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2017年07月11日
欧州保険会社が2016年のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)を公表(1)-全体的な状況報告-
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3―SFCRの全体的な状況
2―2|で述べたように、SFCRの記載項目等は法令等で規定されているが、さらにEIOPAは監督当局が期待するものについてのガイドラインを公表している。ただし、SFCRの詳細な内容については各社の裁量に委ねられた形になっており、実際のSFCRの記載内容等も各社各様となっている。
この章では、SFCRの全体的な状況について、主として欧州大手保険グループ6社(AXA、Allianz、Generali、Prudential、Aviva、Aegon)のSFCRに基づいて、報告する。
1|公表時期(単体及びグループSFCR)
2016年決算におけるSFCRの公表期限については、単体については5月20日であったため、多くの会社がその直前の営業日である5月19日に対外的に公表している。Hannover ReやAIG Europeのように5月19日より前に公表した会社もあるが、少数派であった。
グループのSFCRについては、単体と合わせて、同時に公表している会社もあるが、この時点では法令等で求められている単体のみに止めて、グループについてはその公表期限である7月1日を待って、その直前の営業日である6月30日に対外的な公表を行っている会社が多かったようである。
欧州大手保険グループの中では、AXA、Prudential、Avivaが前者に属し、Allianz、Generali、Aegonが後者に属していた。国毎に監督当局のスタンスが異なっていること等も反映されているものと思われる。
2|ボリューム(ページ数)
SFCRのボリューム(ページ数)については、附属資料等を除いた本体部分だけで、欧州大手保険グループ6社のグループSFCRだけをみても、60ページから120ページとかなり幅のあるものとなっている。その他の会社では20ページに満たない会社もある。もちろん各社の会社構造等の違いもあることから、外形的なボリュームだけに基づいて、SFCRの内容の評価はできないが、一定程度会社のスタンス等を反映したものとなっているものと思われる。
3|使用言語
グループSFCRで使用される言語については、委任規則(EU) 2015/35の第360条に規定されている。
これによると、その第1項で「保険及び再保険会社、保険持株会社又は複合金融持株会社は、グループSFCRをグループ監督当局が定めた言語で開示するものとする。」と規定されている。ただし、第2項において「監督カレッジが複数の加盟国の監督当局から構成されている場合、グループの監督当局は、関連する監督当局及び当該グループと協議した後、保険及び再保険会社、保険持株会社又は複合金融持株会社に対して、監督カレッジでの合意により、第1項に言及された報告書を、関係する他の監督当局によって最も一般的に理解される別の言語で開示することを要求できる。」としている。さらに、第3項において、「保険及び再保険会社、保険持株会社又は複合金融持株会社の保険及び再保険子会社のいずれかが、その公用語が第1項及び第2項の適用によってSFCRを開示している言語と異なっている加盟国に本店を有する場合、保険及び再保険会社、保険持株会社又は複合金融持株会社は、当該報告書の要約を当該加盟国の公用語に翻訳しなければならない。」と規定されている。
この規定に基づいて、例えば、欧州大手保険グループ6社は、そのグループSFCRについて、自国語に加えて、英語版も作成している。さらに、Allianzは、グループSFCRの要約について、保険子会社が存在する加盟国の公用語に翻訳したバージョンを公表している。なお、6社以外の会社でも、英語版を平行して作成したり、当初は自国語版のみを公表して、後ほど英語版をWebサイトで公表している会社もある。
一方で、単体のSFCRについては、基本的には当該単体の管轄地域の言語だけの対応となっている。ただし、欧州大手保険グループ6社については、一部の主要単体会社や主要国でない場合等について、英語で作成しているケースもある。
例えば、AllianzはWebサイトで13の単体のSFCRを公表しているが、そのうちの2つ(Allianz Insurance plc(英国)とEuler Herms(ベルギー))のみが英語版となっている。英語圏以外では、ベルギーの子会社が自国以外の言語の英語で作成していることになる。ところが、主要な単体保険会社であるAllianz SEについてはドイツ語版のみとなっている。
