2017年11月20日

女性労働力率M字カーブの底上げだけが問題の本質なのか。-女性活躍推進データ再考:「補助人材」としての女性活躍推進にならないために

生活研究部 人口動態シニアリサーチャー 天野 馨南子

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2――女性の長期的な人材育成「後進国」

量的に労働市場に女性を送り込み、出産を機とした退職を防止し、非正規へ転換させない、という考え方だけで、真の女性活躍推進は進むのだろうか。

1|いまだ「後発開発途上国」とならぶ男女格差
国際的に日本における男女格差を見てみると、2016年10月に世界経済フォーラムが公表したジェンダー・ギャップ指数(男女格差)ランキングでは(男女間格差がない順で)日本はなんと144か国中111位という、非常に低い順位(下位4分の1グループ)となっている。

ジェンダー・ギャップ指数で0.660という日本の値は、エチオピア(0.662)、ネパール(0.661)、カンボジア(0.658)の3国と横に並ぶ値となっている(図表5)。

そしてこの3国はいずれも経済協力開発機構(OECD)の開発援助委員会(DAC)の定義において、「後発開発途上国」と定義されている国々である。日本のように経済先進国とされてきた国がいまだにこのような経済的には開発途上国とされる状況の国々と同等の女性活躍推進国であることを認識しておく必要がある。

図表からはなぜそのように下位なのかも知ることが出来る。全体順位は111位であるが、もっとも足をひっぱっているのは「経済への参加とその機会」の118位である。つまり女性が男性に比べて経済力をもっていない、またその機会も劣っている、と判定されているのである。

実は、「女性の労働力化」ランキングでは79位、「(同じ仕事の)賃金格差」ランキングでは58位とそこまで低位となっていない。そもそも日本には労働力率よりも、もっと深刻な問題があることが指摘されていることがわかる。

「収入格差」では100位、「司法・行政・民間の上級役職者」では113位、「専門・技術職」では101位、など日本が低位である理由となるランキング部門を数え上げればきりがないが、要は、労働市場における「量よりも質の問題」であるとの指摘を国際的には受けているのである。

「経済への参加とその機会」分野の118位(0.569)とは、同分野で同様の指数の0.56台の国を見てみるとチリ(0.565)、アンゴラ(0.565)となっている。
【図表5】ジェンダー・ギャップ(男女格差)ランキング2016
同調査で、識字率などの教育格差分野では多くの部門で世界1位の良好な水準を獲得している日本。

ということは、いかに女性の教育が「経済市場において大いなる無駄づかい」になっているかを示しているといえよう。
2|女性管理職はいらない?
結論から言えば、いまだ日本の女性活躍推進策は「仕事はやめないで、もてる能力に届かない仕事にどんどん就けるようにしましょう」といった掛け声にしかみえてこない。
 
実態は低給であったり、仕事の内容の成長・幅の拡大の可能性はゼロであったりしても、育児の傍ら、仕事時間や休日を調整可能な非正規社員を女性が選択する、就業転換マジックが働くことが、今まで見かけ上のM字カーブ緩和(V部分が緩やかになる)がみられるという議論の本当の姿であった。
 
子育て安心プランが6年間の保育についての話であり、その後の10年をどうするのか、という放課後問題と完全に一体化した上で「M字カーブ解消対策案」となっていないことも、いかに「女性の長期就業継続による能力開発」を考えていないかを示しているように見える。

「女性が就業を続けること」と、「能力開発が行われること」とは別の議論である。就業継続出来るようにしましょう、だけでは女性活躍推進とはいえないのである。
 
いかにこれまで長期に「世界トップクラスの女性の学力を仕事上で開花させる女性活躍推進がなされてこなかったか」を示す国際比較データがもう1つある(図表6)。
【図表6】就業者及び管理職に占める女性の割合国際比較
日本における女性管理職比率は韓国と並んでいまだ約1割であり、欧米との比較だけでなくアジアの中でも、女性の長期の人材育成が行われてこなかった姿をあらわしている。

このような状況では、量を増やしても「活躍」につながるかはやはり疑問符である。
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生活研究部   人口動態シニアリサーチャー

天野 馨南子 (あまの かなこ)

研究・専門分野
人口動態に関する諸問題-(特に)少子化対策・東京一極集中・女性活躍推進

経歴
  • プロフィール
    1995年:日本生命保険相互会社 入社
    1999年:株式会社ニッセイ基礎研究所 出向

    ・【総務省統計局】「令和7年国勢調査有識者会議」構成員(2021年~)
    ・【こども家庭庁】令和5年度「地域少子化対策に関する調査事業」委員会委員(2023年度)
    ※都道府県委員職は就任順
    ・【富山県】富山県「県政エグゼクティブアドバイザー」(2023年~)
    ・【富山県】富山県「富山県子育て支援・少子化対策県民会議 委員」(2022年~)
    ・【三重県】三重県「人口減少対策有識者会議 有識者委員」(2023年~)
    ・【石川県】石川県「少子化対策アドバイザー」(2023年度)
    ・【高知県】高知県「中山間地域再興ビジョン検討委員会 委員」(2023年~)
    ・【東京商工会議所】東京における少子化対策専門委員会 学識者委員(2023年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する情報発信/普及啓発検討委員会 委員長(2021年~)
    ・【主催研究会】地方女性活性化研究会(2020年~)
    ・【内閣府特命担当大臣(少子化対策)主宰】「少子化社会対策大綱の推進に関する検討会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府男女共同参画局】「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府委託事業】「令和3年度結婚支援ボランティア等育成モデルプログラム開発調査 企画委員会 委員」(内閣府委託事業)(2021年~2022年)
    ・【内閣府】「地域少子化対策重点推進交付金」事業選定審査員(2017年~)
    ・【内閣府】地域少子化対策強化事業の調査研究・効果検証と優良事例調査 企画・分析会議委員(2016年~2017年)
    ・【内閣府特命担当大臣主宰】「結婚の希望を叶える環境整備に向けた企業・団体等の取組に関する検討会」構成メンバー(2016年)
    ・【富山県】富山県成長戦略会議真の幸せ(ウェルビーイング)戦略プロジェクトチーム 少子化対策・子育て支援専門部会委員(2022年~)
    ・【長野県】伊那市新産業技術推進協議会委員/分野:全般(2020年~2021年)
    ・【佐賀県健康福祉部男女参画・こども局こども未来課】子育てし大県“さが”データ活用アドバイザー(2021年~)
    ・【愛媛県松山市「まつやま人口減少対策推進会議」専門部会】結婚支援ビッグデータ・オープンデータ活用研究会メンバー(2017年度~2018年度)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータアドバイザー会議委員(2020年度~)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータ活用研究会委員(2016年度~2019年度)
    ・【中外製薬株式会社】ヒト由来試料を用いた研究に関する倫理委員会 委員(2020年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する意識調査/検討委員会 委員長(2020年~2021年)

    日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)
    日本労務学会 会員
    日本性差医学・医療学会 会員
    日本保険学会 会員
    性差医療情報ネットワーク 会員
    JADPメンタル心理カウンセラー
    JADP上級心理カウンセラー

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