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WeWorkのビジネスモデルと不動産業への影響の考察(1)-Amazonを参考にプラットフォーマーという視点からの分析

佐久間 誠
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1. はじめに:プラットフォーマーの脅威
不動産業ではデジタル化が遅れていることもあり、まだプラットフォーマーの脅威は顕在化していない。しかし、不動産業にも、技術革新による付加価値創造を目指す「不動産テック」の波が押し寄せてきている。不動産テック企業の多くは、2000年代後半以降に設立され、最近ではプラットフォーマーと見做される企業も現れ始めた。その中でも注目を集めている企業が、米コワーキングスペース大手のWeWork Cos Inc(ウィーワーク・コス・インク、以下WeWork)である。
プラットフォーマーが多くの産業に破壊的イノベーションをもたらしたように、WeWorkも不動産業を変革するのだろうか。また変革をもたらすとすれば、不動産業をどのように変えるのだろうか。まだWeWorkの歴史は浅く、その情報も限られる。そこで本稿では2回に分けて同社のビジネスモデルや不動産業界への影響を読み解く。第1回は、Amazonを参考にプラットフォーマーの特徴や既存業界への影響などを整理する。そして第2回でWeWorkの新規性や戦略を分析し、不動産業や不動産市場にどのような変革をもたらすかを考察する。
2.プラットフォーマーの特徴と影響
プラットフォームとは、「異なる2種類以上のユーザー・グループを結びつけ、1つのネットワークを構築するようなサービスで、ユーザー・グループ間の取引を促すインフラとツールを提供するもの1」である。「プラットフォーム=IT」といった印象を持つことが多いが、プラットフォームというビジネスは何もITに限ったものではない。不動産業でも、不動産仲介業は売主(貸主)と買主(借主)を結びつけるプラットフォームであり、ショッピングモールなどの商業施設はテナントと消費者を結びつけるがプラットフォームである。
しかし、近年注目を集めるプラットフォームの多くはIT産業で誕生している。従来の産業ではプラットフォームを構築・拡大するのに、多くの資金と時間を要したが、IT産業では物理的なインフラを構築する必要性が少ないため、プラットフォームを低コストかつ短期間で規模を拡大することができる。また、ITを活用すれば、プラットフォームのデータを低コストで収集・分析することができるため、データをもとにプラットフォームの利用価値を高めることもできる。そのため、「プラットフォーマー」という用語も、一般的にはプラットフォームを提供するIT企業のことを指す。
Amazonは1995年に米国でCEOのジェフリー・プレストン・ベゾス氏が設立した。同社はECでの書籍販売から事業を開始したが、徐々に取扱商品を拡大し、現在は数億種の商品を取り扱うと言われる。また事業領域も拡大しており、現在ではECストアに加え、電子書籍デバイスであるKindleやAIスピーカーのAmazon Echoなどの開発・提供、クラウドサービスであるAmazon Web Service(以下AWS)など、幅広いビジネスを展開している。さらに米国をはじめ欧州や日本など14カ国で事業を展開し、世界各国に進出している。
設立当初のAmazonはプラットフォーマーではなかった。同社のECサイトで、他社は商品を販売することができず、同社のみが販売を行うインターネット上の小売企業でしかなかったためである。しかし、カスタマーレビューやマーケットプレイスなどのサービスを開始することで、プラットフォーマーへと進化を遂げている。
カスタマーレビューとは、消費者が商品の情報や感想を投稿し、他の消費者が参考にできるというものだ。これまで書籍の紹介は出版社や書店が行ってきたが、Amazonは消費者が自由に書籍の感想や評価を共有することを可能にした。これは双方向性と匿名性があるインターネットだからこそ実現できた機能である。同機能は、レビューの書き手と読み手という2つのユーザー・グループを結びつけるプラットフォームだと言える。
またマーケットプレイスとは、米国では2000年、日本では2002年から開始したサービスで、第三者がAmazonのサイトに新品や中古の商品を出品できるようにしたものだ。これは、商品を出品する販売者と消費者という2つのユーザー・グループを結びつけるプラットフォームである。
1 Eisenmann, Parker and Alstyne(2006)を参照。プラットフォームという言葉には様々な定義があり、本稿では多面的プラットフォーム(Multisided Platform)をプラットフォームとした。他の定義などは、Hagiu and Wright(2015)や加藤(2016)に詳しい。
ネットワーク効果とは、ユーザーが増えれば増えるほど、ユーザーの効用が高まる効果を意味し、プラットフォームにとって最も重要な経済性の概念である。またネットワーク効果には、直接ネットワーク効果(ユーザー・グループ内のサイド内ネットワーク効果)と間接ネットワーク効果(ユーザー・グループ間のサイド間ネットワーク効果)がある。
直接ネットワーク効果は、ある立場のユーザーが増加することで、同一の立場の他のユーザーの効用が向上する効果である。直接ネットワーク効果の例として挙げられることが多いのが、電話やSNSだ。これらは加入者が少ないと利用価値が小さいが、加入者が増えれば増えるほど利用価値が高まる。
間接ネットワーク効果は、ある立場のユーザーが増加することで、別の立場のユーザーの効用が高まる効果である。これはAmazonのビジネスモデルにおける販売者と消費者の好循環を説明する経済性だ。またカスタマーレビューでも間接ネットワーク効果は働く。レビューの書き手が多いほど、多くの商品のレビューが集まり、またレビューの信頼性が高まるため、読み手の利便性が高まる。また読み手が多いほど、書き手のインセンティブが大きくなり、さらに書き手を呼び込むという好循環をもたらす。カスタマーレビューは、今では業界標準となり、多くのECサイトで導入されている。しかし、最もレビュー数の多いAmazonの利便性が最も高く、それがさらにレビュー数を集める要因となるため、競合他社がAmazonに追いつくことは容易ではない。
(2018年01月09日「不動産投資レポート」)
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