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欧州保険会社が2016年のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)を公表(1)-全体的な状況報告-
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4―今回のSFCR公表を受けての関係者の反応及び意見
1|保険会社
保険会社各社は、他社のSFCRを分析することを通じて、自社のSFCRの位置付けを確認しようとしている。各種の説明内容や情報の提供レベルについては、他社との比較感を見る中で、翌年度以降のSFCR作成に生かしていこうとしている。
2|監督当局
ドイツの保険監督当局BaFinの保険・年金監督責任者であるFrank Grund氏は、SFCRによって公表される数字が誤解されることがないようにと警告している。さらには、「低金利への対応能力でドイツの保険会社をランク付けするためにSFCRが使用されるべきではない。」と述べている。
英国の保険監督当局PRA(健全性規制機構)の保険監督責任者であるDavid Rule氏は、「PRAがSFCRの内容の深さに関してあまりにも規範的であることは有益ではないが、いくつかの領域はより整合的にできるだろう。」、さらに「危機の際の数字に対する信頼の喪失の危険を冒さないためにも、保険会社は、ソルベンシー比率の背後にあるものを、保険契約者や投資家等に十分に説明する必要がある。」と述べている。
3|Deloitte の報告書
Deloitteはアイルランドの61の保険会社のSFCRを分析2しているが、これに基づくと、概ね以下の評価がなされている。これらの評価は、他の国の保険会社のSFCRに対して、必ずしも当てはまるものではないかもしれないが、一定程度共通的な評価を示唆しているものと思われる。
・ユーザー・アクセシビリティという観点からは、金融や保険の概念に対する十分な知識を有していない平均的な保険契約者がSFCRを理解できるものにするという点で、一般的に損害保険会社の方が生命保険会社よりも優れていた。フローチャートを使用して、リスク管理制度やORSAプロセスの説明を行うことで、一目で重要なポイントが把握できるようにしていた。
・大手の会社や上場会社は、既に財務諸表における開示等を通じて、多くの情報を提供しているので、より詳細なレベルの情報をSFCRに含めていた。
・セクション間の比較では、「B.ガバナンス制度」が最も分量が多く、「A.ビジネスとパフォーマンス」と「E.資本管理」の分量が少なかった。
・「A.ビジネスとパフォーマンス」は、本質的に事実に基づいているものである。大多数の会社が引受け結果を提示していたが、引受け結果の標準的な尺度の欠如が、会社間の引受け結果の比較を困難にしている。
・「B.ガバナンス制度」は、(アイルランドの保険監督当局である)CBIが、重要な開示要件であるとの明確なメッセージを送っていた。今回の情報は、会社固有のガバナンス体制についての真の洞察がなく、最低限の事実レベルであった。全体的な感触は、非常に「定型文句(boilerplate)」であった。ガバナンス制度は、企業が市場慣行に対応して強化する必要のある分野であると期待している。
・「C.リスクプロファイル」については、殆どの会社は標準式のストレスの影響を提供していたが、さらなる感応度/シナリオ、ストレスおよびリバースストレステストの詳細を提供している会社はほんのわずかだった。
・「D.ソルベンシー目的のための評価」については、会社によって大きく異なっている。多数の会社が技術的準備金を算出する上で使用される基礎、手法及び主要な前提を説明していなかった。そのため、ユーザーが技術的準備金がどのように計算されているのかを理解するのが難しく、会社間の比較も限定される。
・「E.資本管理」については、最低限の要件を満たした企業は殆どなかった。殆どの会社がソルベンシー/最低資本要件のハイレベル(大まか)な情報を提供するのみだった。これらの数値に関する議論は殆ど提供されておらず、殆どの会社が資本管理は内部及び外部のSCRカバレッジ比率の目標を満たし続けることを目指していると述べていた。このセクションが、例えば、企業やブランドの強みを強化するために、高いカバレッジ比率を使用するなど、対話を拡大するために、会社が将来的に努力を集中することを選択する可能性のある分野になることを期待している。
今回のSFCRに対しては、アナリスト等のユーザーから様々な反応が見られている。
財務状況に関する重要な付属情報を提供するものであるとして、評価する向きもある。例えば、主要な子会社毎のSFCRが開示されるので、これらの分析を通じて、グループのSFCRの構造分析が可能になるとされている。
一方で、内部モデルやマッチング調整等の領域での説明や情報開示が十分ではないとの意見もある。また、ソルベンシー資本カバレッジの変化の要因分析等において、会社間での整合的な分析結果の開示が必要との意見もある。
さらには、今回のSFCRが提供している情報は、保険会社間の比較分析に十分に貢献するものではなく、開示を通じて市場規律を創出するというSFCRの主要目標は果たせていない、との意見もある。ソルベンシーIIのメカニズムの使用状況と販売されている保険商品の構成が、国毎に大きく異なる可能性があるという事実によって、SFCRの用途が限られている、との意見である。ソルベンシーIIの目的は最大の調和を生み出すことだったが、現実はそうではないことから、ソルベンシーIIのデータに依存しているSFCRを使用することは相互比較を困難にしている、とされている。
また、保険契約者や投資家等の主要な利害関係者の理解可能性という観点からは、まだまだ解決すべき課題が多いとの意見がある。
なお、今回のSFCRで公表された数値に関しては、改めて、(1)長期保証措置と移行措置の適用の影響が再確認され、会社や国によってはその存在の大きさが再認識されたことや、(2)グループSFCRにおける分散化効果の大きさ、(3)LAC DT(Loss Absorbing Capacity of Deferred Tax:繰延税金の損失吸収能力)への依存の程度、が明確化されていることが注目されているようである。
5―まとめ
これによると、今回のSFCRは必ずしも高い評価を得ていないようである。
保険会社は今回のSFCRの作成において、可能な限り既存の報告書からの引用等も利用する中で、負担の軽減を図っていたようであるが、それでも限られた時間の中で、多大な労力が費やされたようである。2016年度は最初の年であることから、試行錯誤もあったものと思われるが、来年度以降作成のスケジュールが段階的に早期化されていくことから、今回の経験を踏まえて、さらなる効率化が図られていくことになる。一方で、今回のSFCRに対する厳しい評価も踏まえて、さらなる充実に向けた取組みも求められてくることになる。
監督当局は今回のSFCRで開示されている以上の多くの情報を、定期的な監督報告書(Regular Supervisory Report:RSR)やより豊富な内容を有するQRTsの形で入手している。こうした情報の中には、保険会社のリスク管理等の構造や保険会社間の相対比較を知る上で重要な、多くの貴重な情報が含まれているものと思われる。
いずれにしても、今後の保険会社と監督当局との関係や、保険会社各社の他社研究等を通じて、SFCRの有用性の向上に向けた取組みがより一層行われていくことを期待したい。
次回以降のレポートで、欧州大手保険グループ各社のSFCRから一部の項目(長期保証措置と移行措置の適用による影響、内部モデルと標準式の差異等)を抜粋して報告する。
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(2017年07月11日「保険・年金フォーカス」)
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