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2017年10月11日
AIGのSIFI指定解除について-FSOCの公表内容と関係者の反応-
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1―はじめに
米国のFSOC(Financial Stability Oversight Council:金融安定監督評議会)は、9月29日にAIG(American International Group)のSIFI指定を解除すると公表した。
AIGは、2007~2008年の金融危機時にサブプライムローン関係の多額の損失を抱えて、経営危機に陥り、政府から約1800億ドルの資金援助を受け、救済された。これを契機として、オバマ政権下の2010年にドッド・フランク法が制定され、連邦規制当局に大規模保険会社に対する監督権限が与えられることとなった。今回の決定により、救済から9年を経て、AIGはもはや「too big to fail(トゥー・ビッグ・トゥー・フェイル:大きすぎて潰せない)」な会社ではなくなった、と判断されたことになる。
今回のレポートでは、このAIGのSIFI指定解除に関して、FSOCの公表内容及びこれに対する関係者の反応等を報告する。
AIGは、2007~2008年の金融危機時にサブプライムローン関係の多額の損失を抱えて、経営危機に陥り、政府から約1800億ドルの資金援助を受け、救済された。これを契機として、オバマ政権下の2010年にドッド・フランク法が制定され、連邦規制当局に大規模保険会社に対する監督権限が与えられることとなった。今回の決定により、救済から9年を経て、AIGはもはや「too big to fail(トゥー・ビッグ・トゥー・フェイル:大きすぎて潰せない)」な会社ではなくなった、と判断されたことになる。
今回のレポートでは、このAIGのSIFI指定解除に関して、FSOCの公表内容及びこれに対する関係者の反応等を報告する。
2―SIFI指定を巡るこれまでの動き
1|SIFIとは
SIFIとは、「Systemically Important Financial Institution」の略で、「システム上重要な金融機関」と呼ばれている。事業や取引規模が大きく、破綻すると金融システムに大きな影響を与える金融機関のことを示している。2008年9月のリーマンショック以降、新たな金融規制対象区分を表す言葉として使用されており、SIFIに指定されると、例えばより厳しい自己資本規制が課せられたりすることになる。
FSB(Financial Stability Board:金融安定理事会)は、2011年11月には、SIFIsのなかでも国際事業が極めて大きいG-SIFIs(Global Systemically Important Financial Institutions )に該当する金融機関を選定し、より高い健全性を求める政策措置を公表している。
一方で、米国においては、SIFIはFSOCによって指定される。ドッド・フランク法により、連結総資産500億ドル以上の銀行持株会社及びシステム上重要なノンバンク(ノンバンクSIFI)は、FRB(連邦準備制度理事会)による厳格な規制監督の対象となる。即ち、FSOCによってSIFIに指定されたノンバンクはFRBの監督下に置かれ、SIFIに指定された米国銀行と同様の健全性規制が課されることになる。
FSOCはこれまで、保険グループのノンバンクSIFIとして、2013年7月にAIG、2013年9月にPrudential Financial、2014年12月にMetLifeを指定している1。
FSOCは、ドッド・フランク法の下で創設され、米国金融機関の安定性を確保するための包括的な監視を実施する。連邦金融監督者と州規制監督者、そして大統領によって任命された保険の専門家等で構成されているが、投票権を有するメンバー10名2とOFR(財務省金融調査局)及びFIO(連邦保険局)局長等の投票権を有しないメンバーに分かれ、財務長官が議長をしている。
1 ノンバンクSIFIとしては、これらの3社以外に、2013年7月にGEキャピタルが指定されている。
2 財務長官に加えて、連邦準備制度理事会(FRB)、通貨監督庁(OCC)、証券取引委員会(SEC)、商品先物取引委員会(CFTC)、連邦預金保険公社(FDIC)、連邦住宅金融庁(FHFA)、全米信用組合管理庁(NCUA)、消費者金融保護局(CFPB)の長と保険の専門性を有する独立メンバー
SIFIとは、「Systemically Important Financial Institution」の略で、「システム上重要な金融機関」と呼ばれている。事業や取引規模が大きく、破綻すると金融システムに大きな影響を与える金融機関のことを示している。2008年9月のリーマンショック以降、新たな金融規制対象区分を表す言葉として使用されており、SIFIに指定されると、例えばより厳しい自己資本規制が課せられたりすることになる。
