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交絡因子の考察ー因果関係を検討する際に、注意すべきポイントは?
基礎研REPORT(冊子版)8月号
保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
例えば、日本では、毎年、冬の時期にインフルエンザが流行する。インフルエンザは、インフルエンザウィルスが原因とされている。このウィルスへの対処として、ワクチン接種による予防の取り組みが行われている。しかし、ウィルスに感染したとしても、必ず、インフルエンザを発症する訳ではない。一般に、体力の弱い乳幼児や、高齢者は、発症しやすい一方、青年・壮年世代の人は、体内の免疫機構がウィルスを抑えて、発症に至らないことが多い。
また、同じような体力を持つ人でも、置かれた環境によって発症の有無に違いが出ることがある。例えば、職場や学校で、トイレの洗面所に石鹸を常備していて手洗いを励行している場合と、そうではない場合とでは、ウィルス感染の拡大に、違いが出ると考えられる。
疫学は、病気に関する因果関係を解き明かすことを、主なテーマとしている。Aという原因があって、その結果、Bという病気になる、ということを示す訳である。その際、問題となるのは、Cという事象があって、これがA-B間の因果関係に影響を及ぼす場合だ。このCは、「交絡因子」と呼ばれる。
ここで、厳密には、Cが交絡因子であるとは、(1)事象Cが原因Aと関連がある、(2)Cが結果Bに影響を与える、(3)CがAとBの中間因子ではない、という3条件を満たすことを指す。イメージ図で表すと、次のようになる。
最近の研究で、コーヒーには、血管内で血液が固まってできる血栓を縮小させる効用があるため、脳卒中や急性心筋梗塞の予防効果があることが示されつつある。しかし、ある調査では、コーヒーをよく飲む人は、脳卒中を起こしやすいとの因果関係が導かれた。
このようなときは、交絡因子の存在を疑ってみる必要がある。同様の疫学調査では、喫煙が交絡因子となっているケースがよく見られる。実際に、この調査では、コーヒーを飲む人に、喫煙者が多く見られた(条件(1))。また、喫煙は、脳卒中の発症予防に影響を与えることが知られている(条件(2))。更に、喫煙は、コーヒーと脳卒中の中間因子ではない(条件(3))。即ち、喫煙は、コーヒーの飲用(原因)と脳卒中の発症予防(結果)における、交絡因子の条件を満たしている。この調査では、喫煙の影響を除いて、因果関係を検討し直すことが必要となるだろう。
交絡因子の影響を除外する方法は、いくつかある。例えば、上記のケースでは、喫煙者を調査対象から外すことが考えられる。また、コーヒーをよく飲む集団と、あまり飲まない集団で、喫煙者割合を均一にすることも考えられる。このように、調査対象のコントロールが、1つの方法となる。
別の方法として、調査結果の分析段階で、交絡因子の影響を見ることが考えられる。例えば、コーヒーの飲用と、喫煙の有無で、4つの集団に区分して分析をする。また、多変量解析という手法により、コーヒーの飲用と喫煙をそれぞれ脳卒中の発症要因と見て、影響度合いを見ることも考えられる。
ここで悩ましいのは、喫煙のような、わかりやすい交絡因子が、いつもあるとは限らない点だ。交絡因子が不明な場合や、複数の交絡因子が複雑に影響を及ぼすことが、よく見られる。このため、疫学の因果関係の検討には、交絡因子の考察が欠かせないものとなる。
これは、疫学に限った話ではない。日常の社会では、ある現象と、事件を結び付けて論じることが多い。その際、拙速に因果関係が導き出されてしまうこともある。このようなときは、交絡因子の存在を疑ってみることも、必要と思われるが、いかがだろうか。
保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
(2017年08月08日「基礎研マンスリー」)
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