2018年01月15日

欧州保険会社の利回り追求に向けた投資行動の傾向に関するEIOPAによる調査報告書

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4|EIOPA会長のコメント
EIOPAのGabriel Bernardino会長は、「この調査は、低金利環境への自然な反応である保険会社の利回り追求の投資行動を指摘している。」「より流動性のない投資やインフラストラクチャーなどの非伝統的な資産種類に対するエクスポージャーの増加は、資産の多様化を改善するだけでなく、保険会社の新たなリスク管理能力と監督上の注意を必要とする。」「同時に、我々の想定通り、ソルベンシーIIの影響による最初の観察は、長期投資の増加と株式への安定的な配分を示している。」「EIOPAは、保険会社がリスク負担能力に沿ったままであり続けることを確実にするために、保険会社の投資行動を注意深く監視し続ける。」と語った。

(参考)EIOPAのプレスリリース資料

EIOPAは、保険会社の投資行動における利回り追求傾向を確認している

・EIOPAは、持続的な低利回り環境で特徴付けられる過去5年間の保険会社の投資行動の変化と傾向を特定するための調査を実施した。

・信用格付けのより低い確定利付証券へのエクスポージャーの増加

・非上場株式のようなより流動性のない投資やインフラストラクチャー、モーゲージ、ローン、不動産のような非伝統的な資産種類へのエクスポージャーの段階的な増加

・債券ポートフォリオの平均満期の増加

・株式へのエクスポージャーは大きくは変わっていない。

・これらの傾向は、全体として会社及びセクターのリスクプロファイルに影響する可能性があるため、監督当局による密接な監視が必要となる。

フランクフルト、2017年11月16日 – 本日、欧州保険年金監督局(EIOPA)は、進行中の低利回り環境に対する監督上の対応の一環として、過去5年間の欧州保険会社の投資行動の傾向を分析した調査結果を発表した。この調査では、信用格付けのより低い確定利付証券へのエクスポージャーの増加や、非上場株式やローンなどのより流動性のない投資など、保険業界の利回り追求行動に関連する可能性のある傾向が明らかになった。さらに、債券ポートフォリオの平均満期は増加したが、株式配分は大きくは変わらなかった。大規模な保険グループは、インフラストラクチャー、モーゲージ、ローン、不動産などの非伝統的な資産種類により多くの投資を行っているようだ。

この調査は2017年第1四半期に実施され、大手保険グループの貸借対照表の資産サイドに焦点を当てている。この結果は、欧州連合加盟国16カ国の87の大規模な保険グループと4つの単独会社からの提出に基づいている。

EIOPAのGabriel Bernardino会長は、「この調査は、低金利環境への自然な反応である保険会社の利回り追求の投資行動を指摘している。より流動性のない投資やインフラストラクチャーなどの非伝統的な資産種類に対するエクスポージャーの増加は、資産の多様化を改善するだけでなく、保険会社の新たなリスク管理能力と監督上の注意を必要とする。同時に、我々の想定通り、ソルベンシーIIの影響による最初の観察は、長期投資の増加と株式への安定的な配分を示している。EIOPAは、保険会社がリスク負担能力に沿ったままであり続けることを確実にするために、保険会社の投資行動を注意深く監視し続ける。」と語った。

投資行動レポートは、EIOPAのウェブサイトから入手できる。

 

3―調査報告書の結果の具体的内容

3―調査報告書の結果の具体的内容

この章では、調査報告書が指摘したポイントについて、その具体的内容を報告する。なお、図表は全て調査報告書からの抜粋である。

1|全体的な投資配分
債券、株式、その他(商業用不動産、住居用不動産、ローン(除くモーゲージ)及びデリバティブ)の3つの主要分類への投資配分を定量的にみてみると、サンプル会社全体で過去の5年間で大きな変化はみられていない。

一方で、定性的には、半数以上(60%)のグループが、より流動性の低い資産への投資にシフトさせたと報告しており、これはいわゆる非流動性プレミアムによる利回り向上を目指したことによるものである。一方で、不確実性が増大している中で、短期的に新しい機会を獲得することを目指して、4分の1(24%)が流動性資産へのシフトを報告した。

また、多数(58%)が平均投資格付けの低下を報告したが、そのうちの40%は長期保有資産の格付け低下によるものであった。

全体的(サンプル会社全体で見た場合)には、調査は、定性的な観点から、投資行動の明確な変化を特定することは困難であるとしている。
図表 主要投資カテゴリー
2|債券投資
全体的に、債券投資の総投資資産に占める割合は過去5年間で大きくは安定的である。

債券投資の割合は国によって異なり、ドイツ、スペイン、フランス、イタリアでは85%以上となっているが、デンマーク、ノルウェー、スウェーデン、英国では75%以下となっている。

AAA格付けの債券の全体金額は、より低格付けの分類へのシフトで、大きく減少した。これは、利回り追求の確認とみることもできるが、欧州債務危機の影響で多くの国がこの間にAAA格付けを失ったことも関係していることを考慮する必要がある。
図表 格付け別の債券内訳
全体的に、総投資資産に占める国債投資の割合は、2011年の35%から2016年の40%に増加している。この傾向は多数の国で観測されている。

国債の「ホームカントリーバイアス」(母国の国債に投資する傾向)は、サンプル会社の国債全体の44%となっている。国別では、スペイン、イタリア、スウェーデンのように60%を超える国もあれば、ドイツ、デンマーク、オランダ、ノルウェーのように25%以下の国もある。
図表 ホームカントリーバイアス
全体的に、総投資資産に占める社債投資の割合は、2011年の42%から2016年の39%に若干減少している。

なお、CoCo債6の全体金額は2011年から約5%増加したが、総投資資産に占める割合は0.5%未満で非常に低い。

半数以上(56%)が債券ポートフォリオの満期構造の変化を観測し、殆どの会社で長期へのシフトが観測された。大多数でその増加は小さくモデレートなものだったが、いくつかのケースでより大きく増加した。

過去5年間で、半数以上(54%)が、利回り向上のため、国債の平均満期は増加したと回答したが、一方で、多数(58%)が社債の平均満期は減少したか又は変化無しと回答した。また、16%が債券ポートフォリオにおいて転換社債(CoCo債)へシフトしたと述べた。
 
6 「Contingent Convertible Bonds」:偶発転換社債とも呼ばれ、制限条項が付いた転換社債
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中村 亮一

研究・専門分野

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