2018年02月21日

中国経済見通し~マクロプルーデンス政策の強化で「安定成長」へ軟着陸、リスクの所在は住宅バブル崩壊

三尾 幸吉郎

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4.輸出の動向

輸出は堅調に推移している。17年の輸出額(ドルベース)は前年比7.9%増と、16年の同7.7%減からプラスに転じた。世界経済の回復が続く中で、米国、欧州、日本など先進国向けの輸出が増えたほか、「一帯一路」沿線国向けも輸出増に寄与した。また、輸出の先行指標となる新規輸出受注(中国国家統計局)や貿易輸出先行指数(中国税関総署)が高水準を維持していることから、今後もしばらくは堅調を維持すると見られる。一方、輸入額(ドルベース)も大きく増加、前年比15.9%増と16年の同5.5%減からプラスに転じた。資源高を受けてサウジアラビア、オーストリア、アフリカなどからの輸入が急増した。その結果、貿易黒字(モノ)は4,225億ドルと前年比17.1%減となった(図表-8)。但し、輸入物価の上昇率が輸出物価のそれを大きく上回ったため、ニッセイ基礎研究所で推計した実質貿易黒字(モノ・サービス)は約3割増加した。
(図表-8)輸出額(ドルベース)の推移 18年以降を考えると、世界的な金融引き締めの影響でここもとの資源高は一服すると見ているため、17年の成長率を押し上げた資源高による外需(純輸出)のプラス寄与は剥落するだろう。また、輸出に関しては世界経済の持続的回復や「一帯一路」の沿線地域への影響力拡大がプラス要因となるものの、国内生産の製造コストが上昇した中で、製造拠点を後発新興国へ移転する動きが国内企業でも盛んなため、輸出の伸びは1桁台前半に留まると見ている。
 

5.金融の動向

5.金融の動向

中国人民銀行は18年2月5-6日、工作会議を開催し「安定の中で前進を求める(稳中求进)」という総基調を堅持する方針を示すとともに、2018年の主要任務を提示した。具体的には、[1]金融政策の穏健・中立性の維持、[2]金融リスクの確実な防止・解消、[3]重要分野とカギとなる部分の金融改革の適切な推進、[4]金融市場の平穏で健全な発展の持続推進、[5]人民元国際化の着実な推進、[6]国際金融協力と世界経済金融ガバナンスへの深い関与、[7]外貨管理体制改革の一層の推進、[8]金融サービスと管理水準の全面的引き上げ、[9]内部管理の持続強化の9項目を挙げている。

その中身を詳細に見ると、シャドーバンキング(影子银行)、不動産金融、ネット金融、債券デフォルト処理メカニズム整備を挙げるなどマクロプルーデンス政策(宏观审慎政策)による「金融リスクの確実な防止・解消」に力点が置かれており、2018年はその金融引き締め効果が景気を冷やす要因となるだろう。また、金利・為替レートの市場化や人民元国際化など金融改革の推進も強調している。しかし、金融改革を急いで進めれば、金利・為替レート・株価が不安定化する恐れがあり、習経済学(シーコノミクス)が最重視する「安定」を損なうことにもなりかねない。従って、2018年の金融改革のスピードは緩やかなものに留まる可能性が高いと見ている。
 

6.中国経済の見通し

6.中国経済の見通し

(図表-9)経済予測表 1|経済見通し
18年の成長率は前年比6.5%増、19年は同6.3%増と緩やかな減速を予想する。過剰設備・債務の整理やマクロプルーデンス政策による金融の健全化が景気にマイナス要因となるものの、ITを牽引役とした内需(最終消費、総資本形成)の好調は持続、中国経済は「6.5%前後」の安定成長へ軟着陸すると見ている。また、18年の消費者物価は前年比2.2%上昇、19年は同2.4%上昇と予想する(図表-9)。
2|リスクの所在
リスクは“住宅バブル”にあると考えている。住宅バブルが崩壊すれば、金融システムが不安定化する恐れがあるからだ。そもそも中国では、過剰設備・過剰債務問題を解消すべくゾンビ企業の淘汰を進めており、不良債権は増加しやすい2。それに加えて、ここもと急増した住宅ローンの返済が滞るようだと、銀行の不良債権は急増しかねない(図表-10)。中国の住宅価格は長らく右肩上がりを続けており、一時的に調整しても再び最高値を更新してきたため、一般庶民が取得できない水準まで上昇してしまった3。図表-11に示したニッセイ基礎研究所の試算を見ると、全国平均では平均賃金の7.6倍(北京は約17倍)となっており、4-6倍が適正とされることを勘案すれば下落余地は大きい。折しも中国政府はマクロプルーデンス政策による「金融リスクの確実な防止・解消」に動き出した。住宅バブルを崩壊させず上手くコントロールできるか、中国政府の手腕が試される。
(図表-10)不動産融資残高の推移/(図表-11)地域別の住宅価格/所得倍率(2016年)
 
 

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三尾 幸吉郎

研究・専門分野

(2018年02月21日「Weekly エコノミスト・レター」)

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