2017年06月28日

予算教書で示された債務残高(GDP比)削減は可能か-大型減税と債務残高の削減を同時に達成することは困難

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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■要旨

米国では、金融危機後の大型景気対策を契機に財政赤字や債務残高が急増した。今後も高齢化の進展に伴う公的医療関連費用の増大などを背景に債務残高の増加基調が持続すると予想されており、長期的に債務残高をGDP比で安定させることが課題となっている。一方、米国は財政赤字の拡大を抑制するための仕組みを金融危機後に策定したものの、緊縮財政に伴う景気への影響を懸念した政治的な配慮から仕組みに沿わない財政運営が行われており、有名無実化している。

昨年の大統領選挙で当選したトランプ大統領は、選挙期間中から個人や法人に対する大型減税や、インフラ投資の拡大などを選挙公約に掲げていたため、トランプ政権下で財政状況が悪化する可能性が多くの専門家から指摘されてきた。

一方、トランプ政権下で初めての予算教書(大統領予算案)は、今後10年間で財政収支を黒字化する方針を示したほか、債務残高(GDP比)についても10年後に6割弱まで低下させるとする意欲的な案を示した。

もっとも、今回提示された予算教書では成長率で非常に楽観的な想定を置いているほか、肝心の大型減税を伴う税制改革について、歳入減などのコストを見込んでいないなど、非現実的な想定であることが指摘されている。本稿では、それらの影響を加味した場合に債務残高がどの程度影響を受けるか検証を行った。

結論から言えば、成長率を現実的な想定に戻し、税制改革に伴う歳入減の影響を考慮すれば、10年後の債務残高(GDP比)は予算教書で提示された試算に反し、増加する可能性が高い。今後本格化する予算編成、税制改革論議では減税などの規模縮小は避けられないだろう。

■目次

1――はじめに
2――米連邦政府の財政状況
  1|金融危機後に米財政状況は大幅に悪化
  2|財政赤字削減の仕組み:有名無実化しており、機能していない
3――トランプ大統領の予算教書(大統領予算案)
  1|10年間で財政黒字化、債務残高(GDP比)を6割まで削減する意欲的な内容
  2|予算教書の検証(1):高い成長率想定
  3|予算教書の検証(2):税制改革(減税等)による歳入減を見込まず
4――結論
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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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