2017年09月19日

【アジア・新興国】タイの生命保険市場(2016年版)

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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1―市場概況

2016年のタイ生命保険市場の収入保険料は前年比7.0%増の5,605億バーツ(約1.9兆円)と、前年の同6.0%増を上回ったものの、2年連続で一桁台の伸びに止まった(図表1)。収入保険料の内訳を見ると、初年度収入保険料は1,582億バーツ(同4.4%減)とマイナス幅が拡大する一方、次年度以降収入保険料は4,023億バーツ(同12.2%増)と堅調に増加した。また保有契約件数は前年比1.7%増の2,462万件、保有契約高は前年比3.4%増の17.2兆バーツ(約57.6兆円)となった結果、1件当たりの保有契約高は70.0万バーツと、前年から1.2万バーツ増加した(図表2)。

2016年のタイ経済を振り返ると、名目GDP成長率は前年比5.1%増となり、2015年の同3.6%増から1.5%ポイント上昇した。公共投資と観光業が引き続き経済の牽引役となるなか、世界経済の緩やかな回復を受けて輸出が上昇傾向で推移し、民間消費は同3.6%増(2015年は同1.2%増)まで回復した。こうした消費回復の背景にある所得の増加が収入保険料の上昇に繋がった。

もっとも、タイ生保市場はこれまで概ね二桁成長を続けてきたことを踏まえると、収入保険料が伸び悩んでいることも確かだ。この要因としては高水準の家計債務や低インフレ・低金利環境により貯蓄性商品の販売が落ちたこと、そして消費者ニーズに応える商品を出せなかったこと等が挙げられる。
(図表1)正味収入保険料の推移/(図表2)保険契約高と保有契約件数
(国際比較)
諸外国と比較すると、タイの生命保険市場が依然として高い成長を遂げていることが分かる。スイス再保険会社1によると、2016年のタイの生命保険料(インフレ調整後)は前年比5.6%増と、世界全体の同2.5%増を上回った。

また2016年のタイの保険密度(国民1人当たり生命保険料)は222ドル、生命保険浸透度(対GDP比の生命保険料)は3.7%と、それぞれ緩やかな上昇傾向にあるが、日本や韓国、台湾、香港、シンガポールといったNIEs(新興工業経済地域)4カ国と比べると依然として低水準に止まっている(図表3,4)。つまり、このことはタイ生命保険市場が将来の成長余地が十分にあることを示している。
(図表3)保険密度 1人当たり生命保険料(2016年)/(図表4)生命保険浸透度対GDP比生命保険料(2016年)
 
1 スイス再保険会社Swiss Re,Sigma No3/2016
 

2―保険種類別の販売動向

2―保険種類別の販売動向

保険種類別に新契約保険料を見ると、団体保険が同12.9%増の446億バーツと上昇した一方、個人保険が前年比9.5%減の1,073億バーツ、簡易保険が同12.2%減の6億バーツ、個人傷害保険が同2.7%減の58億バーツと、それぞれ減少した(図表5)。

収入保険料を見ると、最大の個人保険は前年比4.4%増の4,716億バーツ、団体保険は同11.3%増の604億バーツ、簡易保険は同6.1%減の66億バーツ、個人傷害保険は同2.7%減の58億バーツとなった。その結果、収入保険料シェアは個人保険が83.1%と、前年から0.9%ポイント縮小したが、シェアの大半を占める構図には大きな変化はない(図表6)。
(図表5)保険種類別の新契約保険料/(図表6)保険種類別の収入保険料シェア

3―商品別の販売動向

3―商品別の販売動向

個人保険の商品別に新契約保険料を見ると、終身保険が前年比2.8%増の297億バーツと上昇した一方、養老保険が同13.2%減の729億バーツ、定期保険が同20.2%減の44億バーツと、それぞれ減少した(図表7)。

収入保険料を見ると、シェア最大の養老保険が同4.8%増の3,473億バーツ、終身保険が前年比4.3%増の1,170億バーツと上昇した。これに受けて収入保険料シェアは養老保険が73.6%と、前年から0.2%ポイント拡大し、引き続きシェアの大半を養老保険が占める結果となった(図表8)。
(図表7)個人保険の商品別の新契約保険料/(図表8)個人保険の商品別の収入保険料シェア

4―販売チャネル別の販売動向

4―販売チャネル別の販売動向

販売チャネル別に新契約保険料を見ると、エージェントが前年比0.6%減の619億バーツ、銀行窓販が同5.1%減の926億バーツ、直販が同6.4%減の42億バーツとそれぞれ減少した一方、ブローカーが同97.2%増の84億バーツと倍増した(図表9)。2016年は低金利環境が続いたことから、貯蓄性商品が多い銀行窓販が低調だった。

収入保険料を見ると、銀行窓販は前年比7.3%増の2,439億バーツと堅調な伸びを続ける一方、シェア最大のエージェントが同3.7%増の2,871億バーツに止まった。またブローカーが同54.4%増の147億バーツとなり、直販の145億バーツ(同4.0%増)を抜いて第3位となった。結果、収入保険料シェアはエージェントが50.6%と、引き続き最大の販売チャネルとなったものの、前年から0.9%ポイント縮小した。一方、銀行窓販は43.0%と、前年から0.7%ポイント拡大した(図表10)。銀行窓販は、銀行が有する堅固な顧客ネットワークの活用や貯蓄機能を有する保険商品の人気が高いことから販売が好調で2002年に解禁されて以降、シェア拡大が続いている。
(図表9)販売チャネル別の新契約保険料/(図表10)販売チャネル別の収入保険料シェア
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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

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