FSB(Financial Stability Board:金融安定理事会)は、2011年11月には、SIFIsのなかでも国際事業が極めて大きいG-SIFIs(Global Systemically Important Financial Institutions )に該当する金融機関を選定し、より高い健全性を求める政策措置を公表している。
一方で、米国においては、SIFIはFSOCによって指定される。ドッド・フランク法により、連結総資産500億ドル以上の銀行持株会社及びシステム上重要なノンバンク(ノンバンクSIFI)は、FRB(連邦準備制度理事会)による厳格な規制監督の対象となる。即ち、FSOCによってSIFIに指定されたノンバンクはFRBの監督下に置かれ、SIFIに指定された米国銀行と同様の健全性規制が課されることになる。
FSOCはこれまで、保険グループのノンバンクSIFIとして、2013年7月にAIG、2013年9月にPrudential Financial、2014年12月にMetLifeを指定している1。
FSOCは、ドッド・フランク法の下で創設され、米国金融機関の安定性を確保するための包括的な監視を実施する。連邦金融監督者と州規制監督者、そして大統領によって任命された保険の専門家等で構成されているが、投票権を有するメンバー10名2とOFR(財務省金融調査局)及びFIO(連邦保険局)局長等の投票権を有しないメンバーに分かれ、財務長官が議長をしている。
1 ノンバンクSIFIとしては、これらの3社以外に、2013年7月にGEキャピタルが指定されている。
2|SIFI指定のプロセス
SIFI指定のプロセスについては、FSOCがそのプロセスを公表している。その概略は、以下の通りとなっている。
指定プロセスは、3つのステージで構成されており、ステージ1は「定量的な査定」、ステージ2は「定量及び定性的な査定」、ステージ3は「ステージ2に対する追加的な査定」となっている。
ステージ1については、OFRが四半期毎に、以下の指標に基づいてスクリーニングする。
連結総資産 500億ドルかつ以下の5つの項目のいずれか1つに該当する場合
(1)CDSの名目想定元本残高 300億ドル、(2)デリバティブ債務(ネット) 35億ドル
(3)負債残高 200億ドル (4)レバレッジ比率 15倍
(5)短期(1年未満)債務比率 10%
ステージ2については、定量的な査定に加えて、以下の6つのカテゴリの定性的項目を考慮する。
(1)規模(Size)、(2)相互連関性(Interconnectedness)、
(3)代替可能性(Substitutability)、(4)レバレッジ(Leverage)、
(5)流動性リスクと満期ミスマッチ(Liquidity Risk and Maturity Mismatch)
(6)既存の規制精査(Existing Regulatory Scrutiny)
このうち、規模、相互連関性、代替可能性の3項目については、会社の経営危機が経済全体に与える潜在的な影響を測定する指標であり、レバレッジ、流動性リスクと満期ミスマッチ、既存の規制精査の3項目については、会社の脆弱性を測定する指標である。
ステージ3については、追加的な定量及び定性的な査定を行うが、米国金融システムに対する脅威の度合いを重視し、オペレーションの複雑さ、既存の監督体制、ビジネスライン分離の可能性、グロスボーダーのオペレーションの状況等、迅速かつ秩序だった破綻処理を妨げる障害が対象となる。
SIFI指定のプロセスについては、FSOCがそのプロセスを公表している。その概略は、以下の通りとなっている。
指定プロセスは、3つのステージで構成されており、ステージ1は「定量的な査定」、ステージ2は「定量及び定性的な査定」、ステージ3は「ステージ2に対する追加的な査定」となっている。
ステージ1については、OFRが四半期毎に、以下の指標に基づいてスクリーニングする。
連結総資産 500億ドルかつ以下の5つの項目のいずれか1つに該当する場合
(1)CDSの名目想定元本残高 300億ドル、(2)デリバティブ債務(ネット) 35億ドル
(3)負債残高 200億ドル (4)レバレッジ比率 15倍
(5)短期(1年未満)債務比率 10%
ステージ2については、定量的な査定に加えて、以下の6つのカテゴリの定性的項目を考慮する。
(1)規模(Size)、(2)相互連関性(Interconnectedness)、
(3)代替可能性(Substitutability)、(4)レバレッジ(Leverage)、
(5)流動性リスクと満期ミスマッチ(Liquidity Risk and Maturity Mismatch)
(6)既存の規制精査(Existing Regulatory Scrutiny)
このうち、規模、相互連関性、代替可能性の3項目については、会社の経営危機が経済全体に与える潜在的な影響を測定する指標であり、レバレッジ、流動性リスクと満期ミスマッチ、既存の規制精査の3項目については、会社の脆弱性を測定する指標である。
