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トランプ次期大統領は、米鉄鋼業界の救世主になれるのか-期待される中国からの割安な鉄鋼輸入の抑制と、インフラ投資の拡大

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩
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1――はじめに
米鉄鋼業界はこれまでも米政府に対して中国の過剰生産設備の解消や、ダンピング輸出の是正を呼びかけてきたが、期待された成果が得られておらず、これまで支持してきた民主党政権に対する不満が大きくなっていた。
トランプ氏は、中国に対して45%の関税を課すと主張するなど、不公正な貿易慣行の是正や、国内インフラ投資の拡大等を通じて製造業雇用の国内回帰を訴えており、これらがラストベルトの有権者の心に響いたとみられる。
本稿では、斜陽産業としてみられがちな米鉄鋼業界に焦点を当て、トランプ氏が掲げる経済政策によって雇用が改善し、同氏が鉄鋼業界の期待を裏切らない結果をもたらすのか、検証を行っている。
もっとも、トランプ氏の経済政策は、選挙対策もあって、やや扇動的な表現を使った実現可能性の低い政策も含まれているほか、選挙後に同氏自身が政策公約の軌道修正を行う発言もしており、来年以降に実施される政策は、現時点で不透明な部分が非常に大きい。さらに、経済政策の指令塔である財務長官などの主要経済ポストが正式に決まっていないことも予想を困難にしている。このため、本稿ではトランプ氏の政策公約をベースに様々な前提を置いた上で影響評価している点に留意頂きたい。
2――トランプ氏を勝利に導いたラストベルト

とくに、前回選挙(12年)から支持政党を変更した有権者が多かった地方自治体をみると、民主党から共和党支持に変更したことを示す赤い点の地域は、5大湖周辺に集中していることが分かる(図表1)。
これらの地域は、石炭や鉄鋼業などを抱えるラストベルト(赤錆地帯)と呼ばれており、州毎の結果は、本稿執筆時点(11月24日時点)でミシガン州が未確定となっているものの、イリノイ州を除いて共和党が勝利したことを示している(図表2)。
一方、米シンクタンクのエコノミック・ポリシー・インスティテュートが試算した、間接部門も含めた鉄鋼関連雇用者数の州別ランキング1をみると、ペンシルバニア州の3位を筆頭に軒並み高いランキングになっており、これらの地域が鉄鋼業と強い結びつきがあることが分かる。米国では10年以降は雇用増加が持続しており、とくに14年から15年にかけては月間平均20万超の力強い伸びを示した。その一方で、鉄鋼業の雇用は15年以降減少しており、好調な労働市場の中にあって非常に対照的な動きとなっている(図表3)。

一方、米鉄鋼業の平均年収(15年)は、民間全産業平均が5万3千ドル程度に対して、製鉄業が7万9千ドル、鉄鋼製品加工業が6万3千ドルと、平均給与を大幅に上回っているほか、製鉄業では、製造業の平均(6万4千ドル)も上回る水準となっており、鉄鋼業の給与水準は比較的高い(図表4)。
このため、鉄鋼業界を解雇された労働者が、比較的職が見つけ易い小売業(3万ドル)や宿泊・外食サービス(1万9千ドル)といったサービス業に転職する場合には、給与水準の低下は避けられず、失業した場合に政府に対して不満を持ち易かったと考えられる。
1 “SURGING STEEL IMPORTS PUT UP TO HALF A MILLION U.S. JOBS AT RISK”(14年5月)
(2016年12月01日「基礎研レポート」)

03-3512-1824
- 【職歴】
1991年 日本生命保険相互会社入社
1999年 NLI International Inc.(米国)
2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
2014年10月より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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