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求められる20~40代の経済基盤の安定化-経済格差と家族形成格差の固定化を防ぎ、消費活性化を促す

生活研究部 上席研究員 久我 尚子
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1――はじめに
今の40代半ば以下の世代は景気低迷の中で新卒の就職時期を迎えた世代だ。年齢が若いほど非正規雇用者が多く、正規雇用者でもかつてほど収入は多くない。以前に述べた通り1、経済格差は家族形成格差にもつながる。就職氷河期世代は、すでに家族形成期に入っており、経済基盤の安定化は急務だ。
中核世代の経済力が増すことは、低迷が続く個人消費の底上げを考える上でも意義深い。家族形成期は、家や自動車の購入、教育費などの出費がかさむ時期であり、消費活性化の契機だ。20~40代の経済力が増し、希望通りの結婚や子育てが実現できれば、消費市場の持続的拡大が望める。逆に、この年代で消費が活性化しなければ、日本の消費市場は縮小の一途をたどることになりかねない。
本稿では、あらためて20~40代の経済基盤強化に向けた主な政策を振り返るとともに、雇用情勢や消費の観点から見た意義を述べる。
1 久我尚子「若年層の経済格差と家族形成格差~増加する非正規雇用者、雇用形態が生む年収と既婚率の違い」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート(2016/7/14)など。
2――昨年度からの主な政策の動き
なお、いずれも2026年度までの10年間の工程表が記されている。政府資料としてはめずらしい印象があり、強い意思表示のようにも見える。各施策の達成状況については、今後、丁寧に見ていく必要があるが、実現に向けた決意は高く評価できるのではないか。
「ニッポン一億総活躍プラン」を受けて、今年3月に「働き方改革実行計画」がまとめられた。具体策を見ると、「①同一労働同一賃金など非正規雇用者の処遇改善」では、基本給だけでなく各種手当てや福利厚生、教育訓練等も含めて均等・均衡待遇の確保に向けたガイドライン案が定められている(図表2)。不安定な雇用環境は家族形成を阻む要因でもある。均等・均衡待遇の確保が実現すれば、この状況に一定の改善が望めるだろう。

「⑤女性・若者の人材育成など活躍しやすい環境整備」では、女性の再就職支援や更なる活躍促進などに加えて、就職氷河期世代の雇用環境の整備にも言及している。足元、アベノミクスによる企業活動の活発化により新卒内定率は上昇している2。一方、就職氷河期に学校を卒業した世代は取り残されており、正社員になれず非正規のまま就業又は無業を続けている者が40万人以上存在する(実行計画本文)。当該層では家族形成期にある者も多いだろう。同一労働同一賃金の実現に加えて、就職氷河期世代の救済にも言及することは、経済格差を是正し、希望する家族形成を促す上で非常に意義深い。
2 文部科学省「平成28年度大学等卒業予定者の就職内定状況調査」
「平成27年度税制改正大綱」では、結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置が創設されている。将来の経済的不安は若年層に結婚・出産を躊躇させる大きな要因の一つであり、祖父母や両親の資産を早期に移転させることで、子や孫の結婚・出産・子育てを支援するというものだ。非課税の上限は1000万円(結婚関係は300万円)で、結婚式や新居の家賃、引越、不妊治療や妊婦検診、出産、子どもの医療や保育、ベビーシッター代などが対象となる。
日本の家計金融資産は高齢世帯に偏在し、その傾向は強まっている。家計金融資産の保有率は世帯主年齢60歳以上の世帯が6割強を占めて上昇傾向にある(総務省「全国消費実態調査」を用いた推計)。若年層には雇用環境の整備をはじめ、多方面からの経済支援策が必要である。
(2017年05月17日「基礎研レポート」)

03-3512-1878
- プロフィール
【職歴】
2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
2021年7月より現職
・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
・総務省「統計委員会」委員(2023年~)
【加入団体等】
日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society
久我 尚子のレポート
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