GeneraliはWebサイトで20の単体のSFCRを公表しているが、そのうちの2つ(Generali Belgium S.A.(ベルギー)とCeská pojištovna A.S.(チェコ))が英語で作成されており、他は管轄地域の言語で作成されている。Generaliは、単体の親会社のAssicurazioni Generali S.p.A.について、イタリア語版だけでなく、英語版も作成している。
このように、グループ会社において、その構成会社である全ての単体のSFCRが当該単体の管轄地域の言語で作成されているというわけでもない。ただし、当該市場において一定の市場シェアを有する会社の場合には、当該監督当局から、当該国の言語で作成することを要請されることになっているようである。
4|QRTsの取扱
ソルベンシーII年次定量的報告テンプレート(年次QRTs)の報告については、SFCRの附属資料としている会社と別途資料としている会社がある。
年次QRTsは、SFCRに提示された情報を補完し、2―2|で述べたように、国別や事業別の貸借対照表項目、保険料、保険金請求及び事業費、技術的準備金、自己資本及びソルベンシー資本要件の金額、長期保証措置と移行措置の適用による影響等を明らかにしている表で構成されている。
5|独立監査人による監査報告書
SFCRについては、監査を強制されているわけではない。ただし、EIOPAは監査を推奨し、いくつかの国の監督当局は監査の必要性を強く主張している。
こうした状況下で、今回のSFCRでの欧州大手保険グループ6社の対応は分かれている。具体的には、AXA、Generali、Prudential、Aviva については、独立監査人による監査報告書がSFCRの附属資料として添付されているが、AllianzとAegonのSFCRには添付されていない。
独立監査人による監査を、品質管理の一環として利用するとのスタンスを有している会社もあれば、重要かつ堅実な社内レビューを通じてチェックを行っているとのスタンスの会社もある。
監査を行う場合、監査が困難または不可能な技術的な手法等の使用が制約を受けるとともに、説明のために内部情報の開示の必要性が高まることになる。
この章では、SFCRの全体的な状況について、主として欧州大手保険グループ6社(AXA、Allianz、Generali、Prudential、Aviva、Aegon)のSFCRに基づいて、報告する。
1|公表時期(単体及びグループSFCR)
2016年決算におけるSFCRの公表期限については、単体については5月20日であったため、多くの会社がその直前の営業日である5月19日に対外的に公表している。Hannover ReやAIG Europeのように5月19日より前に公表した会社もあるが、少数派であった。
グループのSFCRについては、単体と合わせて、同時に公表している会社もあるが、この時点では法令等で求められている単体のみに止めて、グループについてはその公表期限である7月1日を待って、その直前の営業日である6月30日に対外的な公表を行っている会社が多かったようである。
欧州大手保険グループの中では、AXA、Prudential、Avivaが前者に属し、Allianz、Generali、Aegonが後者に属していた。国毎に監督当局のスタンスが異なっていること等も反映されているものと思われる。
2|ボリューム(ページ数)
SFCRのボリューム(ページ数)については、附属資料等を除いた本体部分だけで、欧州大手保険グループ6社のグループSFCRだけをみても、60ページから120ページとかなり幅のあるものとなっている。その他の会社では20ページに満たない会社もある。もちろん各社の会社構造等の違いもあることから、外形的なボリュームだけに基づいて、SFCRの内容の評価はできないが、一定程度会社のスタンス等を反映したものとなっているものと思われる。
3|使用言語
グループSFCRで使用される言語については、委任規則(EU) 2015/35の第360条に規定されている。
これによると、その第1項で「保険及び再保険会社、保険持株会社又は複合金融持株会社は、グループSFCRをグループ監督当局が定めた言語で開示するものとする。」と規定されている。ただし、第2項において「監督カレッジが複数の加盟国の監督当局から構成されている場合、グループの監督当局は、関連する監督当局及び当該グループと協議した後、保険及び再保険会社、保険持株会社又は複合金融持株会社に対して、監督カレッジでの合意により、第1項に言及された報告書を、関係する他の監督当局によって最も一般的に理解される別の言語で開示することを要求できる。」としている。さらに、第3項において、「保険及び再保険会社、保険持株会社又は複合金融持株会社の保険及び再保険子会社のいずれかが、その公用語が第1項及び第2項の適用によってSFCRを開示している言語と異なっている加盟国に本店を有する場合、保険及び再保険会社、保険持株会社又は複合金融持株会社は、当該報告書の要約を当該加盟国の公用語に翻訳しなければならない。」と規定されている。