ステージ3については、追加的な定量及び定性的な査定を行うが、米国金融システムに対する脅威の度合いを重視し、オペレーションの複雑さ、既存の監督体制、ビジネスライン分離の可能性、グロスボーダーのオペレーションの状況等、迅速かつ秩序だった破綻処理を妨げる障害が対象となる。
3|SIFI指定を巡るMetLife等の動きとトランプ政権の対応
MetLifeは、FSOCによるSIFI指定に対して、2015年1月に、SIFI指定の撤回を求めてFSOCを提訴した。MetLifeが抱えているエクスポジャーは金融システムの脅威になるものではなく、そもそも過去の保険会社破綻時に保険会社がシステミックリスクを誘発した事実はないとして、金融ストレス下におけるMetLifeの漸弱性を公正に評価していない、と主張した。さらに、FSOCのノンバンクSIFI指定プロセスは不透明であり、ダブルスタンダードであると批判した。現行の米国の州監督当局による監督には何ら問題はなく、必要以上の追加的な資本要件は、消費者のコスト増大につながるが、少数の大手保険会社のみにそのような負担を課すことは不公平である、とした。
こうした主張を受けて、2016年4月にワシントンDCの連邦地方裁判所が、FSOCのSIFI指定を無効にする判決を出したが、これに対して、FSOCは「我々の決定は合理的である。」と主張して、上訴した。
こうした動きの中で、2017年1月に新たにトランプ政権が誕生し、金融規制の緩和の方向性を示したことから、状況が大きく変化した。Steven T Munuchin財務長官は、3月のFSOCで、ノンバンクSIFIの指定の見直しを行う方針を示した。4月21日に、トランプ大統領は、FSOCの役割とそのSIFIの指定を審議する大統領令に署名した。これにより、米国財務省は、180日間にわたり、審査を行うことになり、その間は、緊急事態を除いてはSIFI指定ができない状況になっていた。
一方で、AIGも、2月にSIFI指定と連邦規制の妥当性を問う質問を裁判所に提出する等の動きを行っており、議会でも、「SIFIの指定プロセスが恣意的で一貫性がない」と批判された報告書が提出され、FSOCに対する風当たりが強くなっていた。
MetLifeは、4月に、ワシントンDCの控訴裁判所に、FSOCの控訴を保留することを求めたが、米国政府も、60日間の審理の一時停止を要請し、裁判所もこれを認めた。その後、さらなる審理の延長が行われ、この案件については保留された状態になっている。
こうした一連の流れの中で、今回のFSOCによるAIGのSIFI指定解除の決定が行われている。この決定等を受けて、FSOCが控訴を取り下げるのであれば、MetLifeの件も決着を見ることになる。
MetLifeは、FSOCによるSIFI指定に対して、2015年1月に、SIFI指定の撤回を求めてFSOCを提訴した。MetLifeが抱えているエクスポジャーは金融システムの脅威になるものではなく、そもそも過去の保険会社破綻時に保険会社がシステミックリスクを誘発した事実はないとして、金融ストレス下におけるMetLifeの漸弱性を公正に評価していない、と主張した。さらに、FSOCのノンバンクSIFI指定プロセスは不透明であり、ダブルスタンダードであると批判した。現行の米国の州監督当局による監督には何ら問題はなく、必要以上の追加的な資本要件は、消費者のコスト増大につながるが、少数の大手保険会社のみにそのような負担を課すことは不公平である、とした。
こうした主張を受けて、2016年4月にワシントンDCの連邦地方裁判所が、FSOCのSIFI指定を無効にする判決を出したが、これに対して、FSOCは「我々の決定は合理的である。」と主張して、上訴した。
こうした動きの中で、2017年1月に新たにトランプ政権が誕生し、金融規制の緩和の方向性を示したことから、状況が大きく変化した。Steven T Munuchin財務長官は、3月のFSOCで、ノンバンクSIFIの指定の見直しを行う方針を示した。4月21日に、トランプ大統領は、FSOCの役割とそのSIFIの指定を審議する大統領令に署名した。これにより、米国財務省は、180日間にわたり、審査を行うことになり、その間は、緊急事態を除いてはSIFI指定ができない状況になっていた。
一方で、AIGも、2月にSIFI指定と連邦規制の妥当性を問う質問を裁判所に提出する等の動きを行っており、議会でも、「SIFIの指定プロセスが恣意的で一貫性がない」と批判された報告書が提出され、FSOCに対する風当たりが強くなっていた。
MetLifeは、4月に、ワシントンDCの控訴裁判所に、FSOCの控訴を保留することを求めたが、米国政府も、60日間の審理の一時停止を要請し、裁判所もこれを認めた。その後、さらなる審理の延長が行われ、この案件については保留された状態になっている。
こうした一連の流れの中で、今回のFSOCによるAIGのSIFI指定解除の決定が行われている。この決定等を受けて、FSOCが控訴を取り下げるのであれば、MetLifeの件も決着を見ることになる。
(2017年10月11日「保険・年金フォーカス」)
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