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コラム
2017年09月29日
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1――息子も出世する
スウェーデンといえば福祉が充実していて教育も無料、格差が小さい国の代名詞だと思っていたのだが、18世紀に生まれた社会的地位の差が10世代以上後の現在でも色濃く残っているという。米国の経済学者グレゴリー・クラーク(注1)が、スウェーデンの医師登録、国会議員、修士論文の提出者など各種の名簿を調べたところ、長期にわたって同じ姓が異常に高い割合で出現しており、今まで言われていた以上に親から子へと社会的な地位が受け継がれていた。クラークは、現代のスウェーデンで行なわれている教育無償化などの福祉政策は、社会階層の移動を全く加速しなかったと結論付けている。
クラークは日本についても姓を使った調査をしており、旧士族や旧華族の珍しい姓が、医学研究者や法律家、学者などで異常に高い頻度で見つかることを発見した。明治維新や第二次世界大戦後の改革で、日本は比較的社会階層間の移動は活発だとされてきたが、従来考えられていたよりも移動は少ないと述べている。
クラークは日本についても姓を使った調査をしており、旧士族や旧華族の珍しい姓が、医学研究者や法律家、学者などで異常に高い頻度で見つかることを発見した。明治維新や第二次世界大戦後の改革で、日本は比較的社会階層間の移動は活発だとされてきたが、従来考えられていたよりも移動は少ないと述べている。
2――教育を通じた格差の拡大
かつては親に資産がなくても子供は教育を受けることで、高い所得を得る可能性が高まり、教育が社会の中での所得や資産の格差を縮小させる働きをしてきた。しかし、所得水準の高い人々が自分の子供により良い教育を受けさせようとするようになり、世間で難関と言われる大学の入学者の親の所得水準は平均よりも高くなっているという。
米国の大学入学者の選抜では高校での学校生活全体が評価されるので、日本の大学入試よりも公平・公正だと言われることもあるが、実態は家庭環境が大きく影響しているようだ。Richard V. Reeves(注2)は、米国の有名大学の多くは私立であるためもあって、入学者の選抜では、両親や親族がその大学の同窓生だったり、多額の寄付をしているということが合否を決める大きな要素になっていると指摘している。入学願書に記載できるような特別の経験ができるように親が努力することや、客観的なテストであるSAT (大学進学適性試験)でも試験の準備に親が関与するなど、親の経済力や家庭環境の差が合否に大きく影響するとしている。
米国の大学入学者の選抜では高校での学校生活全体が評価されるので、日本の大学入試よりも公平・公正だと言われることもあるが、実態は家庭環境が大きく影響しているようだ。Richard V. Reeves(注2)は、米国の有名大学の多くは私立であるためもあって、入学者の選抜では、両親や親族がその大学の同窓生だったり、多額の寄付をしているということが合否を決める大きな要素になっていると指摘している。入学願書に記載できるような特別の経験ができるように親が努力することや、客観的なテストであるSAT (大学進学適性試験)でも試験の準備に親が関与するなど、親の経済力や家庭環境の差が合否に大きく影響するとしている。
3――結果の平等と機会の平等
結果の平等を保証するというのは理想的に思えるが、残念ながら普通の人間は怠け者だ。頑張っても頑張らなくても結果がほとんど変わらないのでは、人々が努力を怠るようになる。20世紀末に社会主義国が次々と市場経済に転換した一つの理由は、あまりにも結果の平等を求め過ぎたからだ。結果の平等を作り出す政府による所得移転制度は必要ではあるが、やり過ぎると社会の活力を低下させるので望ましくない。社会の活力を維持しながら大きな不平等が生み出す社会的な問題を回避するには、機会の平等を保証して、結果は本人の努力次第という仕組みにすることが望ましい、というのが一般的な考え方だろう。
しかし、大学の入学試験のように全員が同じ問題を解くことにすれば、誰にも機会が平等に与えられているように見えるが、真の機会の平等を実現することは見かけほど簡単なことではない。家庭環境の差によって大学入学試験に対してどれくらいの準備ができるかには大きな差があるからだ。大学入試に有利な高校、さらに進んで競争は小学校や幼稚園のお受験にまで及んでいる。
しかし、大学の入学試験のように全員が同じ問題を解くことにすれば、誰にも機会が平等に与えられているように見えるが、真の機会の平等を実現することは見かけほど簡単なことではない。家庭環境の差によって大学入学試験に対してどれくらいの準備ができるかには大きな差があるからだ。大学入試に有利な高校、さらに進んで競争は小学校や幼稚園のお受験にまで及んでいる。
4――親心と格差の悩ましい関係
親が子供のためになるようにと心を砕くのは自然なことだが、世代をまたがって格差を伝えていってしまうことには何か歯止めが必要だ。日本社会にこうした共通の考えがあるからこそ、遺産に累進税率の相続税を課して、親の資産格差がそのまま子供に伝わらないようにしているといえるだろう。能力があるにも関わらず学費が負担できないという理由で高等教育機関に進学できないという問題については、給付型奨学金を拡充させるなどの方策が考えられる。しかし、これだけでは教育が格差を拡大させている可能性があるという問題を解決することにはならない。
子供の幸福を願うのは誰しも同じだが、どの程度教育を重要と考えるかは人それぞれだ。子供に学校以外での教育を施すことが成績の差に繋がるといった問題を解決するために、社会が全ての子供に同じようなレベルの教育を提供することは無理だろう。ありきたりの方策ではあるが、学校の先生が教育に力を注げる環境を改善するなど、まずは誰もが必要と認めてきた義務教育の充実にもう少しお金を使うというところからはじめるのが妥当ではないか。
子供の幸福を願うのは誰しも同じだが、どの程度教育を重要と考えるかは人それぞれだ。子供に学校以外での教育を施すことが成績の差に繋がるといった問題を解決するために、社会が全ての子供に同じようなレベルの教育を提供することは無理だろう。ありきたりの方策ではあるが、学校の先生が教育に力を注げる環境を改善するなど、まずは誰もが必要と認めてきた義務教育の充実にもう少しお金を使うというところからはじめるのが妥当ではないか。
(注1) Gregory Clark (2014) Princeton University Press, “The Son Also Rises : the surnames and the history of social mobility” (有名なヘミングウェイの小説「陽はまた昇る」The Sun Also Risesのもじりである)
(注2) Richard V. Reeves (2017), Brookings Institute Press, “Dream Hoarders: How the American Upper Middle Class Is Leaving Everyone Else in the Dust, Why That Is a Problem, and What to Do About It”
(2017年09月29日「エコノミストの眼」)
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