2017年01月20日

トランプ政権が発足-選挙公約から政策の軌道修正は不可避

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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(3)共和党議会との協調、主要政策でスタンスの違いが顕在化
トランプ氏と共和党議会は、当面の政策優先課題として、オバマケアの撤廃と減税などの税制改革を目指すことで一致している。既に始動している新議会では、早速オバマケア撤廃に向けた動きがみられた。上下院は17年度予算の大枠を決める予算決議に、予算面からオバマケアを撤廃に追い込むための項目を盛り込んだ。これまでも同様の法案が提出されていたが、オバマ大統領が拒否権を発動して成立を防いだ経緯がある。トランプ大統領はこれらを盛り込んだ予算法案に署名するため、先は長いとみられるもののオバマケア撤廃に一歩近づいた。

もっとも、トランプ氏と議会共和党は、オバマケアの撤廃では一致しているものの、その代替案については意見集約されておらず、どの様な代替案が提示されるのか不明な点が多い。ライアン下院議長は、12日に行われたCNN主催の市民対話集会で、代替案が給付つき税額控除(refundable tax credit)を活用したスキームを想定しているようだ。最終的な提案が待たれる。

トランプ氏は、オバマケアの撤廃と新制度への移行を速やかに実施したいとしているが、新制度の立ち上げには法律の修正も含めて時間が掛かるとみられている。議会予算局(CBO)は代替案の開始とオバマケアの撤廃に時間的なズレが生じる場合には、18百万人が無保険になると警告しており、国内のリスク要因として注意が必要だ。
(図表9)債務残高見通し(GDP比) 一方、税制改革ではトランプ氏と議会共和党で個人および法人に対する減税を実施することで認識を共有しているものの、歳出面では考え方に乖離が大きい。議会共和党が国防以外の歳出を大幅に削減することで10年以内の均衡財政を目指しているのに対して、トランプ氏は社会保障について、これまでの水準を維持するとしており、均衡財政の実現は困難だ。実際、トランプ氏が公約で掲げた大型減税を実施すると、債務残高(GDP比)は足元の77%から、10年後に105%に増加することが見込まれている(図表9)。一方、下院共和党は昨年提示した予算案で10年後の債務残高を57%に低下させる方針を示しており、債務残高見通しは大きく異なっている。

このため、トランプ氏と議会共和党が協調して税制改革を実施する場合には、議会共和党が均衡財政の旗を降ろすのか、トランプ氏が歳出削減に舵を切るのか、減税規模を縮小するのか選択を迫られる。いずれにしろ、現状では認識に乖離が大きいことから、軌道修正は大幅なものとならざるをえないとみられる。

さらに、トランプ氏の経済政策でインフラ投資に対する期待が高いが、10年間で1兆ドルの金額に対して共和党上院のトップであるミッチ・マコーネル院内総務が既に昨年12月に否定的な発言を行っているほか、主席補佐官のラインス・プリーバス氏も政策の優先順位が高くないことに言及しており、明らかにトーンダウンしている。今後、インフラ投資に限らず、トランプ氏の経済政策は政策公約で提示された内容からの大幅な軌道修正が示されよう。
(図表10)当面の注目スケジュール (4)今後の注目スケジュール
今後の注目スケジュールとしては、2月に行われる予定の上下両院合同会議での施政方針演説と、2月~3月にかけて議会に提出されるとみられる予算教書が挙げられる(図表10)。施政方針演説ではトランプ氏が内政・外交の政策方針が提示されるほか、予算教書では政策の優先順位や具体的な政策内容について提示されるとみられる。

一方、対中国関係では、4月に予定されている財務省の半期為替報告書、および6月の米中戦略対話が注目される。トランプ氏は、中国に対して為替操作国認定を行うことや、中国製品に対する45%の関税を課すと公言してきた。大統領としてどのような方針を示すのか注目される。

その他としては5月にG7首脳会議が5月に予定されているほか、7月にG20首脳会議が予定されている。「米国第一主義」の実現に向けて他国にどのような要求をしてくるのか注目される。
 
 
 
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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2017年01月20日「Weekly エコノミスト・レター」)

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