2017年07月19日

中国経済-過剰債務問題の本質と展望

三尾 幸吉郎

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1――巨大化した中国非金融企業の債務

中国の過剰債務が世界経済を揺るがすのではないかとの懸念が高まっている。中国の債務残高を国際決済銀行(BIS)の統計で確認すると、金融セクターが非金融セクター向けに貸し出した債務残高は2015年末には26兆5640億ドルと、日本円に換算すれば約2700兆円に達している。貸出先別の内訳を見ると、一般政府向けは4兆6294億ドル、家計(含むNPISHs)は4兆1219億ドル、非金融企業向けは17兆8127億ドルとなっており、非金融企業向けが全体の67.1%を占めている(図表-1)。
(図表-1)中国の非金融セクターの債務残高(2015年12月末)
債務残高のこれまでの推移を見ると、リーマンショック前の2007年には対GDP比152.4%だったものが、2015年には同254.8%と102.4ポイントも増えている。貸出先別の内訳を見ると、一般政府向けは2007年の34.8%から2015年には44.4%へと9.6ポイント上昇、家計向けは2007年の19.0%から2015年には39.5%へと20.5ポイント上昇に留まったのに対して、非金融企業向けは2007年の98.7%から2015年には170.8%へと72.1ポイントも上昇している(図表-2)。リーマンショック後の2009年、世界経済がマイナス成長に落ち込む中で、中国経済はインフラ投資を加速させて前年比9.2%増の高成長を保ち、世界経済が悪循環に陥るのを食い止めるアンカー役となった。しかし、その背後では中国の非金融企業が債務残高を急増させて投資を加速させていたのだ。

また、中国の債務残高(対GDP比)を国際比較して見ると、一般政府向けはG20平均(65.9%)を21.5ポイント下回り、家計向けもG20平均(47.3%)を7.8ポイント下回っているものの、非金融企業向けはG20平均(70.3%)を100.5ポイントも上回っており、突出して大きい(図表-3)。
(図表-2)中国の非金融セクター債務残高(対GDP比)の推移/(図表-3)非金融企業の債務残高(対GDP比、2015年12月末)

2――巨大化した債務が調整する局面とは?

2――巨大化した債務が調整する局面とは?

1債務がピークアウトする水準
それでは、非金融企業の債務残高は一般にどの水準で限界を迎えてピークアウトするのだろうか。日本の場合を振り返ると、非金融企業の債務残高はバブル崩壊後の1994年に対GDP比149.2%でピークアウトした。これは現在の中国をやや下回る水準である。その後、日本では非金融企業の債務残高が減少に転じ、ここ10年は100%前後で推移している。また、韓国とタイはアジア通貨危機後の1990年代後半に115%前後でピークアウトしている(図表-4)。従って、アジア諸国の例から見ると中国の非金融企業の債務残高は限界を超えていると考えられなくもない。しかし、欧州諸国の場合を見ると、ベルギーでは2009年に150%弱の水準で一旦ピークアウトしたものの、その後の調整は小幅で短期間に留まり、最近では2009年のピークを上回ってきた。また、ピークアウトする水準も様々で、英国では2009年の100%弱がピークとなった一方、アイルランドでは2012年に220%超まで上昇してから調整局面を迎えることとなった(図表-5)。従って、債務残高の対GDP比など債務面を見ただけでは、中国の非金融企業の債務残高がどの水準でピークアウトするのかを判断するのは難しいといえるだろう。
(図表-4)アジア諸国の非金融企業(対GDP比)の推移/(図表-5)欧州諸国の非金融企業(対GDP比)の推移
2中国に近い経済環境にある国はどこか?
そこで、非金融企業の債務残高(対GDP比)がピークアウトした当時の経済環境を確認してみよう。まず、産業構成を見ると、当時の韓国、タイ、マレーシアは鉱工業の比率が3割を超えるなど中国の産業構成に比較的近い。ベルギーと英国は農林水産業が1%未満で、鉱工業が2割を下回り、サービス産業が大半のその他が5割を超えるなど中国の産業構成とは大きな違いがある。また、アイルランドと日本はその間に位置する(図表-6)。他方、需要構成を見ると、韓国、タイ、マレーシアは総固定資本形成の比率が高く、政府支出の比率が低く、純輸出が一桁台のプラスなど中国の需要構成に比較的近いが、アイルランド、ベルギー、英国とは大きな違いがある。また、日本はその間に位置している(図表-7)。

以上を踏まえると、現在の中国経済は、1990年後半の韓国、タイ、マレーシアに似た経済環境にあると考えられる。即ち、工業化による経済発展が進む中で、非金融企業が高水準の投資を続けたため、貸借対照表(バランスシート)の資産サイドでは設備が積み上がる一方、負債サイドでは債務が積み上がったという局面である。そして、日本との比較で見れば、バブル崩壊後の1994年というよりも高度成長期後半に似た経済環境だと思われる。
(図表-6)非金融企業債務残高ピークアウト時の産業構成/(図表-7)非金融企業債務残高ピークアウト時の需要構成
3BSの両サイド(投資と債務)がほぼ同時にピークを迎えた
タイの場合を見ると、1990年から1996年までの7年間に渡って総固定資本形成(対GDP比)が40%前後で推移する一方、非金融企業の債務残高(対GDP比)は、1991年の66.2%から1997年には114.9%まで急拡大している(図表-8)。マレーシアの場合を見ると、1993年に総固定資本形成(対GDP比)が40%を超えた後、1995年には46.9%に達し、その後も1997年まで40%台の高水準を維持した。一方、民間非金融セクター1の債務残高(対GDP比)は、1990年の104.7%から1997年には167.2%まで急拡大している(図表-9)。また、同時期の韓国では、1990年から1996年までの7年間に渡って総固定資本形成(対GDP比)が35%超で推移する一方、非金融企業の債務残高(対GDP比)は、1990年の76.8%から1997年には110.2%まで拡大している。そして、かつての日本でも高度成長期後半の1969年から1974年までの6年間に渡って総固定資本形成(対GDP比)が35%前後で推移する一方、非金融企業の債務残高(対GDP比)は、1969年の97.2%から1972年には113.5%まで拡大している。
(図表-8)タイの投資比率と債務残高の推移/(図表-9)マレーシアの投資比率と債務残高の推移
 
1 マレーシアの非金融企業の債務残高(対GDP比)は2006年以降しか入手できなかったため、非金融企業に家計を加えた民間非金融セクターの債務残高(対GDP比)を用いて記述している。なお、2015年末時点の家計の債務残高(対GDP比)は71%となっている。
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