2017年06月01日

法人企業統計17年1-3月期~企業部門の好調が一段と鮮明に、経常利益は2四半期連続で過去最高を更新

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1.経常利益は16年度後半にV字回復

財務省が6月1日に公表した法人企業統計によると、17年1-3月期の全産業(金融業、保険業を除く、以下同じ)の経常利益は前年比26.6%と3四半期連続の増加となり、16年10-12月期の同16.9%から伸びを高めた。非製造業が前年比10.7%(10-12月期:同12.5%)と3四半期連続の二桁増益となったことに加え、製造業が前年比70.3%と10-12月期の同25.4%から伸びを急速に高めた。
経常利益の推移 経常利益は3四半期連続で二桁の伸びとなったが、16年7-9月期の経常利益は、純粋持株会社の子会社からの受取配当急増により大きく押し上げられていた。純粋持株会社を除いた経常利益は16年7-9月期が前年比▲5.3%、10-12月期が同14.8%、17年1-3月期が同26.1%となる。16年度の企業収益は実態としては年度前半に落ち込んだ後、年度後半にV字回復したとみることができる。
売上高経常利益率の要因分解(製造業)/売上高経常利益率の要因分解(非製造業)
製造業は世界経済の回復を背景とした輸出数量の持ち直し、円高の影響一巡に伴う輸出価格の上昇から、売上高が前年比4.3%(10-12月期:同▲0.1%)と7四半期ぶりに増加したことに加え、売上高経常利益率が16年1-3月期の4.4%から7.1%へと大きく改善したことが経常利益を押し上げた。円高の一巡、原油価格の上昇などから変動費は前年比2.3%と10四半期ぶりの増加となり、人件費も増加(前年比1.1%)が続いたが、いずれも売上高の伸びを下回ったため、変動費要因、人件費要因はいずれも利益率の改善要因となった。

非製造業は売上高が前年比6.1%(10-12月期:同2.8%)と伸びを高め、売上高経常利益率が5.2%と16年1-3月期の5.0%から改善した。製造業とは異なり変動費が前年比6.9%の高い伸びとなったことから変動費要因は利益率を押し下げたが、人件費が前年比1.0%の低い伸びにとどまり人件費要因が利益率を押し上げた。原油価格の上昇などに伴い変動費は前年比2.4%と7四半期ぶりに増加したが、売上高の伸びがそれを上回ったため、非製造業も変動費要因が利益率の改善要因となった。

2.経常利益(季節調整値)は2四半期連続で過去最高を更新

経常利益の内訳を業種別に見ると、製造業では、電気機械(前年比314.8%)、情報通信機械(同218.2%)、輸送機械(同111.2%)が前年から2~4倍に膨らむなど、軒並み大幅増益となった。非製造業は、電気業が▲1,099億円の赤字、建設業(前年比▲8.3%)、運輸・郵便業(同▲29.9%)が減益となる一方、卸売・小売業(前年比24.6%)、サービス業(同35.6%)が二桁増益となった。製造業に比べると業種毎のばらつきが大きかったが、全体では3四半期連続で二桁増益となった。
経常利益(季節調整値)の推移 季節調整済の経常利益は前期比2.7%(10-12月期:同6.0%)と4四半期連続で増加した。非製造業は前期比▲2.7%(10-12月期:同▲0.1%)と2四半期連続で減少したが、製造業が10-12月期の前期比20.1%に続き1-3月期も同13.2%の高い伸びとなった。

この結果、17年1-3月期の経常利益(季節調整値)は20.4兆円となり、16年10-12月期に続き過去最高水準を更新した。今回の景気回復局面では、非製造業に比べ製造業の収益回復が遅れていたが、世界経済回復の恩恵を受けて16年度入り後急回復し、17年1-3月期には製造業の利益水準も過去最高を更新した。

3.設備投資は17年度入り後に回復基調が明確に

設備投資(ソフトウェアを含む)の推移 設備投資(ソフトウェアを含む)は前年比4.5%と2四半期連続で増加し、10-12月期の同3.8%から伸びが高まった。製造業(10-12月期:前年比7.4%→1-3月期:同1.0%)は伸びが鈍化したが、非製造業(10-12月期:前年比1.9%→1-3月期:同6.3%)の伸びが加速した。

季節調整済の設備投資(ソフトウェアを除く)は前期比1.3%と2四半期連続増加した。製造業(10-12月期:前期比5.8%→前期比▲1.8%)は2四半期ぶりに減少したが、非製造業(10-12月期:前期比2.2%→1-3月期:同3.3%)が3四半期連続で増加した。
円高や新興国経済の減速に伴い15年末から16年前半にかけて企業収益は大きく悪化したが、円高一巡や世界的な製造業サイクルの改善を受けて、16年後半以降は急回復している。

好調な企業収益に対し、設備投資の伸びは現時点では限定的にとどまっているが、企業収益の増加に伴う潤沢なキャッシュフローを背景に17年度入り後には設備投資の回復基調がより明確となることが予想される。
設備投資/キャッシュフロー比率と期待成長率の関係 ただし、「設備投資/キャッシュフロー比率」が50%台後半の低水準で推移していることからも分かる通り、企業は設備投資に対する慎重姿勢を崩していない。内閣府の「企業行動に関するアンケート調査(16年度)」では、企業の今後3年間、5年間の実質成長率の見通しがそれぞれ1.1%、1.0%となり、企業の期待成長率が依然低水準にとどまっていることが示された。

当面は、企業がキャッシュフローに対する設備投資の水準を大きく切り上げることは考えにくいため、企業収益に比べ設備投資の回復ペースは緩やかにとどまる可能性が高いだろう。

4.1-3月期・GDP2次速報は上方修正を予想

本日の法人企業統計の結果等を受けて、6/8公表予定の17年1-3月期GDP2次速報では、実質GDPが前期比0.6%(前期比年率2.6%)となり、1次速報の前期比0.5%(前期比年率2.2%)から上方修正されると予測する。
2017年1-3月期GDP2次速報の予測 設備投資は前期比0.2%から同0.7%へと上方修正されるだろう。設備投資の需要側推計に用いられる法人企業統計の設備投資(ソフトウェアを除く)は前年比5.2%と、10-12月期の同3.3%から伸びを高めた。また、金融保険業の設備投資は前年比1.7%(10-12月期:同▲8.2%)と5四半期ぶりに増加した。法人企業統計ではサンプル替えに伴う断層が生じるため、当研究所でこの影響を調整したところ、設備投資の伸びは前年比で4%台半ばとなった。GDP1次速報の設備投資は名目・前年比3.0%となっており、本日の法人企業統計の結果は設備投資の上方修正要因と考えられる。

民間在庫変動は1次速報で仮置きとなっていた原材料在庫、仕掛品在庫に法人企業統計の結果が反映され若干上方修正されるが、寄与度は1次速報の前期比0.1%から変わらないだろう。その他の需要項目では、3月の建設総合統計が反映されることなどから、公的固定資本形成が1次速報の前期比▲0.1%から同0.3%へと上方修正されると予想する。
 
 

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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

(2017年06月01日「経済・金融フラッシュ」)

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