2017年03月14日

米医療保険制度改革の振り返り-オバマケアは、なぜ人気がなかったのか?

保険研究部 主席研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任   篠原 拓也

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4――保険制度安定化のためのリスク管理プログラムが不十分であった

オバマケアのリスク管理プログラムは、高齢者や障がい者向けの公的医療保険制度であるメディケアで、処方箋薬剤給付を行う、パートDと呼ばれる保険で導入されているものを範に、設計された。パートDは、2006年に施行された任意加入の保険で、加入率は、2012年に約60%6。パートDについては、保険者や加入者から不満の声はあまり聞かれない。以下、両者の違いを見ていくこととしたい。

1オバマケアでは、3つのリスク管理プログラムが実施されてきた
オバマケアでは、リスク調整、リスク回廊、再保険の、3つのリスク管理プログラム7が実施されてきた。一般に、保険会社にとって、保険収支の大きな変動や、加入者の著しいモラル・リスクの発生は、保険事業の安定した運営にとって、大きなリスクとなる。リスク管理プログラムは、このようなリスクを軽減するために、導入された。以下、簡単に、その内容を見ていこう。
図表4. リスク管理の各プログラム
(1)リスク調整プログラム
皆保険の実施に伴い、導入された恒久的措置。健康状態の悪い人ほど保険加入ニーズが強いという加入者側の逆選択や、健康状態が悪く保険給付が発生しそうな人は加入させたくないという保険会社側のリスク選択を防止するためのもの。具体的には、医療費予測モデルを用いて、自社と市場平均の予測医療費を算定し、保険会社が差額を受け取りまたは支払う。例えば、市場平均の予測医療費が80 の場合、自社の予測医療費が100ならば20を受け取り、60ならば20を支払う。

(2)リスク回廊プログラム

制度改革初期の保険料の安定化を目的とした、2016 年までの時限的措置。所定要件を満たして健康保険市場への参加資格を持つ適格保険プランにつき、割当費用(給付支払額等)が、目標金額(保険料から管理費を控除した額)を3%以上 上回ったら3%以上の差額部分の50%(8%以上 上回った場合、8%以上の差額部分については80%)を、保健福祉省(HHS9)が当該プランに支払う。逆に3%以上 下回ったら、当該プランがHHS に同様の金額を支払う。こうして、プランの損失・利益を制限する。

(3)再保険プログラム
制度改革初期の高額支払に伴う保険料引き上げ防止を目的とした、2016 年までの時限的措置。高額支払が生じた保険会社に対して、再保険での支払いが行われる。これにより保険会社はリスクが減り、低廉な保険料を設定できる。再保険資金は全ての保険会社・自家保険の分担金で賄われ、ACA 遵守の個人保険プランへの支払いに充てられる。ただし、再保険による保障範囲は、年々、縮小されてきた。
図表5. 再保険プログラムの変遷
 
6 「米国の公的医療保険、メディケア(その1)」上野まな美(大和総研, 2014年10月27日)より。
7 3つのプログラムは頭文字がいずれもRであることから、3R'sと呼ばれている。
8 ACAは、The Patient Protection and Affordable Care Act (医療保険制度改革法)の通称。
9 HHSは、United States Department of Health and Human Servicesの略。
2パートDと異なり、リスク管理プログラムが制限的であったことが、オバマケアの不満につながった
オバマケアのリスク管理プログラムは制限的で、保険制度の安定化につながらなかった。

(1)リスク回廊プログラムは、収入保険料の額までに支払いが制限されていた
リスク回廊プログラムは、想定を超える利益や損失を回避し、事後的に保険会社の収支を安定させ、ひいては保険料の安定化を図るはずのものだった。しかし、保険会社の救済の面が濃いとされ、議会の審議過程で修正された。その過程で、初年度はリスク中立を図るとして、保険会社からHHSに支払われた金額までしか、HHSは支払わないとの制約が設けられた。このため実際に、2014年には、法定計算額の12.6%しか支払われなかった。これにより、このプログラムをあてにしていた保険会社が支払不能に陥った。パートDには、このような支払額の制限はない。

(2)時限的措置の、2つのリスク管理プログラムは安定性を欠いていた
リスク回廊プログラムと再保険プログラムは、3年間の時限的措置であり、将来の保険収支が変動するリスクを抱えている。これに対して、パートDは、両プログラムとも、恒久的措置とされている。一般に、新たに保険事業を始めて、収支が安定するまでには、3年を超える長期間が必要と考えられる。3年間の時限的措置では、保険事業の財政不安は払拭できないものと思われる。

(3)保険料率の急上昇を招き、加入者の不満が高まった
保険会社は、毎年保険料率を設定する。オバマケアでは、提示する保険料率が急上昇して、加入者の不満が高まったとされる10。一方、パートDは、保険会社からの給付支払は増加しているものの、リスク管理プログラムが機能して、保険料率の増加は緩やかなものとなっている。この結果、パートDでは、加入者の不満の声は聞かれず、概ね、好評を維持している。
 
10 HHSの発表によると、連邦運営の健康保険市場を利用する39州の、2017年の保険料(税控除前)は、平均25%上昇するとされている。(“Health Plan Choice and Premiums in the 2017 Health Insurance Marketplace”(HHS, Oct.24, 2016)より)
 

5――おわりに (私見)

5――おわりに (私見)

今後の医療保険制度の枠組みは、新政権の取り扱い次第となろう。現在、大統領や議会を中心に、オバマケア見直しの議論が始まっている。オバマケアは人気が高まらなかったが、制度を通じて、無保険者割合が大幅に低下したことも事実である。オバマケアによって医療保険に加入した人が、また無保険の状態に戻ってしまうような見直しでは、低所得者等の医療不安を再燃させる恐れがあり、好ましくない。低所得者等の保障カバーの確保と、医療コストに係る財政の均衡を実現して、医療保険制度の持続性を高めるために、実効性のある政策が求められよう。その際、2014~16年のリスク管理プログラムの取り組みが、教訓として活かされることが望ましい。

今後も、アメリカの医療制度改革の動きに、引き続き、注視が必要と思われる。
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保険研究部   主席研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

(2017年03月14日「保険・年金フォーカス」)

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