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- 公的年金の支給開始年齢が引き上げられると考える人は、自分で老後の準備を進めているか?
公的年金は老後の生活費の中心となるはずだが、受けとれる年齢が上がるとすれば、それまでの間、自分で生活費を用意する必要がある。支給開始年齢が引き上げられる可能性が高いと考えている人は、どのような行動をするだろうか。老後の準備を行うには様々な手段がある。将来に必要なお金が足りないならば、現在は節約して将来に備えた貯蓄を増やすことが考えられる。あるいは、株式や株式投信へ投資することもできる。短期的には値下がりリスクはあるが、長期投資により高いリターンを狙うことで、老後に必要な金融資産を増やせる可能性がある。資産運用を行うであれば、NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)や、iDeco(イデコ:個人型確定拠出年金)などの、税制メリットがある制度を利用することもできる。
NISAとは、毎年一定金額の範囲内で購入した株式や株式投信などの金融商品から得られた運用益が非課税になる制度である。iDecoとは、毎年一定金額の範囲内で掛金を拠出し、預金や株式投信などの予め用意された金融商品で運用して、60歳以降に年金や一時金を受け取れる年金制度のことである。掛金や運用益が非課税になる。長期投資では複利の効果により非課税メリットは大きい。
そこで、2017年3月に30~60歳代の男性を対象にWeb上で実施した独自アンケートの結果を利用して、公的年金の支給開始年齢の引き上げの可能性と、将来に備えた貯蓄との関連性を調べてみた。「公的年金の支給開始年齢が、将来的に、2歳引き上げられる可能性」について、(1)可能性は低い、(2)どちらとも言えない、(3)可能性は高い、の3段階に区分して、(a)将来に備えるための毎月の貯蓄額(単位:月万円)、(b)株式や株式投信を保有する家計の割合、(c)NISAに加入している家計の割合、(d)iDecoを知らない家計の割合、を比較したのが図表1である。
(a)の将来に備えるための毎月の貯蓄額は、公的年金の支給開始年齢が引き上げられる、(1)可能性が低いと考える人の平均額は5.1万円、(3)可能性が高いと考える人の平均額は5.2万円であった。その差(=(3)高―(1)低)は、0.1万円であり、統計学的に有意な差はなかった。一方、(b)の株式・株式投信を保有する家計の割合では、(1)可能性低では45.4%であるのに対して、(3)可能性高では55.3%であり、その差は9.9%であった。支給開始年齢が引き上げられる可能性が高いと考える家計の方が、リスクをとって運用する傾向がある。
(c)のNISAに加入している家計の割合では、(1)可能性低では28.0%であるのに対して、(3)可能性高では35.6%に上昇している。また、(d)のiDecoを知らない家計の割合では、(1)可能性低では27.9%であるのに対して、(3)可能性高では9.7%に減少している。支給開始年齢が引き上げられる可能性が高いと考える家計の方が、NISAの加入率が高まる傾向、iDecoを知らないと答える家計の比率が低まる傾向がある。
株式や株式投信で老後に備えた長期の運用をするならば、NISAやiDecoのような税制上のメリットがある制度を利用した方が良い。アンケート調査の結果では、支給開始年齢の引き上げの可能性の違いで、これらの制度の加入率や認知率に差があった。支給開始年齢の引き上げの議論が本格化する前に、将来に備える手段であるこれらの制度の認知率や加入率を高めていくことが課題であろう。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2017年11月30日「研究員の眼」)
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