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- 大学卒女性の働き方別生涯所得の推計-標準労働者は育休・時短でも2億円超、出産退職は△2億円。
2016年11月16日
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4――おわりに
本稿では、大学卒女性の生涯所得を推計するために、まず、近年の女性の就業状況について確認した。かつては結婚で仕事を辞める女性も多かったが、現在では、結婚後も就業者の8割は働き続けており、寿退職は過去のものとなっている。また、出産後も過半数は働き続けており、育児休業利用率も上昇している。しかし、就業形態によって出産による就業継続状況には大きな差があり、正規雇用者は多くが育休を利用して働き続けている一方、非正規雇用者は育休利用率が低く、就業継続率も4分の1程度である。日本では昔から、出産を機に離職し、子育てが落ち着いてからパートとして再就職する女性が多かった。しかし、長らく続く景気低迷により、学校卒業時に正規雇用者として就職できずに、はじめから非正規雇用者やパート・アルバイトとして働く女性が増えている。
大学卒女性の生涯所得を推計すると、大学卒業後に同一企業で正規雇用者として働き続けた場合は2億6千万円、二人の子を出産し二度の育休と短時間勤務を利用した後、すみやかに復職した場合は2億1~2千万円となった。また、昔から日本で多い、出産退職しパートで再就職した場合は約6千万円であり、離職しない場合と比べて2億円のマイナスとなった。働く目的は経済的理由だけではないだろうが、子どもに、より質の高い教育環境を与えられる可能性などを考えると、2億円という金額は一考に価するのではないだろうか。
また、マイナス2億円という金額は、企業側にとっても大きな損失である。両立環境の不整備等から離職され、新たな採用・育成コストが発生している。また、今回は出産・育児による離職しか想定していないが、超高齢社会においては介護離職も大きな課題である。よって、仕事と家庭の両立環境の整備は、企業におけるリスク管理としても取り組むべきだ。
一方、近年、増えている非正規雇用者の生涯所得は、出産等なしで働き続けても正規雇用者の半分に満たず、同世代内の経済格差がより明らかとなった。今後ますます共働き世帯が増える中、女性の収入が世帯全体の経済状況に与える影響は大きくなる。これまでも、いくつかのレポートで主張してきたが、若年層の非正規化は景気低迷による就職難の影響が大きく、世代間の不公平感は是正されるべきだ。
なお、今回の推計では、正規雇用者として標準労働者(学校卒業後、同一企業に継続勤務)を仮定した。それは、現在のところ、同じ企業で継続勤務をしている正規雇用者でないと、育児休業や短時間勤務などを利用しにくく、出産・育児を経て働き続けることが難しいと考えたためだ。つまり、女性が働き続けられる労働環境は一部に限定されており、そこに合致しないと退職を選択するか、場合によっては家族形成を躊躇することにもなりかねない。
政府の「働き方改革」には、非正規雇用者の待遇改善を望むとともに、結婚・出産・育児・介護などライフステージが変化しても、働き続けたい者が働き続けられるような柔軟性のある労働環境の整備を求めたい。
大学卒女性の生涯所得を推計すると、大学卒業後に同一企業で正規雇用者として働き続けた場合は2億6千万円、二人の子を出産し二度の育休と短時間勤務を利用した後、すみやかに復職した場合は2億1~2千万円となった。また、昔から日本で多い、出産退職しパートで再就職した場合は約6千万円であり、離職しない場合と比べて2億円のマイナスとなった。働く目的は経済的理由だけではないだろうが、子どもに、より質の高い教育環境を与えられる可能性などを考えると、2億円という金額は一考に価するのではないだろうか。
また、マイナス2億円という金額は、企業側にとっても大きな損失である。両立環境の不整備等から離職され、新たな採用・育成コストが発生している。また、今回は出産・育児による離職しか想定していないが、超高齢社会においては介護離職も大きな課題である。よって、仕事と家庭の両立環境の整備は、企業におけるリスク管理としても取り組むべきだ。
一方、近年、増えている非正規雇用者の生涯所得は、出産等なしで働き続けても正規雇用者の半分に満たず、同世代内の経済格差がより明らかとなった。今後ますます共働き世帯が増える中、女性の収入が世帯全体の経済状況に与える影響は大きくなる。これまでも、いくつかのレポートで主張してきたが、若年層の非正規化は景気低迷による就職難の影響が大きく、世代間の不公平感は是正されるべきだ。
なお、今回の推計では、正規雇用者として標準労働者(学校卒業後、同一企業に継続勤務)を仮定した。それは、現在のところ、同じ企業で継続勤務をしている正規雇用者でないと、育児休業や短時間勤務などを利用しにくく、出産・育児を経て働き続けることが難しいと考えたためだ。つまり、女性が働き続けられる労働環境は一部に限定されており、そこに合致しないと退職を選択するか、場合によっては家族形成を躊躇することにもなりかねない。
政府の「働き方改革」には、非正規雇用者の待遇改善を望むとともに、結婚・出産・育児・介護などライフステージが変化しても、働き続けたい者が働き続けられるような柔軟性のある労働環境の整備を求めたい。
(2016年11月16日「基礎研レポート」)
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経歴
- プロフィール
【職歴】
2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
2021年7月より現職
・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
・総務省「統計委員会」委員(2023年~)
【加入団体等】
日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society
久我 尚子のレポート
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