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平均への回帰-複雑な因果関係は存在するのか?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
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滅多にないこと、特異なことに、人は関心をもつ。それが不自然なこと、奇妙なことであれば、オカルトや霊力といった要素を交えて、メディアで興味深く取り上げられたりもする。誰でも、常識では考えられないことや、これまでに見たことも聞いたこともないことを経験すると、多かれ少なかれ、そのことに興味がわいてくるものではないかと思われる。
そういう経験をした人は、「こういう変わったことは、そう何回も起こるものではない。きっと長くは続かないだろう。」と考えるのではないだろうか。確かに、宝くじの1等賞金を何回も連続で当てたとか、日本の都市で3ヶ月間以上雨が降らない日が続いたとか、という話はあまり聞かない。人は、こういう特別なことが起こると、きっとこれを打ち消すような反対の出来事が起きるだろう、と考えがちだ。これは行動経済学で「平均への回帰」として知られている。統計学では、「ある事象を何度も独立に繰り返して行うと、相対頻度が理論的な確率に近づいていく」という「大数の法則」が有名である。生命保険会社はこの法則が成り立つことを前提として、様々な保険の価格設定やリスク管理を行い、生命保険制度の運営に取り組んでいる。
スポーツの世界では、よく2年目のジンクスという言葉を耳にする。例えば、野球で、新戦力として加入した新人選手が1年目に大活躍をした後、2年目になると1年目ほどの成績が挙げられないというものだ。これには、他チームがその選手のことを研究して対策を講じたため、とか、その選手が慢心して練習を疎かにしたためとか、いろいろな理由が考えられるのだが、統計学的に見れば、むしろ自然なことと言えるのかもしれない。新人1年目に大活躍するというのは滅多にないことで、2年目になれば2年目選手の平均的な成績に落ち着いていくのは当然のこと、と考えるのである。
このように「平均への回帰」を用いて、因果関係を説明しようとする際に、注意しておくべき点がいくつかある。
1つ目は、平均への回帰を過小評価してしまうケースだ。例えば、風邪にかかって体温を測ってみたところ高熱であったため、風邪薬を飲んだとしよう。その後、暫く経って体温が下がると、飲んだ風邪薬が効いたため、と考えがちだ。実は、体温を測ったのが風邪のピークの時で、風邪薬を飲まなかったとしても自然に体温は下がっていたかもしれない。しかし、そのようには、なかなか考えない。これは、「平均への回帰」を、過小に評価していると言える。
2つ目は、平均への回帰を過大評価してしまうケースだ。例えば、普通のコインを3回投げてみたら3回とも表が出たとする。このとき4回目は表が出るだろうか、裏が出るだろうか。そろそろ裏が出そうだ、という考えは平均への回帰に囚われている。普通のコインは常に半分ずつの確率で表と裏が出るはずであり、4回目も裏の出る確率は50%と見るべきだろう。そもそも、3回や4回といった少ない回数では、大数の法則は成り立たない。少ないサンプルに対して、集団の性質を強引にあてはめることは誤りであり、これは「少数の法則」と言われている。
3つ目は、発生した出来事に複雑な因果関係を想定して余分な説明をしてしまい、平均への回帰を無視してしまうケースだ。アメリカのある有名なスポーツ雑誌には、表紙を飾った選手がその後スランプに陥るというジンクスがあり、実際にそのような結果も計量的に示されている。これに、あれこれと理由をつけても、なかなか腑に落ちる説明には至らない。実はそもそも複雑な因果関係などなく、表紙を飾ったときがピークで、その後不調に陥っただけなのかもしれない。即ち、単に、平均への回帰が生じただけと考えれば、この現象を当然のこととして捉えることができる。
統計をもとに推論を行う場合には、冷静な思考力が必要となる。ある出来事が起こったときに、それが何かの因果関係によるのか、それとも「平均への回帰」が生じているのか、クールに、思考を巡らせてみることが大切ではないかと考えるが、いかがだろうか。
(2014年08月25日「研究員の眼」)

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
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