2018年02月19日

イタリアの選挙戦が映すもの-失業と格差に追い打ちをかける難民と財政の制約

経済研究部 主席研究員   伊藤 さゆり

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イタリアの有権者は引き続き失業問題を憂慮。背後には貧困・社会的排除も

「ユーロバロメーター」では、各加盟国で「自国が直面する最も深刻な問題」についても調査している。

イタリアでは、失業(回答の42%)、移民(33%)、経済情勢(22%)が上位の3項目だ。前回総選挙が行われた2013年の5月時点の調査では、失業が58%でトップ、経済情勢が42%でそれに続き、移民を挙げた割合は僅か4%だった。

失業は、景気の回復とともに方向として改善しているのだが、17年12月時点で10.8%とユーロ圏平均の8.7%を上回る。失業者数は279万人だが、不完全雇用パートタイム労働者が72万人、求職活動をしていない追加的な潜在労働力人口が381万人おり、広義の失業者は、失業統計が示すよりも遙かに多い。失業の解消の遅れは貧困や社会的排除とも表裏一体だ。EUでは2020年までに2008年の水準から貧困・社会的排除者(注2)を2000万人減らす目標を掲げている。イタリアは220万人の削減の目標を掲げたが、実際には16年までに305万人増加し、1813万人が貧困あるいは社会的に排除された環境下で暮らしている。

失業や貧困の問題の深刻さの度合いに地域差が大きいこともイタリアの特徴だ。イタリアは、EU加盟国の中で、欧州委員会統計局(eurostat)が作成するEU加盟国の第二種地域統計分類単位(NUTS2)の失業率の一国内の格差が最も大きい。地図で示すと北部、特に北東部は低めで、南部や島部が高い傾向が鮮明だ(図表6)。失業率低下のペースにも地域差があり、南部の低下ペースは鈍い。「ユーロバロメーター」では地域毎の結果を示していないが、イタリアで失業を「最も深刻な問題」と捉えている割合は、南部で高いものと思われる。景気や雇用の回復が実感しにくい南部では、反エスタブリュッシュメントの五つ星運動に4割近くの支持が集まり、政権与党である民主党に厳しい。

(資料2)社会保障移転後の可処分所得の全国中央値の60%の貧困ライン未満の相対的な貧困のほか、物質的な剥奪、18歳から59歳の年齢層の者が、働ける時間の20%以下しか働けていない家庭の者のいずれかにあてはまる人口。
図表6 第二種地域統計分類単位(NUTS2)の失業率(2016年)

難民の玄関口となるイタリア。移民問題も争点化

難民の玄関口となるイタリア。移民問題も争点化

移民問題は、前回13年の総選挙では、関心が低かったが、今回は争点の1つとなっている。

景気が回復に転じたことで経済情勢への懸念が後退する一方、15年夏のシリアなどからの難民の大量流入と前後して、移民とテロへの警戒の高まりは、イタリアばかりでなく、広くEU加盟国に観察される。ドイツ、オーストリアでは、移民が最も深刻な問題の第1位となっている。両国の選挙で、移民に対して厳しい姿勢を掲げる政党が支持を広げた。

2017年にはEU全体への難民流入者数が明確に減少したが、イタリアでは増加が続いた(図表7)。EUへの流入は、トルコとの間で16年に締結した協定によって、トルコからギリシャに渡るルートが封鎖されたことで減少に転じた。しかし、その反動もあり、リビア経由で地中海を渡り、イタリアに入る難民はむしろ増加した。17年夏にイタリアがリビアと密入国業者を取り締まる協定を締結したことをきっかけに、ようやく前年水準を下回り始めたばかりだ。

ギリシャとイタリアが受け入れた16万人の難民のEU加盟国間での分担政策も、東欧諸国の強い反発があり、進展しておらず(注3)、両国の難民キャンプに多くが足止め状態になっている。後述のとおり、イタリアの財政事情は苦しいが、国境管理のため、名目GDP比0.25%相当の財政負担も強いられている。

難民や移民の流入に比較的寛容だった欧州北部の国々でも、大量の流入への警戒が強まっている。イタリアの場合、玄関口となっているのが失業や貧困の問題がとりわけ深刻な地域であり、経済的移民の流入が、失業の解消や所得の向上の妨げるとの警戒も働きやすい。
中道右派連合は、不法移民の送還など移民対策と国境管理など移民政策への厳しい姿勢で支持を広げようとしている。

