2016年12月02日

2017年はどんな年? 金融市場のテーマと展望~金融市場の動き(12月号)

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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(2)国内要因の影響は相対的に低下
海外で注目材料が目白押しである分、国内材料の影響度は相対的に低くなると見込まれるが、それでも、いくつか注目材料は存在する。

1) TPP(経済連携)
一つ目はTPPの行方だ。トランプ新大統領は就任初日での離脱を予告している。TPPは安倍政権の成長戦略の目玉の一つであっただけに、行方が注目される。米国の離脱を食い止めるのは困難な情勢だが、その場合は別の方策を以って世界的な経済連携の構築に向かえるのか?が注目される。TPPがご破算になり、代わりの方策も見出せないようだと、成長戦略の後退感は否めなくなる。
現金給与総額と実質賃金の伸び率(一人当たり) 2) 春闘
二つ目は春闘の行方だ。最近の日本経済は回復傾向にあるものの、最大需要項目である消費は勢いを欠いた状態にあり、背景には賃金の伸び悩みがある。来年の春闘での賃上げの成否が来年の日本経済のモメンタムに大きく関わってくる。

とりわけ、原油安の一巡などから来年の物価上昇率はプラスに転じる可能性が高く、賃金の目減り(実質賃金の押し下げ)に繋がる。既往の円高の影響や世界経済の先行き不透明感などから、大幅な賃上げは望みがたいが、せめて前年並みが維持できるのかが焦点だ。結果は、日本株のうち特に内需株の動向に影響しそうだ。
3) 衆議院解散総選挙の有無
また、日本の国政選挙の有無も注目材料となる。現行の衆議院の任期は2018年12月までだが、直前になるにつれて解散時期の選択肢が狭まるため、安倍首相が来年のうちに解散総選挙に打って出る可能性がある。その場合、現在は法案の再可決が可能な「議席の2/3」を握る与党が、2/3を維持できるかが焦点になりそうだ。維持できれば、任期が一旦リセットされることで、政権基盤が安定化し、株価にプラスに働くだろう。逆に2/3を維持できなければ、マイナスになる。

ちなみに、日銀に関しては、物価目標の達成が遠い一方で追加緩和余地が限られるだけに、来年の大幅な政策変更は予想されない。市場への影響も限定的だろう。ただし、年80兆円増のペースでの国債買入れは近い将来に限界を迎えるとみられるだけに、来年、規模の縮小を実施する可能性は高い。いかに市場への負のインパクトを抑えるかが注目される。
米政策金利の見通し (メインシナリオ)
以上、来年の注目テーマを見てきたが、基本的なシナリオとしては、最大の焦点であるトランプ大統領への(過度の)期待が一旦剥落する形でドル円に揺り戻しの円高が発生、日本株も調整すると見ている。来年を待たず、年内にこの動きが始まる可能性もある。その後はトランプ氏の政策を見極める段階となるが、良くも悪くも現実路線を取ることが次第に明らかになり、公約ほどではないにせよインフラ投資も増額されることで、年央頃から米経済への期待が持ち直し、段階的な利上げも実施されることで、緩やかな円安・株高基調へ移行すると予想。ただし、欧州の政治リスクや新興国からの資金流出懸念がたびたびドル円と日本株の上値の抑制に働くと見ている。

このシナリオをベースとして、さらに国内要因が多少の上振れ・下振れ材料になるイメージだ。

とにかく材料が多く、不透明感が強い要因が多いだけに、年間を通じて不安定な相場展開になることは避けられそうにない。
 

2.日銀金融政策(11月):指し値オペを初めて実施

2.日銀金融政策(11月):指し値オペを初めて実施

(日銀)現状維持
日銀は10月31日~11月1日に開催された金融政策決定会合において、金融政策を維持した1

11月10日に公表された「金融政策決定会合における主な意見」では、現行の枠組み(長短金利操作付き量的・質的金融緩和)について、「当面は現行の枠組みのもとで、その効果を見守るべき」、「(イールドカーブ・コントロールの)枠組みはうまく機能している」などと、肯定的な意見が目立った。なお、資産買入れについては、「約80兆円のめどは先行き適宜プレイダウンしていけばよい」と縮小の方向性を示すコメントも見られた。追加緩和の要否の判断基準については、「“物価安定時期の見通しが後ずれするか”ではなく、“2%に向けたモメンタム(勢い)を維持するために必要かどうか”である」との意見があった。
 
また、黒田総裁は11月14日の講演において、「物価上昇率2%を前提に賃金決定を行うことが重要」とのメッセージを企業経営者に対して発した。来春闘を前に、物価目標の達成に不可欠な賃金上昇を促すことが狙いとみられる。
 
日銀幹部の講演や決定会合での意見からは、現在の日銀が追加緩和から距離を置いていることが伝わってくる。今後は、出来る限り追加緩和を温存しつつ、長期間様子見を続けると予想。少なくとも今年度内は現状の金融政策を維持すると見ている。足元の円安進行は物価にはプラスに働くものの、2%のハードルは極めて高い。次回の政策変更が緩和方向という見方に変更は無い。時期は来年後半と見ている。
消費者物価上昇率の推移/次回の金融政策変更の予測分布(39機関)
 
1 詳細については、「日銀の苦境はまだまだ続く~金融市場の動き(11月号)」(Weekly エコノミスト・レター 2016-11-04)をご参照。
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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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