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- 中国経済:17年のこれまでを総括した上で18年の注目ポイントを探る
2017年10月27日
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4.金融面

金融政策の今後の行方を探る上では、これまでの経緯を踏まえておく必要がある。まず、今回の景気循環の起点は、住宅価格が2014年4月をピークに下落に転じてバブル崩壊懸念が高まり、景気が悪化したところにある(図表-11)。住宅価格が下落すると不動産開発投資も減速、それまで前年比2割前後の高い伸びを示していた不動産開発投資は10%台前半まで減速した。そこで、中国人民銀行は14年11月に約2年半ぶりとなる基準金利の引き下げを実施、景気テコ入れに動いた(図表-12)。不動産規制強化で行き場を失っていた投機マネーは、この基準金利引き下げを契機に住宅市場から株式市場へと流入、株価は空前の急騰を演じた(図表-13)。
15年に入っても不動産開発投資の減速には歯止めが掛からず、加えて過剰生産設備を抱えた製造業の投資も1桁台まで減速、景気下ぶれ懸念が高まった。そして、15年6月には株価が急落するとともに、中国人民銀行が基準金利の引き下げを追加実施したことで米中金利差が縮小、15年8月には人民元が切り下げられて“人民元ショック”に繋がっていった。16年に入ると年明け早々に再び株価が急落、この時期には不動産開発投資が上向きつつあったものの、過剰生産設備を抱えた製造業の投資が1桁台前半まで減速、依然として景気下ぶれ懸念が高かったため、中国人民銀行は金融緩和環境を維持した。これを追い風に住宅価格は上昇の勢いを増し16年7月には前回高値を超えた。そして、景気の持ち直し傾向が鮮明となった16年秋には深圳市や上海市など多くの地方政府が住宅購入規制を強化、中国人民銀行は商業銀行17行の幹部および融資担当者などを招集して住宅ローンの管理強化を要請、中国銀行業監督管理委員会(銀監会)も不動産融資を巡るリスク管理を強化した。16年12月に開催された中央経済工作会議では「住宅は住むためのものであって、投機のためのものではない」として不動産市場の平穏で健全な発展を促進する方針を打ち出した。
17年3月に開催された全国人民代表大会(全人代、国会に相当)では「穏健・中立」な金融政策を実施するとし、16年の「穏健」よりも引き締め方向に軸足を移した。そして、17年1月下旬以降、中国人民銀行はリバースレポ(7日物)や常設流動性ファシリティなどの短期金利を2回に渡り引き上げた。全人代閉幕後も「四限(購入制限、融資制限、価格制限、販売制限)」と呼ばれる住宅規制の導入・強化に動く地方政府が増えた。また、17年7月に開催された17年下期の経済運営方針を討議する中国共産党の中央政治局会議では、「安定を維持」としつつも「三去一降一補(過剰生産能力・在庫・レバレッジ解消、コスト削減、弱点補強)」や「ゾンビ企業の処理」に取り組む方針を示すとともに、金融面では金融監督管理の強化や不動産市場の安定に取り組むことが強調された。以上の経緯を踏まえると、中国政府(含む中国人民銀行)の金融政策は、景気重視からその副作用(住宅バブルやレバレッジ拡大など)の抑制へと重点が移行したと考えられる。従って、17年12月にも予想される米利上げに際しては、中国も金融をさらに引き締める可能性がある。
5.18年に向けた注目ポイント
一方、構造改革の渦中にある投資に関しては不安材料が浮上してきた。投資の内訳を見ると、国有・持ち株企業による投資の伸びが16年上期をピークに徐々に鈍化してきた(図表-16)。また、民間企業による投資は16年夏に前年割れまで落ち込んだ後、17年上期には一桁台後半まで伸びが回復していたが、ここ数ヵ月は再び減速してきている。国有・持ち株企業による投資の先行指標となるプロジェクト計画投資(新規着工)を見ると、17年上期には前年割れに落ち込んだものの7-9月期には再び伸びを高めており、18年も高い伸びを維持するものと見られる(図表-17)。
しかし、民間企業による投資の先行きには注意が必要となってきた。民間企業による投資の内訳を見ると、構造不況業種(鉄鋼や採掘業など)の投資が落ち込んだのが主因であり、今後の中国経済を担う自動車関連やIT関連の投資は好調を維持しているため、構造改革が進んでいるという点では良い兆候ではある。但し、構造不況業種であっても、急激に落ち込むようだと、持ち直してきた景気を失速させる恐れも否定できない。構造改革の渦中にあり振れの大きくなった投資の動向には、今後も細心の注意が必要である。
しかし、民間企業による投資の先行きには注意が必要となってきた。民間企業による投資の内訳を見ると、構造不況業種(鉄鋼や採掘業など)の投資が落ち込んだのが主因であり、今後の中国経済を担う自動車関連やIT関連の投資は好調を維持しているため、構造改革が進んでいるという点では良い兆候ではある。但し、構造不況業種であっても、急激に落ち込むようだと、持ち直してきた景気を失速させる恐れも否定できない。構造改革の渦中にあり振れの大きくなった投資の動向には、今後も細心の注意が必要である。
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(2017年10月27日「Weekly エコノミスト・レター」)
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