2016年12月08日

日銀短観(12月調査)予測~大企業製造業の業況判断D.I.は5ポイント上昇の11を予想

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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12月短観予測:円安を好感するが、先行きには警戒感が現れる

(製造業・非製造業ともに改善を予想) 
12月14日発表の日銀短観12月調査では、注目度の高い大企業製造業の業況判断D.I.が11と前回9月調査比で5ポイント上昇し、6四半期ぶりに景況感の改善が示されると予想する。大企業非製造業の業況判断D.I.も20と前回比2ポイント上昇し、3四半期連続で続いてきた悪化に歯止めがかかると見ている。
 
前回9月調査では、長引く影響で大企業製造業の業況判断D.I.が横ばいに、インバウンド消費の減速や天候不順から非製造業では小幅の悪化となっていた。

前回調査以降の10月の経済指標は総じて持ち直し傾向にある。個人消費は生鮮食品の価格高騰もあって力強さには欠けるものの、良好な雇用環境や天候不順の解消などから底堅さを増している。さらに11月以降は株高が高額消費の追い風になっているとみられる。生産についても、需要の持ち直しや在庫調整の進展を受けて回復が見られる。また何より、米大統領選でのトランプ氏勝利を受けて為替が急速に円安に向かったため、輸出採算が大きく改善している。

今回、大企業製造業では生産の回復や円安進行を受けて幅広く景況感の反発が見込まれる。国際商品市況の改善も、素材系業種の景況感押し上げに働くだろう。

非製造業は製造業ほど円安のメリットを享受するわけではないため、景況感の改善幅も限定的になる。ただし、大都市圏での再開発需要や節税対策の住宅需要増加を受ける建設、不動産業、訪日客増加の恩恵を受けやすい運輸・郵便業などが牽引しそうだ。小売業の景況感は抑制的になりそうだが、消費が減少しているわけではないため、顕著な悪化は避けられると見ている。
 
中小企業の業況判断D.I.は、製造業が前回比3ポイント上昇の0、非製造業が1ポイント上昇の2と予想。大企業同様、中小企業でも製造業・非製造業ともに改善が示される。ただし、中小企業では、秋からの最低賃金引き上げの影響を受ける割合が高いとみられ、人件費の増加が景況感の抑制に作用しそうだ。
 
先行きの景況感については、海外経済の先行き不透明感増大によって、企業規模や製造・非製造業を問わず悪化が示されると予想。米国でトランプ氏が新大統領に選出されたほか、欧州では英国のEU離脱決定に加えてイタリアの首相が辞任するなど政治が混迷している。情勢は流動的であり、企業は先行きへの警戒感を強めていると考えられる。
 
16年度の設備投資計画(全規模全産業)は、前年度比2.5%増と前回調査時点の1.7%増から上方修正されると予想。例年、9月調査から12 月調査にかけては、中小企業で計画が固まってくることに伴って上方修正されるクセが強く、今回も上方修正されるだろう。ただし、年初から半ばにかけての円高によって企業収益が圧迫されたほか、海外経済が不透明感を増していることから、一部で様子見や先送り姿勢が広がりつつあると考えられ、例年と比べて上方修正の度合いが抑制的になると見ている。
(図表2)前回までの業況判断D.I./(図表3)生産・輸出・消費の動向/(図表4)円相場と原油価格/(図表5)設備投資予測表/(図表6)設備投資計画(全規模全産業)/(図表7)設備投資関連指標
(注目ポイント:先行きへの警戒感がどれだけ現れるか?)
今回の短観で最も注目されるテーマは、「先行きへの警戒感がどれだけ現れるか」だ。とりわけトランプ新大統領誕生については、金融市場では、同氏の掲げる政策のうち大規模なインフラ投資や減税、規制緩和への期待を大いに織り込み、株高・円安ドル高が進んだが、企業の受け止めは異なる可能性がある。環境が悪化すれば即座にポジションを手仕舞うことができる投資家と異なり、企業の場合は、一旦投資を決定するとその影響は少なくとも数年単位に及ぶだけに、先行きに対して慎重になりやすい。さらに、トランプ氏の掲げる保護主義的な通商政策は、企業に対してダイレクトに悪影響を及ぼしかねない。具体的には、先行きの景況感や設備投資計画への影響が注目される。
(図表8)企業の物価見通し (日銀金融政策との関係:影響は限定的)
今回の短観の結果は、筆者の見立てでは「足元に明るさは見られるが、先行きには警戒感が台頭する」というものだが、この結果が日銀の金融政策に与える影響は限定的になりそうだ。もともと、2%の物価目標のハードルは極めて高く、達成が見通せない一方、追加緩和の選択肢も実質的に限られているためだ。

11月1日の総裁会見でも、黒田総裁が、「(イールドカーブ・コントロールによって)適切なイールドカーブが実現しており、これが日本経済にプラスに働き、物価目標に向けて効果を発揮していく」と現状の政策維持を肯定的に評価する発言をしており、日銀が積極的に動く気配は見えない。従来と比べて、日本の景気と金融政策の関係性は希薄化している。
 
そうした中でも日銀との関係で注目されるのが、翌15日に発表される「企業の物価見通し」だ。10月の展望レポートで日銀は予想物価上昇率が弱含んでいることを認めたが、実際、企業の物価見通しは2014年4月の調査開始以来、低下が続いている(上昇は皆無)。最近では、円安が進んだほか、原油価格も持ち直しているが、ともに物価の押し上げに働くだけに、動向に変化が現れるかが焦点となる。日銀の目指す持続的な物価上昇には持続的な賃上げが不可欠であり、最近では黒田総裁が企業に賃上げを求めるような場面も見られる。物価見通しは企業の賃金設定に影響を与えるが、特に現在は来春闘を控えた重要な時期にあたるだけに、その動向が注目される。
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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

(2016年12月08日「Weekly エコノミスト・レター」)

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