうだ。これは全国民の4分の1程度であり、うまくいけば医療保険制度のカバー率は25%程度上昇することになる。
もう1つは1世帯当たりの医療費上限が50万ルピーまで引き上げられることだ。これは現行のRSBYの3万ルピーの約17倍であり、貧困層がより手厚い恩恵を享受することができるようになることを意味する。
一方、政府の費用負担は重くなる。公費負担は現行のRSBYの187.5億ルピー(2016年度予算)から、NHPSでは500-600億ルピーまで拡大すると見込まれている。またNHPSの政府の負担割合は、一部の州を除いて中央政府60%、州政府40%とされ、RBSY(中央政府75%、州政府25%)と比べて州政府の負担がより大きくなる仕組みになっている。州毎に財政余力が異なるため、モディケア導入に消極的な州政府もあるようだ。
政府はNHPSをオバマケアになぞらえて「モディケア」と称した。確かにNHPSは政府の補助を受けて民間医療保険に加入できるようになる点ではオバマケア同様の制度であると言えるが、既にRSBYが存在していることを踏まえれば、NHPSに目新しさはない。しかしながら、従来に比べて最大3.5億人が新たに医療保険制度の恩恵を受けられるようになる影響は大きい。NHPS導入により、医療保険制度の国民カバー率は現行の2割強から5割程度にまで達すると予想され、野心的な医療保険制度の改革と評価できる。
インドの医療保険制度は着実に拡がっているとはいえ、制度の対象から外れる国民は多く、NHPSの給付金額には世帯ごとに上限もある。NHPS導入により、インドの自己負担の割合は今後低下するとはいえ、世界的に見て大きい水準であることには変わりないだろう。インドは、全国民が容易に医療へのアクセスが可能となるユニバーサル・ヘルス・カバレッジの実現を目指している。今後、目標達成に向けて政府は更なる取組みが求められる。
4―おわりに
政府は今年10月までにNHPSを導入する予定であるが、未だ不明な点が多い。新たな医療保険制度のもとで適切な医療を適当な価格で受けられる仕組みをどう構築するのか、また曖昧なままとなっている給付範囲などの詳細も今後明らかになるだろう。場合によっては実現可能性に疑問が生じる可能性もあるため、議論の行方を注視していきたい。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2018年03月20日「保険・年金フォーカス」)
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03-3512-1780
経歴
- 【職歴】
2008年 日本生命保険相互会社入社
2012年 ニッセイ基礎研究所へ
2014年 アジア新興国の経済調査を担当
2018年8月より現職
斉藤 誠のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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