2017年09月22日

【アジア・新興国】東南アジア・インドの経済見通し~底堅い消費と回復が遅れていた投資の復調で安定成長へ

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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2.各国経済の見通し

2-1.マレーシア
マレーシア経済は昨年半ばに底打ちし、17年前半の成長率は5%台後半まで加速している(図表6)。この景気回復は、輸出の好調が内需に波及したことが主因と見られる。昨年からの世界的なIT需要の拡大や中国との貿易取引の拡大により、マレーシアの輸出は電子製品(プリント基板や半導体等)、パーム油や原油、石油製品といった資源関連を中心に2四半期連続で+10%弱の高成長を続けている。こうした輸出の拡大を背景に企業の景況感が改善し、民間投資は+10%前後の高い伸びを記録している。インフレ率はガソリン価格の値上げによって年明けから+3%を上回って推移しているものの(図表7)、こうした輸出と投資の回復を背景に雇用・所得環境が改善しているほか、低所得者向けの現金給付策(BR1M)や消費者心理の回復も追い風となって、民間消費は+7%成長まで加速している。一方、緊縮財政を続けているために公共投資は低調に推移している。

17年後半以降のマレーシア経済は、当面は5%台の高めの成長ペースを維持するものの、18年末にかけて4%台後半まで減速すると予想する。世界経済は緩やかな回復を続けるものの、世界的な半導体需要は年末にピークアウトすると共に中国経済も減速に向かうなかで一次産品需要も落ち着いていくだろう。従って、輸出は当面好調を続けるものの、18年から増勢が鈍化しよう。従って、民間投資は輸出関連企業を中心に当面は増加傾向を続けるものの、18年は徐々に鈍化するだろう。

一方、民間消費は高水準の家計債務が重石となって一段の上昇こそ見込めないものの、BR1Mや雇用・所得環境の改善によって当面高めの水準を維持するだろう。また昨年からの原油価格の小幅上昇による原油関連収入の増加や景気回復による税収の増加を受けて、政府部門は漸く支出の拡大余地が生まれることになりそうだ。18年8月までに実施される総選挙を前に、政府はインフラ投資や低所得者対策などの支出を拡大させるものと予想され、これが18年の消費をサポートしよう。

金融政策は昨年7 月以降、据え置かれている。コアCPIは景気回復を受けて小幅に上昇したものの、概ね安定的に推移しており、現行の金融政策を当面維持することになりそうだ。もっとも今後は欧米の金融政策正常化で資本流出圧力が高まるなか、為替介入で対応しきれるほどの外貨準備を保有していないため、金融政策や為替取引・資本規制などで通貨の安定化を図る展開が予想される。

実質GDP成長率は、16年の4.2%から17年が5.5%と上昇するが、18年は輸出の増勢が鈍化して4.9%まで低下すると予想する。
(図表6)マレーシアの実質GDP成長率(需要側)/(図表7)マレーシアのインフレ率・政策金利
2-2.タイ
4-6月期の成長率は前年同期比3.7%増と、1-3月期の同3.3%増から上昇ペースが加速した(図表8)。直近2四半期の成長加速については在庫積み上がりの影響が大きく、一定程度割り引いて考える必要があるが、タイ経済は総じて財貨・サービス輸出の増勢拡大と底堅い民間消費を中心に緩やかな成長が続いている。まず財貨輸出は中国向けに農産品やハードディスク等の電子機械を中心に堅調に拡大しており、サービス輸出は昨年実施した違法格安ツアーの取締りの悪影響が和らいで外国人観光客数は拡大傾向にある。民間消費は、こうした観光業の回復や農業生産の拡大を背景に所得が向上したこと、また低インフレ環境が続いたことから底堅く推移している(図表9)。投資は、これまで低迷していた民間投資が4期ぶりにプラス転化する一方、景気の牽引役である公共投資が前期からの反動減で落ち込み、全体として低調に推移している。

17年後半以降のタイ経済は、横ばい圏の成長が続くと予想する。まずITサイクルのピークアウトと主要輸出先の中国経済の鈍化、バーツ高による輸出競争力の低下等を受けて、財貨輸出は年末ごろから鈍化しよう。従って、漸く回復の兆しが見えてきた民間投資は公共投資の呼び水効果によって回復傾向こそ続けるだろうが、輸出の増勢鈍化に製造業の稼働率の低さが加わって大幅な伸びは見込みにくい。

