2018年01月09日

EIOPAが2016年SFCR(ソルベンシー財務状況報告書)に関する分析結果を公表

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3―今回の監督声明で示された重要な調査結果及び改善領域

この章では、「24|今回の監督声明の重要な調査結果及び改善領域の概要」で述べた項目等の具体的内容について報告する。EIOPAは、(再)保険会社及びグループに、比例原則を損なうことなく、SFCRに関する以下の重要な調査結果及び改善領域について考慮することを奨励している。
1|SFCRの公表状況について
大半の保険会社及びグループは、適時に(単体/グループ)SFCRを公表し、関連するソルベンシーIIの要件を一般的に遵守した。いくつかのケースでは、グループはSFCRを全ての利害関係者がアクセスできるようにするために一層の努力をしていた。SFCRは一般に、殆どの公開企業のウェブサイトで簡単に見つけることができる。しかし、一部の企業は依然としてウェブサイトを所有していない。保険グループのウェブサイトでは、一般的に、グループSFCRに加えて、グループの主要会社の単体SFCRも同じアドレスで利用でき、英語のバージョンが用意されており、全グループに関するアクセスを容易にしている。報告書は、委任規則附属書XXの構造に従うが、適用外の項目については、その情報が適用外であることを明確に示すことが重要である。
2|SFCRの要約と言語スタイル
SFCRの情報を開示するために異なる言語スタイルと異なるフォーマットを使用することは、全てのタイプのステークホルダーに対する共通の開示アプローチの定義を難しくする。EIOPAは、SFCR、特にSFCRの要約の内容と言語スタイルを決定する時に注意が払われることを期待している。要約は、保険契約者が最も関心を持つSFCRの一部である。彼らは報告書のこの部分の主な受け手であるべきである。SFCRの残りのセクションでは、EU又は国内法の全内容がSFCRに再現されることは期待されない。代わりに、報告書には、関連する特定の情報を効率的に識別して読むことを容易にするために、各セクションの下に関係する会社固有の情報を含めるべきである。
3|より整合的で目的に適合した「SFCR要約」の必要性
EIOPAは、保険会社/グループが要約の内容と明確性を向上させることを奨励している。SFCRの要約は関連するSFCRの分野を網羅し、関連情報を簡潔に提供すべきである。保険契約者に対するSFCR要約の重要性と様々なアプローチの範囲を考慮して、EIOPAは監督上の観点から最低限の内容に対する期待を明確にしている。

具体的にはSFCRの要約は、少なくとも以下を含むべきとしている。

・会社のビジネスモデルとビジネス戦略の重要な要素と要因
・事業が運営される重要な事業ライン及び重要な地理的領域を含む会社の引受業績及び投資実績の主な指標
・報告期間中に発生したソルベンシー及び財務状況に重大な影響を与える重要な事業またはその他の事象
・ガバナンス体制の主要要素
・会社/グループの主要リスクに関する情報
・ボラティリティ又はマッチング調整がある場合とない場合のソルベンシー比率
・関連するリスクフリー金利期間構造への移行調整を伴わない又は技術的準備金に関する移行措置を伴わないソルベンシー比率を含む、移行措置利用へのアプローチ
・階層別のソルベンシー資本要件(SCR)の額とSCRをカバーするための適格自己資本額
・階層別の最低資本要件(MCR)の額とMCRをカバーするための適格基本的自己資本額
・前回の報告期間におけるMCRの非遵守又はSCRの重大な非遵守に関する情報
4|SFCRの文脈における定量的報告書テンプレート(QRTs
SFCRの附属書にQRTを置くことは実践的ではあるが、SFCRの本体に定量的及び定性的情報を提供することを妨げてはならない。QRTがカバーする関連情報と、SFCR付属書のQRTでカバーされていない追加情報(読者がテンプレート内の情報を理解できるようにするための背景情報等)は、SFCRに含める必要がある。適切であれば、QRTの一部を繰り返すか、SFCRの記述情報を補完する必要がある。
5|SFCRに基づくリスクとソルベンシーの自己評価(ORSA)に関する会社/グループ固有の情報
SFCRに基づくリスクとソルベンシーの自己評価(ORSA)に関する情報は、本質的に会社/グループ固有のものである。これは、プロセスにのみ言及し結果には言及しない場合でも、会社/グループ固有の情報を含める必要があることを意味する。開示される情報は、ORSAがどのように組織構造と意思決定プロセスに統合される必要があるのかに関して、法律、規制及び行政上の規定を繰り返す以上のことをすべきである。