(注3)期限は17年9月であったが、イタリア政府が欧州委員会に提出した暫定予算案によれば、17年10月6日までにイタリアからの域内への移転は9353万人に留まっている。
 

財政政策は総じて拡張的、しかし、EUの財政ルールが制約となる

財政政策は総じて拡張的、しかし、EUの財政ルールが制約となる

経済・雇用の回復力が鈍く、失業と貧困の問題が依然深刻であることから、財政面での公約は揃って拡張的だ。中道右派連合は、最低所得補償やフラット・タックス(単一税率)を掲げる。

イタリアの有権者は、主要政党が揃って掲げる財政拡張的な公約の実現を必ずしも信じていないとされる。実際、拡張的な財政政策の公約を実行に移そうとしても、EUの財政ルールが制約となり、限界がある。

イタリアは、「財政赤字対名目GDP比3%以下」という過剰な財政赤字の基準はクリアしている。しかし、政府債務残高の対名目GDP比は3次にわたる支援と債務再編が必要になったギリシャに次いで高い。債務危機を教訓に改定されたEUの財政ルールは過剰債務国に厳しくなった。「政府債務残高対名目GDP比60%」という基準を超えるユーロ導入国に継続的な削減への取り組みを求める。14年度からは、毎年の予算案の中期財政目標(MTO)との適合性を判断する事前審査も制度化された。イタリアは、この予算前審査で、14年度から18年度まで、毎年、非適合のリスクが指摘されたユーロ圏内で唯一の国だ(注4)。欧州委員会が導入した財政監視における柔軟化措置を活用する度合いも高い(注5)

17年秋に欧州委員会に提出した暫定予算案では、17年度名目GDPの3.8%だった利払い費は、政府債務残高のGDP比の低下により減少を見込むが、それでも18年度3.6%、19~20年度は3.5%だ。均衡財政の原則への適合のため、基礎的財政収支を、利払い費を概ねカバーする3.3%に引き上げる方向が示されている(図表8)。拡張的財政政策どころか、財政健全化措置の手綱を緩められない状況が続くことになる。
図表7 難民申請者数/図表8 イタリアの財政収支、基礎的財政収支、利払い費の実績と予測
(注4)ギリシャのように欧州安定メカニズム(ESM)などから支援を受けている国は、支援プログラムの終了までは審査対象とならない。
(注5)European Fiscal Board, “Annual Report 2017”, November 2017及びEuropean Commission, “2018 Draft Budgetary Plans : Overall Assessment”, 22.11.2017

 

EUの財政ルールにも見直しの余地はある

EUの財政ルールにも見直しの余地はある

主要政党の公約は、総じて拡張的だが、基本的に財政赤字の3%ルールは尊重しつつ、過度の緊縮を迫るルールの見直しを求めるというトーンだ。特にターゲットになっているのは、均衡財政を義務付ける「財政協定」。同協定は、EU条約の枠外で政府間協定として締結したもので、13年1月に発効した。

EU内でも、債務危機対策で段階的に強化された現在の財政ルールは複雑過ぎるとの認識がある。財政面でのユーロ制度改革は、ユーロ圏予算の創設やユーロ圏財務相ポストなどが注目されることが多いが、財政ルールの簡素化も柱の1つと位置付けられている。

ポピュリスト的公約を競い合うイタリアの政治への批判は強いが、イタリアで、失業や貧困は深刻な地域があり、ユーロ導入後の実質可処分所得が低下していることを踏まえると、財政の自由度を高めたいという主張は理解できる部分もある。

筆者は、3月初にかけての定例の欧州出張で、ブリュッセルのほか、総選挙直前のイタリア(ミラノ)にも立ち寄り、イタリアの財政、構造問題、EUの財政ルールの専門家らと意見交換の機会を持つ予定だ。イタリアの苦境の脱却に必要な政策はどのようなものなのかなど、調査の結果について別稿にまとめたいと思っている。
 
 

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経済研究部   主席研究員

伊藤 さゆり (いとう さゆり)

研究・専門分野
欧州経済

(2018年02月19日「Weekly エコノミスト・レター」)

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