この規定に基づいて、例えば、欧州大手保険グループ6社は、そのグループSFCRについて、自国語に加えて、英語版も作成している。さらに、Allianzは、グループSFCRの要約について、保険子会社が存在する加盟国の公用語に翻訳したバージョンを公表している。なお、6社以外の会社でも、英語版を平行して作成したり、当初は自国語版のみを公表して、後ほど英語版をWebサイトで公表している会社もある。
一方で、単体のSFCRについては、基本的には当該単体の管轄地域の言語だけの対応となっている。ただし、欧州大手保険グループ6社については、一部の主要単体会社や主要国でない場合等について、英語で作成しているケースもある。
例えば、AllianzはWebサイトで13の単体のSFCRを公表しているが、そのうちの2つ(Allianz Insurance plc(英国)とEuler Herms(ベルギー))のみが英語版となっている。英語圏以外では、ベルギーの子会社が自国以外の言語の英語で作成していることになる。ところが、主要な単体保険会社であるAllianz SEについてはドイツ語版のみとなっている。
GeneraliはWebサイトで20の単体のSFCRを公表しているが、そのうちの2つ(Generali Belgium S.A.(ベルギー)とCeská pojištovna A.S.(チェコ))が英語で作成されており、他は管轄地域の言語で作成されている。Generaliは、単体の親会社のAssicurazioni Generali S.p.A.について、イタリア語版だけでなく、英語版も作成している。
このように、グループ会社において、その構成会社である全ての単体のSFCRが当該単体の管轄地域の言語で作成されているというわけでもない。ただし、当該市場において一定の市場シェアを有する会社の場合には、当該監督当局から、当該国の言語で作成することを要請されることになっているようである。
4|QRTsの取扱
ソルベンシーII年次定量的報告テンプレート(年次QRTs)の報告については、SFCRの附属資料としている会社と別途資料としている会社がある。
年次QRTsは、SFCRに提示された情報を補完し、2―2|で述べたように、国別や事業別の貸借対照表項目、保険料、保険金請求及び事業費、技術的準備金、自己資本及びソルベンシー資本要件の金額、長期保証措置と移行措置の適用による影響等を明らかにしている表で構成されている。
5|独立監査人による監査報告書
SFCRについては、監査を強制されているわけではない。ただし、EIOPAは監査を推奨し、いくつかの国の監督当局は監査の必要性を強く主張している。
こうした状況下で、今回のSFCRでの欧州大手保険グループ6社の対応は分かれている。具体的には、AXA、Generali、Prudential、Aviva については、独立監査人による監査報告書がSFCRの附属資料として添付されているが、AllianzとAegonのSFCRには添付されていない。
独立監査人による監査を、品質管理の一環として利用するとのスタンスを有している会社もあれば、重要かつ堅実な社内レビューを通じてチェックを行っているとのスタンスの会社もある。
監査を行う場合、監査が困難または不可能な技術的な手法等の使用が制約を受けるとともに、説明のために内部情報の開示の必要性が高まることになる。
6|その他
SFCRは、その趣旨からして、できる限り保険契約者や投資家等が理解できるものを提供していくことが求められている。こうした観点から、多くの会社が、用語集を付け加えて、複雑な専門用語の説明を行っている。さらには、テキストや図表を積極的に使用して、読者にわかりやすいものを目指している会社もある。ただし、補足的な情報や解説については、限定的で、基本的な要件だけを満たしている会社が多い。
SFCRは、その趣旨からして、できる限り保険契約者や投資家等が理解できるものを提供していくことが求められている。こうした観点から、多くの会社が、用語集を付け加えて、複雑な専門用語の説明を行っている。さらには、テキストや図表を積極的に使用して、読者にわかりやすいものを目指している会社もある。ただし、補足的な情報や解説については、限定的で、基本的な要件だけを満たしている会社が多い。
(2017年07月11日「保険・年金フォーカス」)
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