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WeWorkが不動産業にもたらす変革
基礎研REPORT(冊子版)3月号

佐久間 誠
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1―WeWorkの概要
WeWorkは2010年に米国で設立された。同社は急速に事業を拡大しており、現在は20カ国64都市200拠点で17万人以上が利用している。日本でもソフトバンクと折半で合弁会社を設立し、2018年から事業展開を本格化する。六本木、銀座、新橋、丸の内の4拠点の開設を手始めに、日本でも事業を拡大していく方針だ。
2―WeWorkの新規性
しかし、WeWorkの特異さは金融市場での評価に表れている。米調査会社CB Insightsによれば、同社の企業価値は200億ドル(約2.3兆円)とされる。ここまで評価が高いのは、同社が不動産会社ではなく、AmazonなどのようなIT企業だと見做されているためだ。
WeWorkの新規性は、コワーキングスペースという従来からある不動産業に、ヒトやモノ、サービスなどをマッチングするプラットフォームというIT業的要素を追加したことだ。これによりデータを蓄積することが可能になり、データを活用してオフィス環境の変革に取り組んでいる。
1|コミュニティ・プラットフォーム
WeWorkはコワーキングスペースのメンバー(テナントや利用者)同士を結びつけるコミュニティ・プラットフォームを構築した。同社では、コミュニティの構築や円滑なコミュニケーションが図れるようにSNS機能をもつメンバー用のアプリを開発している。同アプリでは、メンバーが滞在する施設だけでなく世界中のメンバーとつながることができる。また同社ではオンラインだけでなくリアルな繋がりも重視している。メンバー同士を繋げる役割を果たすコミュニティ・マネージャーと呼ばれる職員を各施設に配置し、コワーキングスペース内のコミュニティの醸成を図っている。
同社のコミュニティ・プラットフォームは、メンバー同士の関係性を構築するだけでなく、求人や業務のアウトソーシングなど、メンバー間の取引を活性化する。同社は、コミュニティを介してメンバー同士がサービスを提供しあうビジネス版シェアリングエコノミーを創造しているとも言える。同社内のコミュニティを活用することで、メンバーは多くのビジネス課題を完結できてしまう可能性を秘めている。
2|サービス・プラットフォーム
WeWorkはオフィスというハードだけでなく、福利厚生や業務支援などのソフトについても、関連企業と提携することで、小分けにして提供している。これは小規模企業や個人事業主が、従来享受することが出来なかった大企業並みのサービスを受けられることを意味する。また提携企業にとっては、有望なスタートアップ企業などを早期から囲い込むことが可能になる。
さらに同社は2017年4月にWeWorkServices Storeというサービスを開始した。同Storeでは、100以上の企業が250以上のソフトやサービスを提供している。また、企業の成長ステージに合わせた活用事例なども紹介され、メンバーがレビューを投稿することも可能だ。これはスマートフォンなどのアプリストアのビジネス版であり、企業向けのソフトやサービスの提供者とメンバーを結びつけるプラットフォームだ。これは従来の福利厚生や業務支援関連のサービスをプラットフォームへと進化させたものである。
3|データに基づくオフィスの再定義
WeWorkは、社内に建築士やデザイナーなどを抱え、オフィス空間を自社でデザインしている。またデータを活用することで、オフィスの生産性向上を図ることを重視している。これはメンバーの生産性を向上することに加え、同社の運営コストを削減することも意味する。例えば、ゴミ箱一つにしても、拠点のメンバー数からどのくらい必要か、どのように配置すれば、利用者・運営者にとって効率的かデータをもとにデザインするなど、同社が提案する対象は細部に及ぶ。
また、AI(人工知能)などの先端技術の活用にも積極的である。同社では、800以上の会議室の活用状況をAIによって分析し、会議室の稼働率を最適化する取り組みも進めている。 さらに同社はコワーキングスペースで培ったノウハウを活かして、大企業に対して、ワークプレイスの設計やデザインに加え、運営までを行うサービスを提供している。
同社がこのようにデータを活用できるのも、多数のコワーキングスペースを運営し、データを蓄積しているからである。これまで不動産におけるデータ活用は、他分野と比較して遅れており、オフィス空間は最大公約数的な造りとなることが多かった。今後、データの蓄積と活用が進めば、利用者のニーズやアクティビティにあわせて最適化された空間へと、オフィス環境が変革されていく可能性がある。
3―WeWorkの将来像
4―不動産業にもたらす変革
これまでコワーキングスペースは不動産賃貸業の色彩が強かった。しかし、WeWorkは「Space as a Service」を提供しているとされるように、同社業務はITを活用した不動産サービス業と呼ぶべきものである。不動産業のサービス化により、今後は不動産の立地や建物などオフィスビルの実力だけでなく、施設の運営・管理能力など含めた総合力が問われることになっていくだろう。これは様々な不動産が、運営などの成果次第で収益が変動するオペレーショナル・アセットになっていくことを意味する。
同社がもたらしたイノベーションは、人口減少などにより先細りが懸念される日本の不動産業にとって、ビジネスモデルを問い直す上で有益な視座を提供している。
(2018年03月07日「基礎研マンスリー」)
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