2017年01月16日

EUソルベンシーIIにおけるLTG措置等の適用状況とその影響(4)-EIOPAの報告書の概要報告-

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|消費者保護と商品の入手可能性への影響
(1)LTG商品の状況 
EEA(欧州経済地域)各国において、長期保証(Long-Term Guarantee:LTG)の法的定義は存在しない。LTGの共通に受け入れられている理解は、EEAの国毎に異なっており、主として保証タイプと保険契約期間に結びついている。

LTGは多くの異なる商品タイプ、特に生命保険商品に含まれている。

LTGを有する商品は、EEAの殆どの国で販売されており、LTG商品を販売している会社数は700を超えると推定されている。

なお、5つの国(アイスランド、ポーランド、アイルランド、リヒテンシュタイン、マルタ)では、LTGを有する商品は、存在しないか又は少数派である(これらの市場は、通常、保証無しのユニットリンク型商品によって支配されている)。

次の図表は、LTG商品を販売している会社(生命保険・生損保兼営会社のみ)の割合の国別状況を示している。これらの全ての国々の平均では、50%~75%の会社がLTG商品を販売している。
国別のLTG商品を販売している会社の状況(生命保険 ・生損保兼営会社のみ)
同様に、LTG商品を販売している会社の割合を保険会社全体でみた場合には、以下の図表の通りとなる。損害保険や再保険会社が加わるため、平均水準は25%~50%に低下する。
国別のLTG商品を販売している会社の状況(保険会社全体)
LTG措置はLTGを有する商品を販売している会社によって幅広く適用されているが、LTG措置がこれらの商品に与える影響について何らかの結論を出すことは時期尚早である、としている。

(2)LTG商品の入手可能性の変化 
LTG商品の入手可能性は、EEA全体で、主として安定しているか、若干減少している。入手可能性の低下の主たる要因は、低金利とそれによる保証コストであり、これらはソルベンシーIIの技術的準備金と資本要件に反映されている。

より具体的には、約1/3のNSAsがLTG商品の入手可能性に大きな変化はない、としている。この理由として、いくつかの国で、既に過去において、他の商品タイプへのシフトが起こっていることが挙げられている。

殆ど同じ数の国々で、LTG商品の提供会社数において、若干の減少傾向が観察されている。ノルウェーでは、LTG商品は急速に減少して、もはや販売されていない、と報告されている。

このような国々においては、以下の現象が観測されている。

・ユニットリンク型又は純粋保障商品へのシフト
・契約に含まれる金融保証水準の引き下げ又は提供する保証タイプの変更(即ち、解約時の無保証、毎年の最低保証利率の見直し)
・保証期間の短期化

LTG商品の入手可能性の低下傾向の大きな要因としては、以下の2つが挙げられている。

・低金利環境(14カ国)
・低金利環境とソルベンシーII要件、特に技術的準備金とSCR(ソルベンシー資本要件)の算出におけるコストの反映によって引き起こされたコストの増加(7カ国)

これに対して、以下の理由から、3カ国で、LTG商品が増加した、と報告されている。

・消費者による利回り追求(2カ国)
・市場ベースの商品を提供している会社の高度の自由度(1カ国)
・全体的な経済回復(1カ国)

|金融安定性への影響
EIOPAはNSAsに対して、各種措置が金融安定性に与える具体的な影響について報告することを要求した。ただし、NSAsからは、その点に関して2016年に具体的な観察の報告はなかった。

ESRB(European Systemic Risk Board:欧州システミックリスク理事会)は、2015年12月に公表した報告書で、「MA、VA、ERPのようなLTG措置やEDが、ダブルヒット(長期低金利で急激な資産価格の下落)に対する生命保険会社の共通の脆弱性や資産配分におけるプロシクリカリティ(景気増幅効果)に対処するために利用可能な手段である。」としていた。

2016年ストレステストでダブルヒットシナリオや長期低利回りシナリオにおける措置の影響が分析された。

ダブルヒットシナリオでは、LTG措置が金融安定性のクッションを提供したようにみえる。LTG措置による軽減効果がなければ、保険会社は、SCRやMCR(最低資本要件)を引き下げるために、資産の売却やリスク回避を誘発され、それがさらに資産価格を引き下げ、市場の変動性を高め、金融安定性に影響を与える可能性があったかもしれない、としている。

さらに、長期低利回りシナリオでも、潜在的にカウンターシクリカルな方法で働いて、LTG措置は金融安定性のクッションを提供している。ただし、シナリオで示される長期の懸念によるリスクの誤評価を回避するために、監督上の警戒が要求される、としている。
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中村 亮一

研究・専門分野

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