EIOPAは、SFCRに少なくとも以下が含まれることを期待している。

・管理、経営、監督機関の関与を含む、ORSAの実施及び継続的監視のプロセス
・ビジネス戦略へのリンクとビジネス戦略の主な領域/リスクが、ORSAにおいて、すなわちソルベンシー全体のニーズにおいてどのように考慮されるか。
・ORSAのタイミングと頻度及び追加の評価を行うためのトリガー
6|様々なシナリオやストレスに対するリスク感応度に関するより構造化されたより包括的な情報
様々なシナリオやストレスに対するリスク感応度に関する情報は、より構造化され、より包括的でなければならない。SCRとリスク感応度に関する情報は、異なる会社/グループにわたって比較可能ではない。様々なシナリオやストレスに対する感応度の報告は、より構造化された形式で開示されることが期待されている。様々なリスクへの感応度は、「リスクプロファイル」の項に示されるべきである。さらに、各リスクセクションの下で、全体的な影響に関する情報が提供されるべきである。

EIOPAは、少なくとも以下が含まれることを期待している。

・使用される方法の説明、すなわちシナリオ、ストレステスト、様々なリスクに対する感応度分析
・将来の経営行動がどのように考慮されるかを含む、使用される方法の基礎となる前提に関する十分な情報
・特定のリスクに対するSCRの量及び全体のSCR比率のパーセンテージポイントとして測定された感応度の影響
・会社/グループの戦略とビジネスモデル、最も重要な感応度の管理への影響を考慮した結果の解釈
7|ソルベンシー目的の評価に使用される基礎、方法及び主な前提に関する情報
ソルベンシー目的の評価に使用される基礎、方法及び主な前提に関する情報には、会社/グループ固有の情報を含めるとともに、評価に関する不確実性に取り組むべきである。SFCRは、特に投資の評価に関するより関連した会社/グループ固有の情報、繰延税金資産及び繰延税金負債の評価、ならびに技術的準備金の評価を含むべきである。後者に関しては、SFCRは、経済的及び非経済的前提、将来の保険料の期待利益、将来の経営行動及び将来の保険契約者の行動など、計算の根底にある前提と少なくとも結び付けることにより、不確実性のレベルの記述を提供すべきである。
8|適格自己資本に関するさらなる包括的な情報
EIOPAは、事業計画に使用された時間枠及び報告期間にわたる重要な変更についての情報を含む、会社/グループの戦略及びビジネスモデルに関連して、会社/グループが、自己資本の管理に関する情報を開示することを奨励する。階層別に分類された適格自己資本項目の情報は、利用可能な範囲、従属範囲、期間、その品質を評価するために関連するその他の特徴を含む、最も重要な自己資本項目の説明によって補完されるべきである。
9|前年度の報告書との比較情報
来年度のSFCRにおいて、会社/グループは、SFCRの特定分野の比較情報も含める必要がある。 EIOPAは、比較情報を提供する際には、SFCRの記述部分において、可能な限り表のフォーマットが使用されることを期待している。これらの表には、報告年度の両方の金額を含めることができ、又は両方の報告年度間の重要な差異に焦点を当てることができる。 2つの報告年度間の重要な相違に関する定性的情報もまた報告書に含まれることが期待される。 現在及び前の報告年度のQRTの附属書だけでの発表は、比較要件に準拠していると考えるには不十分である。

EIOPAは比較情報が少なくとも以下の分野をカバーすることを期待している。

・報告期間中の集計レベル及び事業を行っている重要な事業ライン及び重要な地理的領域毎の引受業績に関する質的及び量的情報
・報告期間中の投資のパフォーマンスに関する定性的及び定量的情報
・報告期間中に発生したその他の重要な収益及び費用
・技術的準備金の計算においてなされた関連する前提条件における重要な変更
・階層別の報告期間終了時における自己資本の構造、金額及び質に関する情報
 

4―まとめ

4―まとめ

以上、ここまで、EIOPAによるSFCRに関する最初の監督上の経験に関する分析結果の概要について報告してきた。これに対する欧州の保険業界団体であるInsurance Europe等の関係者からの公式な反応は、これまでのところ出ていない。

そもそも、欧州保険各社からの単体及びグループベースのSFCRの公表を受けての関係者の反応及び意見については、保険年金フォーカス「欧州保険会社が2016年のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)を公表(1)-全体的な状況報告-」(2017.7.11)等で報告した。その段階では、保険会社やアナリスト等のユーザーに加えて、ドイツの保険監督当局BaFinや英国の保険監督当局PRA(健全性規制機構)の保険監督責任者の反応を紹介した。

今回のEIOPAによる監督声明は、SFCRに対する監督当局からの初の公式見解を示した形になっている。これを踏まえて、関係者、特に作成者である(再)保険会社及びグループが、どのような意見を有し、具体的にどのように対応していくのかは大変注目されるところである。

今後のSFCRを巡る動きについては、引き続き注視していくこととしたい。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2018年01月09日「保険・年金フォーカス」)

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