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2017年01月18日
ますます巨大化する米国の大手医療保険会社~国民に医療保障を届ける唯一無二の存在へ-オバマケアの帰趨に左右されない強さ-
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(資料)Kaiser Family Foundationホームページ”State Health Facts”より
http://kff.org/other/state-indicator/number-of-issuers-participating-in-the-individual-health-insurance-marketplace/?activeTab=map¤tTimeframe=0&selectedDistributions=total-number-of-issuers-in-the-marketplace__2017
この結果、公的な医療保険の比較サイトであるエクスチェンジで寡占状況が生じ、競争による価格低下、商品・サービスの開発競争が行われることは期待しづらい状況となっている。
年9月にGAO(米国会計検査院)が発表した報告書の中でも、2014年には、商品提供会社数が3社以下の州が相当多数に及んだこと、上位3社だけで80%以上のシェアを占める州がほとんどであったことが記載されている。
4|エクスチェンジ事業で損失が発生
オバマケアにより、医療保険会社が既往症のある申込者の保険加入を拒否できなくなったため、従来、医療保険への加入ができないために無保険者であった既往症のある人々や高齢層の人々が医療保険に加入した。一方で先述の通り、健康状態に自信のある人、若年層の人々はいまだに保険料支払いの負担感の大きい医療保険に加入するよりも罰金を払う方が得と、当初想定ほどには医療保険加入が進んでいない。
この状況は保険会社の経営面からは、危険選択を禁じられたために、逆選択(健康状態に不安のある人ほど保険に加入するという状況)というリスクの高い状況を阻止できていないというゆゆしき事態である。
各医療保険会社のエクスチェンジ事業では、保険金の支払い額が想定を上回ったため収益がマイナスとなった。中には、医療をすぐに必要とする人が保険に加入してきて治療が終わり保険金を受け取りしだい保険を解約してしまうという動きすらあったという。
グラフ5の青い棒グラフは、医療保険会社のエクスチェンジ事業を含む民間医療保険事業全体の収益状況を表すものである。2014年に始めて約4,700万ドルのマイナスとなり、2015年には約20.6億ドルのマイナスへと損失額が拡大しており、損益状況が悪化してきていることが分かる。
リスクに応じて条件を設定し保険を引受けること(危険選択)は保険会社経営の基本である。一般の人向けの公的保険がない米国において公的保障を提供するという半ば公的な役割を唯一のプレーヤーとして引き受けた医療保険会社がこの基本を放棄することを求められることは、ある意味当然の帰結であったとは言えるが、やはり困難な試練であることは否定しようがない。
こうした状況に陥ることを予測していた医療保険会社や州の保険監督当局は、オバマケア検討段階から何度も、そのリスクの大きさを訴えていたが、方針が覆ることはなかった。
2017年1月5日には、合衆国保健福祉省の企画評価局が、2014年末現在で1億3,300万人に及ぶ64歳以下の人々が既往症を持っている状態にあるとの調査結果5を発表した。この人数は当該年齢層人口の51%にあたる。これら既往症を持っている人々のうち1年を通して無保険者であった人の割合は、2010年には13.8%あったが、オバマケアが本格実施された2014年には10.8%に減少したとするレポートを発表した。この調査によれば、2014年末時点でいまだ1,000万人を超える既往症を持つ無保険者が存在する。
医療保険会社は、エクスチェンジ事業の見直しを行わざるを得なくなった。
http://kff.org/other/state-indicator/number-of-issuers-participating-in-the-individual-health-insurance-marketplace/?activeTab=map¤tTimeframe=0&selectedDistributions=total-number-of-issuers-in-the-marketplace__2017
この結果、公的な医療保険の比較サイトであるエクスチェンジで寡占状況が生じ、競争による価格低下、商品・サービスの開発競争が行われることは期待しづらい状況となっている。
年9月にGAO(米国会計検査院)が発表した報告書の中でも、2014年には、商品提供会社数が3社以下の州が相当多数に及んだこと、上位3社だけで80%以上のシェアを占める州がほとんどであったことが記載されている。
4|エクスチェンジ事業で損失が発生
オバマケアにより、医療保険会社が既往症のある申込者の保険加入を拒否できなくなったため、従来、医療保険への加入ができないために無保険者であった既往症のある人々や高齢層の人々が医療保険に加入した。一方で先述の通り、健康状態に自信のある人、若年層の人々はいまだに保険料支払いの負担感の大きい医療保険に加入するよりも罰金を払う方が得と、当初想定ほどには医療保険加入が進んでいない。
この状況は保険会社の経営面からは、危険選択を禁じられたために、逆選択(健康状態に不安のある人ほど保険に加入するという状況)というリスクの高い状況を阻止できていないというゆゆしき事態である。
各医療保険会社のエクスチェンジ事業では、保険金の支払い額が想定を上回ったため収益がマイナスとなった。中には、医療をすぐに必要とする人が保険に加入してきて治療が終わり保険金を受け取りしだい保険を解約してしまうという動きすらあったという。
グラフ5の青い棒グラフは、医療保険会社のエクスチェンジ事業を含む民間医療保険事業全体の収益状況を表すものである。2014年に始めて約4,700万ドルのマイナスとなり、2015年には約20.6億ドルのマイナスへと損失額が拡大しており、損益状況が悪化してきていることが分かる。
リスクに応じて条件を設定し保険を引受けること(危険選択)は保険会社経営の基本である。一般の人向けの公的保険がない米国において公的保障を提供するという半ば公的な役割を唯一のプレーヤーとして引き受けた医療保険会社がこの基本を放棄することを求められることは、ある意味当然の帰結であったとは言えるが、やはり困難な試練であることは否定しようがない。
こうした状況に陥ることを予測していた医療保険会社や州の保険監督当局は、オバマケア検討段階から何度も、そのリスクの大きさを訴えていたが、方針が覆ることはなかった。
2017年1月5日には、合衆国保健福祉省の企画評価局が、2014年末現在で1億3,300万人に及ぶ64歳以下の人々が既往症を持っている状態にあるとの調査結果5を発表した。この人数は当該年齢層人口の51%にあたる。これら既往症を持っている人々のうち1年を通して無保険者であった人の割合は、2010年には13.8%あったが、オバマケアが本格実施された2014年には10.8%に減少したとするレポートを発表した。この調査によれば、2014年末時点でいまだ1,000万人を超える既往症を持つ無保険者が存在する。
医療保険会社は、エクスチェンジ事業の見直しを行わざるを得なくなった。
5 Department of Health and Human Services, Office of the Assistant Secretary for Planning and Evaluation, ASPE ISSUE BRIEF「Health Insurance Coverage for Americans with Pre-Existing Conditions:The Impact of the Affordable Care Act」January 5, 2017 https://aspe.hhs.gov/sites/default/files/pdf/255396/Pre-ExistingConditions.pdf
(2017年01月18日「基礎研レポート」)
松岡 博司のレポート
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