2017年01月16日

EUソルベンシーIIにおけるLTG措置等の適用状況とその影響(4)-EIOPAの報告書の概要報告-

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4|TTP(技術的準備金に関する移行措置
(1)承認状況
TTPの適用には、監督当局の承認が要求されるが、2016年1月1日時点では、次ページの図表における13カ国が申請を受けている。

撤回の主たる理由は、会社の戦略の再考によるものとされている。

ポルトガルは、この段階では申請を受け付けた16社の全てが審査継続中となっているが、「EUソルベンシーIIにおけるLTG措置等の適用状況とその影響(2)-EIOPAの報告書の概要報告-」では、19社が適用していると報告されている。
TTPの国別承認状況(会社数)
(2)承認基準
EIOPAの措置を承認するための追加的な基準については、11カ国のNSAsがその存在を報告している。

スペインのNSAは、TTPに関する書面による方針と移行期間中のソルベンシーと財政状態に関する将来計画を要求している。フィンランドとベルギーのNSAsは、多くの感応度テストを実行することを要求している。殆どの他のNSAsは、措置がソルベンシーポジションに与える影響についての詳細な文書、資本管理計画及び申請の範囲の詳細を提供することを要求している。

(3)再計算基準
TTPについては、24ヵ月毎又は会社のリスクプロファイルが大きく変化した場合にはより頻繁に再計算しなければならない。これについて、いくつかのNSAsは何らの特別な方針を有していないとし、他のNSAsは24ヶ月毎又は四半期ベースで再計算することを許容又は要求している。1つのNSAはリスクプロファイルが大きく変化しない限り、再計算を要求しないとしている。

(4)適用グループ
TTPは、リスクプロファイルが均質な「同質のリスクグループ」レベルで適用できる。これについて、殆どのNSAsがTTPは通常は同質のリスクグループレベルで適用されるとし、1つのNSAのみが通常全ての技術的準備金に適用される、と回答している。

TTPを同質のリスクグループで適用することが好まれる理由は、以下による。

・移行措置は、技術的準備金を減らす場合又は長期契約や保証金利の高い契約等、最も効果的な場合にのみ適用される。
・同質なリスクグループレベルでの適用は、移行措置の管理を容易にし、技術的準備金の計算の複雑さを軽減する。

DBER(デュレーションベースの株式リスクサブモジュール
(1)承認状況
DBERについては、各国に対して、各国の市場における手段として導入する選択肢を認めている。

これを受けて、9カ国(スペイン、スロベニア、オーストリア、キプロス、フランス、ベルギー、ポルトガル、イタリア、リヒテンシュタイン)がDBERの適用を許容している。他の国々は、DBERを国家法に組み入れていない。

2016年1月1日時点で、3カ国(スペイン、フランス、ベルギー)のNSAsが、5社のDBERの申請を受け付けた。スペインの2社は撤回し、フランスの1社は撤回し、1社が認められた。ベルギーの1社は審査継続中である。
DBERの国別承認状況(会社数)
(2)資産と負債の区分(ring-fenced)判定基準
EIOPAは、資産と負債が区分されている(ring-fenced)かどうかをテストするための特別な基準の存在について調査したが、これについて、3カ国のNSAsから回答があった。

例えば、スペインは、区分された資産ポートフォリオの構成、配分されたポートフォリオに関する投資方針、ポートフォリオに関する経営陣の決定、この措置によって影響を受ける負債の記述、それらの要件を達成していることの証明及び契約に対応する全ての資産及び負債が区分されていることの証明に関する情報を要求している。

(3)その他の基準
EIOPAはまた、NSAsがソルベンシー及び流動性ポジションを評価するために使用した基準、関係する会社の株式投資の典型的な保有期間(12年)に合致する期間に株式投資を保有できることを保証する会社の戦略、プロセス及び報告手続についても質問したが、3カ国のNSAsだけが回答した。

例えば、スペインのNSAは、ソルベンシー及び流動性ポジションの優位性と長期的な視点で株式を保有する可能性を評価するために、以下を分析している、と回答している。

・DBER及び要求したその他の措置の承認とそれらの承認がないことの2つのケースを仮定した場合の、自己資本、SCR及びMCRの計算
・過去3年間の自己資本の十分性に関する報告
・キャッシュインフローが持分利益に頼らずにキャッシュアウトフローをカバーするのに十分であることを実証するために、通常及びストレス条件下でのポートフォリオのキャッシュイン及びアウトフローの予測
 

4―まとめ

4まとめ

以上、4回のレポートで、EIOPAの報告書に基づいて、EUのソルベンシーIIにおけるLTG措置や株式リスク措置に関しての保険会社の適用状況やその財政状態に及ぼす影響等について、その概要を報告してきた。

今回のEIOPAによる報告書は、ソルベンシーIIがスタートして間もない段階での数値や状況に基づいている。その意味で、各種の措置の適用状況についても、いまだ審査継続中のケースもあったり、各社においても適用検討中のケースもあったりして、年度末や来年度以降に向けて、今後実際の適用状況が変更されていく可能性も考えられるものとなっている。ただし、各措置や各国の保険市場の特性等を反映した措置の適用状況やそれによる影響については、大きくは変わらないものと考えられ、今回の結果報告が大きな特徴を十分に示しているものと思われる。

5月には、各保険会社や保険グループによって、ソルベンシーII制度に基づく初めての年間報告となるSFCR(Solvency and Financial Condition Report:ソルベンシー財務状況報告書)が作成され、ソルベンシーIIに基づく諸数値の詳細が一般にも公開されていくことになる。これらによって、年間ベースでの実績数値が初めて得られることになることから、監督当局やEIOPAによる分析も、より充実した安定的で信頼性のあるものへと高度化されていくことが期待されることになる。

いずれにしても、今回のEIOPAによるLTG措置や株式リスク措置に関する報告書については、今後も毎年、その焦点となるトピックを変化させつつも、公表されていくことになる。年次の経過とともに、さらには市場環境の変化に対応して、各種の措置の適用状況やその影響額がどのように変化していくのか、各保険会社や保険グループがこれに対してどのように対応していくのか、については、大変興味深い事柄であることから、引き続き注視していくこととしたい。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2017年01月16日「保険・年金フォーカス」)

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