2017年02月15日

若年層の消費実態(5)-どこまで進んだ?デジタル・ネイティブ世代の「テレビ離れ」と「ネット志向」

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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4――デジタル・ネイティブ世代の通信費の変化

1若年単身世帯の通信費の変化~バブル期の実質2倍、近年も増加傾向

次に、若者の通信に関する支出について確認する。これまでの「若年層の消費実態」レポートと同様に、今の若者の特徴をより明らかにするために、バブル期の若者と比較する。ただし、通信については、バブル期以降の進化が著しいため、近年の変化についても確認する。

まず、総務省「全国消費実態調査」における30歳未満の単身勤労者世帯の支出額について、1989年のバブル期と2014年を比べると、男性の通信費は3.0千円から6.8千円へ、女性は5.1千円から9.6千円へと、いずれも実額で約2倍に増加している(図表6)。なお、通信の消費者物価指数は1989年を100とすると、2014年は68.9へと低下しており、物価を考慮した実質増減率は男性が+228.4%、女性が+171.8%となる。また、同調査では、1999年から通信費の内訳として携帯電話通信料を捉えているのだが、通信費に占める携帯電話通信料の割合は男女とも上昇傾向にあり、男女とも2004年に8割程度を占め、2014年に9割を超えている(男性94.0%、女性91.6%)。なお、通信費には携帯電話通信料のほか、郵便料や固定電話通信料、通信機器代、宅配便運送料などが含まれるため、1989年の通信費は固定電話通信料や電話機代が大半を占めている可能性が高い。
図表6 30歳未満の単身勤労者世帯の通信費の変化
図表7 35歳未満の単身世帯の携帯電話通信料の実質増減率の推移(対2002年) 近年の通信費の状況については、ICT関連の支出などを詳しく捉えるために2002年に開始された総務省「家計消費状況調査」で毎年の変化が分かる(先の「全国消費実態調査」は5年毎調査)。図表7より、35歳未満の単身世帯の携帯電話通信料は、年による増減が大きいようだが、男女とも2002年と比べて実質増加している(図表7)。なお、この増減には、通信サービスの進化(通信速度や端末性能の向上、新たなアプリケーションサービスの登場等)と価格競争が交互に繰り返されている影響などが考えられる。

以上より、若者の通信費はバブル期と比べて倍増しており、近年も過去と比べて増えている。これまでの「若年層の消費実態」レポートでは、外食やアルコール、ファッション、クルマなど、いずれにおいても、今の若者はバブル期と比べて「お金を使わない」様子がうかがえたが、通信については「今の若者はお金を使う」ようになっている。
2情報通信技術の進化が消費行動へ与える影響~情報は無料、比較検討・コスパ志向の強まり

今の若者では通信費が増えているが、2節で述べた情報通信技術の進化を鑑みると、支出額の増加分以上の恩恵を受けている印象もある。例えば、通信料5千円でできることを考えると、過去と現在では大きく異なるだろう。既出レポートでは、今の若者で外食費や被服費が減少している状況について、消費社会の成熟化によって「過去よりお金をかけなくてもハイレベルな消費生活を楽しめる」、「お金を使わなくてもすむ」ことを指摘したが、情報通信面については、通信費は倍増しているが「使っているお金以上にハイレベルなデジタルライフを楽しめる」ようになっている。

通信については費用対効果の高まりだけでなく、インターネット上に大量の無料情報や無料のアプリケーションサービスが存在することや、情報を容易に収集し比較検討できる環境も、消費に関する価値観形成に影響を与えるだろう。このような環境で育ってきたデジタル・ネイティブ世代は、「お金を使わなくても便利なものがたくさんある」、「情報は無料で得られる」という価値観を醸成しやすく、消費行動においても、比較検討志向や費用対効果重視志向(コスパ志向)が強いことが考えられる。

事実、総務省「全国消費実態調査」にて、若年単身世帯の商品購入先を見ると、コンビニエンスストアや百貨店など、商品を定価で販売するチャネルから、スーパーやディスカウントストア、ネット通販など割引率の高いチャネルへ移っており、価格感度が高い様子がうかがえる。近年の流通チャネルの変化もあるだろうが、通信技術の進化による価値観変化の影響も相まって、今の若者では価格感度、コスパ志向が強まっているのではないだろうか。
 

5――おわりに

5――おわりに

本稿では、デジタル・ネイティブ世代である今の若者が生まれ育ってきた時代の情報通信技術の変遷を振り返るとともに、若者のメディア利用状況や通信費の変化を捉え、技術進化が消費行動へ与える影響について考察した。

デジタル・ネイティブ世代は、物心ついた頃から携帯電話やインターネットが普及しており、写真や映像を用いたコミュニケーションに慣れ親しんでいる。メディアの利用状況も変わり、テレビの利用時間が減る一方、インターネットの利用時間は増え、「テレビ離れ」と「ネット志向」が進行(2017年には20代男性で逆転の予測)している様子がうかがえる。なお、テレビの受動性とインターネットの能動性の高さを鑑みると、見た目の利用時間の変化以上に「テレビ離れ」と「ネット志向」は進行しているだろう。しかし、「テレビ離れ」が進行しているとはいえテレビの利用時間は他のメディアと比べて長く(女性では圧倒的)、現在のところ、テレビには無視できない影響力があるようだ。一方でビデオ・HDD・DVDの利用時間の増加より、今の若者ではテレビの使い方が変わっている様子もうかがえる(リアルタイムではなく録画して視聴、テレビは動画チャネルの1つという考え方等)。

若者の通信に関する支出については、既出レポートと同様にバブル期と比べると、現在では倍増しており、その内訳の大半は携帯電話通信料である。バブル期と現在では通信環境が著しく異なるために、近年の推移も確認すると、やはり通信料はおおむね増えている。既出レポートでは、外食やアルコール、ファッション、クルマなど、いずれにおいても、バブル期と比べて今の若者は「お金を使わない」様子がうかがえたが、今の若者は「通信には時間もお金も使う」ようになっている

また、情報通信技術の進化が消費行動へ与える影響については、インターネット上に大量の無料情報や便利なアプリケーションサービスが存在する中で育ってきた今の若者では、「お金を使わなくても便利なものがたくさんある」、「情報は無料」という価値観を醸成しやすく、消費行動においても比較検討志向や費用対効果重視志向(コスパ志向)が強く、価格感度が高いことが考えられる。

今の若者に対して効果的にアプローチをするには、すでに企業のマーケティング活動などでも着手され始めていることだが、デジタル・ネイティブ世代ならではの消費価値観を理解した上で、テレビとインターネット、SNSなどの複数のメディアを組み合わせる「クロスメディア」戦略を取ることで、若者の情報の流れにいかに入りこむかが鍵である。
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

(2017年02月15日「基礎研レター」)

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