2017年09月19日

【アジア・新興国】タイの生命保険市場(2016年版)

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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5―会社別の販売動向

会社別に新契約保険料(上位7社)を見ると、Muang Thai Lifeが338億バーツと引き続きトップだったものの、前年比10.9%減と大きく減少した。これは低金利環境を背景に銀行窓販主体の生保会社の販売が落ち込んだためであり、同様の理由でKrungthai AXA Lifeが149億バーツ(同18.9%減)、SCB Lifeが122億バーツ(同30.1%減)、Bangkok Lifeが111億バーツ(同18.2%減)と、それぞれ減少した。また外資系生保についても、最大手のAIA が245億バーツ(同6.5%減)、Prudential Life が77億バーツ(同6.3%減)と、それぞれ減少した。一方、上位7社で唯一販売が伸びたThai Lifeは231億バーツ(同31.0%増)だった(図表11)。

収入保険料シェア(上位7社)を見ると、最大手のAIAが全体の20.0%を占めて引き続きトップだったものの、前年から1.7%ポイント縮小した(図表12)。一方、新契約保険料でトップだったMuang Thai Lifeが17.5%(対前年1.0%ポイント増)、同じく新契約保険料で躍進したThai Lifeが14.5%(対前年1.1%ポイント増)と、それぞれシェアを拡大させた。なお、主力の銀行窓販の伸び悩みを背景にKrungthai AXA Lifeは9.9%(対前年0.4%ポイント減)、SCB Lifeは9.6%(対前年0.3%ポイント減)、Bangkok Lifeは8.4%(対前年1.3%ポイント減)と、それぞれシェアが縮小した。
(図表11)会社別の新契約保険料/(図表12)会社別の収入保険料シェア

6―資産運用状況

6―資産運用状況

まず2016年の投資環境を振り返ると、国内経済は緩慢な回復が続いたものの、世界経済の緩やかな回復を受けて金融市場はリスクオンの局面となり、タイの株式市場は上昇した(図表13)。一方、債券市場については、低インフレを背景にタイ中央銀行が低金利政策を継続したことからタイ10年国債金利は概ね2%前後で推移していたが、11月には米大統領選におけるトランプ氏の勝利を受けて米国への資金回帰が進み、タイ10年国債金利は年末には2%台後半まで上昇した。

2016年のタイ生命保険会社の運用資産構成割合を見ると公共債が63.1%、民間債が19.9%、株式等が11.0%、貸付が4.9%といった国債中心の安定運用が行われているが、上述のとおり株価上昇と低金利環境の継続によって公共債のウェイトが低下した一方、民間債や株式等、貸付のウェイトが上昇した(図表14)。

運用費用を差引いたネットの運用収益は、国債や社債の安定した利息収入を中心に1,035億バーツとなり、前年の912億バーツから123億バーツ増加した。
(図表13)タイ株価と10年国債金利の推移/(図表14)資産構成比の推移

7―収支動向

7―収支動向

2016年の生命保険業の収支動向を見ると、資産運用収益が改善したものの、保険料等収入が伸び悩んだことから経常収益は前年比7.0%増の6,616億バーツと、2年連続で一桁台の伸びとなった(図表15)。しかし、手数料・コミッションが減少したことから経常費用の伸びは経常収益と同水準に止まった。以上の結果、経常利益は前年比8.0%増の605億バーツと増加傾向が続いた。
(図表15)生命保険業の収支動向

8―おわりに

8―おわりに

2016年のタイ生保市場は、前年に続いて収入保険料の伸びが勢いを欠いた。2017年も国内経済の成長は緩慢で低金利環境も続いており、タイで人気を集める(貯蓄性の高い)養老保険の販売が伸び悩み、上半期(1~6月)の収入保険料は前年同期比7.0%増と過去の二桁成長に比べて低めの水準に止まっている。

しかしながら、タイの生保市場の拡大ペースが世界平均を上回っていることに変わりはない。むしろ、こうした厳しい事業環境のなかでもタイ生保市場が堅調な伸びを続けているポジティブな面は評価されるべきであろう。生保各社は低金利を背景にユニット・リンク保険の販売に力を入れているほか、IT技術を駆使した販売サポートツールや顧客へのアフターサービスの開発、ネット販売に向けたシンプルな保険商品の開発を進めるなど、先進的な取組みを実施している。またタイでは、少子・高齢化と医療費の高額化が進む一方で社会保障制度の整備が遅れており、年金など退職準備関連商品や医療保険のニーズが今後拡大すると見込まれる。このようにタイの生命保険市場は今後も中長期的な拡大が見込まれることに変わりはなさそうである。

また、ここ数年ではタイ生保がASEAN経済共同体(AEC)を活用したCLMV諸国(カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム)への進出を加速2させている点は興味深い。CLMV諸国の生保市場は今後の市場の発展におけるリスクがあるものの、ASEAN企業は域内において出資規制の緩和が容認されているなど優位性がある。欧米保険会社がASEAN域内で着々と事業を拡大させているなかで、今後タイ生保が域内でのプレゼンスを発揮することができるのか注目したい。
 
2 カンボジアでは、Muang Thai LifeとBangkok Life が営業を開始した。ラオスでは、Muang Thai Lifeが合弁会社設立を発表している。ベトナムでは、Muang Thai Lifeが2016年に合弁会社を設立した。
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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

(2017年09月19日「保険・年金フォーカス」)

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