一方、公共投資は2.2兆バーツの大型インフラ整備事業計画の進展によって再び拡大傾向を続けるほか、サービス輸出も外国人観光客数が10%成長まで拡大することから、これらは引き続き景気の牽引役となりそうだ。また民間消費は高水準の家計債務が重石となるものの、ファーストカーバイヤー制度で需要の先食いが生じた自動車販売は5年間の転売禁止期限が終了して回復傾向を続けるほか、政府が打ち出しているコメ農家や低所得者向けに打ち出している支援策、バーツ高による低インフレの継続などが下支えとなって底堅く推移しよう。

金融政策は15年4月の利下げ以降、政策金利が据え置かれている。インフレ率は依然として中銀目標(2.5%±1.5%)の下限を下回っており、財務省からは緩慢な国内経済を刺激するためにバーツ高抑制策として金利の引下げが求められているが、中央銀行は応じない方針を示している。従って、中央銀行は政策金利を据え置き、現行の緩和的な金融政策を続けるものと予想する。

リスクは国内の政治的対立の表面化だ。コメ担保融資制度に関する職務怠慢の罪に問われていたインラック前首相は、8月の判決を前に国外に逃亡したため、有罪判決による支持者らの暴徒化は回避された。もっともタクシン派と反タクシン派の和解は進んでいない。これまで軍政が政治活動を禁止し、言論統制を強めるなど力で抑え込んできたが、18年に予定する総選挙の日程が近づくなかで対立が表面化する展開も予想される。

実質GDP成長率は16年の3.2%から17年が3.5%と若干上昇するが、その後は横ばい圏で推移して18年が3.4%と予想する。
(図表8)タイの実質GDP成長率(需要側)/(図表9)タイのインフレ率と政策金利
2-3.インドネシア
インドネシア経済は15年に下げ止まって以降、5%前後の緩やかな成長が続いている(図表10)。昨年は政府支出が拡大した後で税収不足を受けて落ち込んだほか、政府の改革ペースも失速するなど、政府部門の動向に景気が左右される面も少なくなかった。しかし、17年前半は5%成長で明確な回復傾向こそ見られないものの、中国向けの石炭やパーム油、ゴムなどの資源関連製品を中心に輸出が拡大を続けるなか、機械設備が大幅な落ち込みからプラス転化するなど、民間部門の存在感が増してきている。また政府部門は、政府消費こそ予算執行の加速で前年同期か高水準だったことの影響で4-6月期にマイナスに転じたが、政府のインフラプロジェクトが進展して建設投資は拡大している。なお、今年は断食明け大祭(レバラン)の開催時期が昨年の7月上旬から6月下旬に早まった影響もあり、インフレ率が電気料金や自動車登録料の値上げの影響を受けて上昇する中でも民間消費は堅調を維持する一方、輸出は営業日数が少ないために鈍化した(図表11)。

17年後半以降のインドネシア経済は、投資の回復が続いて5%台前半の緩やかな景気拡大を予想する。インフラ整備計画は大幅に拡充された17年度予算(16年補正予算対比22%増)に続いて18年度予算案(17年度補正予算対比2%増)でも重点配分されているほか、政府が土地収用を迅速化するための法令の施行によってインフラ事業を進展させやすくしており、公共投資の拡大が期待できそうだ。さらに5月には格付大手S&Pがインドネシア長期債を投資適格級に引き上げたほか、7月には政府がネガティブリストの改正でインフラ事業の外資規制緩和を発表するなど、海外資本が流入しやすくなっていることも民間投資の拡大に寄与しそうだ。

輸出は当面好調に推移するものの、主要輸出先である中国経済が今後減速に向かうなかで資源輸出が鈍化するだろう。もっとも輸出の増加傾向と投資回復が後押しとなり、建設業を中心に雇用・所得環境が改善するだろう。堅調な内需と通貨安を背景に物価が緩やかに上昇することは実質所得を押し下げるだろうが、GDPの約6割を占める民間消費は堅調を維持すると予想する。

政府消費は、一次産品価格の上昇によって歳入が伸びたことから今年後半の歳出拡大が見込まれる。2019年には議会選と大統領選を控えているだけに、18年後半には政治的な思惑からタックス・アムネスティ制度に継ぐ財源確保策を打ち出すなど支出拡大に向けて動くだろう。

金融政策は、中央銀行が8月に政策金利を0.25%利下げに踏み切った上、更なる利下げを示唆した。勢いを欠く景気に梃子入れを図るために年末にかけて0.25%の追加利下げを打ち出す可能性も高まっている。もっとも当研究所では、欧米の金融政策正常化を受けて資本流出圧力が強まることを踏まえて金融政策が据え置かれると予想する。

実質GDP成長率は16年の5.0%から17年が5.1%、18年がインフラ投資の進展によって5.2%と緩やかに上昇すると予想する。
(図表10)インドネシア実質GDP成長率(需要側)/(図表11)インドネシアのインフレ率と政策金利
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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

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