2017年06月30日

消費者物価(全国17年5月)~物価の基調は弱く、上昇品目数も減少

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1.コアCPI上昇率は0.1ポイント拡大

消費者物価指数の推移 総務省が6月30日に公表した消費者物価指数によると、17年5月の消費者物価(全国、生鮮食品を除く総合、以下コアCPI)は前年比0.4%(4月:同0.3%)と5ヵ月連続で上昇し、上昇率は前月から0.1ポイント拡大した。事前の市場予想(QUICK集計:0.4%、当社予想も0.4%)通りの結果であった。

生鮮食品及びエネルギーを除く総合は前年比0.0%(4月:同0.0%)、総合は前年比0.4%(4月:同0.4%)と8ヵ月連続のプラスとなった。
消費者物価指数(生鮮食品除く、全国)の要因分解 コアCPIの内訳をみると、大幅上昇が続いているガソリン(4月:前年比14.9%→5月:同12.3%)、灯油(4月:前年比28.1%→5月:同27.8%)は上昇幅が縮小したが、電気代(4月:前年比0.9%→5月:同2.5%)の上昇幅が拡大したこと、ガス代(4月:前年比▲3.2%→5月:同▲1.5%)の下落幅が縮小したことから、エネルギー価格の上昇率が4月の前年比4.5%から同5.1%へと拡大した。

被服及び履物(4月:前年比▲0.1%→5月:同0.1%)が2ヵ月ぶりの上昇となったこともコアCPIを若干押し上げた。

コアCPI上昇率を寄与度分解すると、エネルギーが0.38%(4月:0.34%)、食料(生鮮食品を除く)が0.18%(4月:0.18%)、その他が▲0.16%(4月:▲0.22%)であった。

2.上昇品目数が減少

消費者物価(除く生鮮食品)の「上昇品目数(割合)-下落品目数(割合)」 消費者物価指数の調査対象523品目(生鮮食品を除く)を、前年に比べて上昇している品目と下落している品目に分けてみると、5月の上昇品目数は281品目(4月は296品目)、下落品目数は180品目(4月は168品目)となり、上昇品目数が前月から減少した。上昇品目数の割合は53.7%(4月は56.6%)、下落品目数の割合は34.4%(4月は32.1%)、「上昇品目割合」-「下落品目割合」は19.3%(4月は24.5%)であった。

上昇品目数は15年度中には6割を超えていたが、16年夏場以降は5割台に低下している。かつてに比べて企業の値上げに対する抵抗感は小さくなっており、輸入物価上昇や人件費上昇に伴うコストの上昇の一部を価格転嫁する動きは継続しているものの、その勢いは弱まっている。

3.東京都区部のコアCPIが事前予想から大きく下振れ

17年6月の東京都区部のコアCPIは前年比0.0%(5月:前年比0.1%)となり、上昇率は前月から0.1ポイント縮小した。事前の市場予想(QUICK集計:0.2%、当社予想は0.1%)を大きく下回る結果であった。

ガソリン(5月:前年比12.1%→6月:同7.0%)、灯油(5月:前年比13.9%→5月:同13.8%)の上昇幅は縮小したが、電気代(5月:前年比1.8%→6月:同4.5%)の上昇幅が拡大したこと、ガス代(5月:前年比▲2.9%→6月:同0.0%)が2年1ヵ月ぶりにマイナスを脱したことから、エネルギー価格の上昇率が5月の前年比1.5%から同3.4%へと拡大した。
消費者物価指数(生鮮食品除く、東京都区部)の要因分解 一方、テレビ、ビデオカメラなどの教養娯楽用耐久財のマイナス幅が拡大(5月:前年比▲4.7%→6月:同▲6.5%)したことに加え、パック旅行費の大幅下落(5月:前年比5.7%→6月:同▲5.3%)から教養娯楽サービスが前年比▲0.1%(5月:同1.7%)とマイナスに転じたため、教養娯楽(5月:前年比0.9%→6月:同▲0.3%)が2年2ヵ月ぶりのマイナスとなった。教養娯楽だけでコアCPI上昇率は前月から0.1ポイント以上縮小した。

東京都区部のコアCPI上昇率のうち、エネルギーによる寄与が0.17%(5月:0.08%)、食料(生鮮食品を除く)が0.11%(5月:0.11%)、その他が▲0.28%(5月:▲0.09%)であった。

4.コアCPI上昇率は秋以降縮小に向かう可能性も

ガソリン、灯油の前年比上昇率は3月をピークに縮小し始めているが、原油価格の動きが遅れて反映される電気代、ガス代は秋頃まで上昇率が高まることが見込まれる。現時点では、エネルギーによるコアCPI上昇率の押し上げ寄与は17年10月に0.5%程度まで拡大すると予想している。また、既往の円高による物価下押し圧力は残っているものの、足もとのドル円レートはすでに前年よりも円安水準となっており、今後は円安が物価の押し上げ要因となることが見込まれる。コアCPIは17年秋頃にはゼロ%台後半まで伸びを高めるだろう。
コアCPIに対するエネルギーの寄与度 ただし、ここにきて原油価格が大きく下落しており、現状程度(1バレル=40ドル台半ば)の水準が継続した場合には、17年秋以降はエネルギー価格の上昇率が急速に縮小する。当研究所では、17年末にかけて、原油価格(ドバイ)は1バレル=50ドル程度まで上昇し、ドル円レートは110円台半ばまで円安が進行することを想定しているが、それでもエネルギーによるCPI上昇率の押し上げ寄与は17年度末頃には0.2%程度まで縮小する。

今後は需給バランスの改善に伴う物価押し上げ圧力が一定程度高まることが期待できるが、エネルギー価格の上昇幅縮小による影響が大きい。コアCPI上昇率は17年秋頃にはゼロ%台後半まで高まった後、頭打ちとなる可能性が高く、為替、原油価格の動向次第では上昇率が大きく縮小することもありうるだろう。
 
 

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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

(2017年06月30日「経済・金融フラッシュ」)

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