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気候変動「適応ビジネス」 (その2)-TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の提言からみた日本企業の気候リスク

客員研究員 川村 雅彦
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おわりに:気候関連リスクのシナリオ分析の必要性
本稿では、TCFD業種分類に基づいて、CDP Aリスト認定の日本企業の気候関連リスクを整理して、どのような気候関連リスクと財務インパクトがありうるかを見てみた。直感的に理解できるように、物理的リスクと評判リスクの性格や内容については、業種を問わずほぼ共通することが分かった。
規制リスク(あるいは低炭素経済への移行リスク)については、リスク要因の種類は多いものの、炭素税やキャップ&トレード制度により自社のプロセスとプロダクト、またサプライチェーンにおけるエネルギーや原材料の価格上昇やCO2削減のための設備投資や研究開発が収益性に影響することが分かった。ただし、業種特性(主力商品に対応するCO2排出、エネルギー消費、水使用、生物原料調達などの違い)に応じて、気候リスクの性格・要点と対処方策、さらにその財務インパクトは大きく異なることも分かった。
CDPとTCFD(CDPを参考にした)、いずれも気候変動に関連するリスク要因ならびにその財務インパクトの分類と定義は妥当であることが確認できた。そして、企業の業種別の具体的な気候リスク要因もある程度理解できた。持続可能な社会の実現と企業の持続的な成長をめざす意識の高い先進企業が、気候関連リスクを自ら分析し広く開示することは高く評価できるとともに、その仕組み自体が大変晴らしいことである。
しかしながら、今回の筆者の整理分析では、企業がアンケートの所定回答欄に該当する気候リスクや財務インパクトを記述する方式では、どうしても断片的記述とならざるをえない(繰り返しを含む)ことを痛感した。つまり、読み手の立場からみれば、その企業の気候関連リスクとその財務インパクトの全体像やリスク経路、あるいはその対処方策が伝わりにくいとの印象がある。それゆえ、このままでは投資の意思決定の決め手にはなりにくいのではないかと考えられる。
そこで金融システム安定という目的に照らせば、TCFDも提言しているように、「シナリオ分析」が不可欠であろう。企業の事業・戦略・財務計画に対する将来的な気候関連リスク・機会の潜在的なインパクトや脆弱性、その対処方策を評価し開示することは、投資家や利害関係者にとって大きな意味がある。実際、「シナリオ分析は、気候関連リスク・機会の戦略的意味を理解するための重要かつ有益なツールである。」と明示する。
TCFDも明言しているように、企業の気候関連財務報告はまだ初歩段階に過ぎない。これからは、企業の情報開示に基づき、投資家をはじめとする金融セクターが取締役会や経営層との対話を通じて気候情報の品質向上に期待したい。
CDP 「CDP 気候変動 リポート2015:日本版」
CDP 「CDP 気候変動 リポート2016:日本版」
江木聡 「気候関連財務開示と今後の展望」 ニッセイ基礎研レポート 2017年3月21日
山本美紀子 「求められる気候関連財務ディスクロージャー」 国際航業 気候変動政策ブログ 2017年3月
拙稿 「気候変動『適応ビジネス』(その1)」 ニッセイ基礎研レポート 2015年7月16日
(2017年03月31日「基礎研レポート」)
客員研究員
川村 雅彦
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