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- 患者申出療養制度第1号となる申出を承認-2016年4月制度発足以来初のケース
2016年11月15日
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1――はじめに
患者からの申出を前提とする新たな保険外併用療養(混合診療)の仕組みとして、政府は、先進的な医療について患者の選択肢を拡大するために、患者申出療養制度を創設することとし、2016年4月にスタートした1。
本レポートでは、このような患者申出療養制度の概要と、患者申出療養について審議する患者申出療養評価会議において2016年9月21日、第1号として承認された「腹膜播種陽性または腹腔細胞診陽性の胃がんに対する国内未承認の治療」について紹介することとしたい。
1 医療保険制度の財政基盤の安定化、負担の公平化、医療費適正化の推進などを図る観点から、「持続可能な医療保険制度を構築するための国民健康保険法等の一部を改正する法律」案が2015年3月3日国会に提出され、同年5月27日の参議院本会議で可決、成立した。この法律により、2018年度から、国民健康保険について都道府県が財政運営の責任主体となり、安定的な財政運営や効率的な事業の確保等の国保運営に中心的な役割を担い、制度を安定化するとともに、入院時の食事代について、在宅療養との公平等の観点から、調理費が含まれるよう段階的に引上げるなどの対応が行われる。患者申出療養制度は、この法改正の中で創設された制度である[「持続可能な医療保険制度を構築するための国民健康保険法等の一部を改正する法律の概要(平成27年5月27日成立)」『持続可能な医療保険制度を構築するための国民健康保険法等の一部を改正する法律(平成27年改正)について』、厚生労働省ホームページ]。
本レポートでは、このような患者申出療養制度の概要と、患者申出療養について審議する患者申出療養評価会議において2016年9月21日、第1号として承認された「腹膜播種陽性または腹腔細胞診陽性の胃がんに対する国内未承認の治療」について紹介することとしたい。
1 医療保険制度の財政基盤の安定化、負担の公平化、医療費適正化の推進などを図る観点から、「持続可能な医療保険制度を構築するための国民健康保険法等の一部を改正する法律」案が2015年3月3日国会に提出され、同年5月27日の参議院本会議で可決、成立した。この法律により、2018年度から、国民健康保険について都道府県が財政運営の責任主体となり、安定的な財政運営や効率的な事業の確保等の国保運営に中心的な役割を担い、制度を安定化するとともに、入院時の食事代について、在宅療養との公平等の観点から、調理費が含まれるよう段階的に引上げるなどの対応が行われる。患者申出療養制度は、この法改正の中で創設された制度である[「持続可能な医療保険制度を構築するための国民健康保険法等の一部を改正する法律の概要(平成27年5月27日成立)」『持続可能な医療保険制度を構築するための国民健康保険法等の一部を改正する法律(平成27年改正)について』、厚生労働省ホームページ]。
2――患者申出療養制度の概要
健康保険による給付が行われる保険診療と、患者の自己負担となる保険外診療(自由診療)を併用することを保険外併用療養(混合診療)と称し、原則として禁止されている。
新しい医療技術の出現や、患者ニーズの多様化に対応するため、こうした混合診療を一定の条件のもとで許容する先進医療制度(1984年10月高度先進医療制度として導入、2006年10月先進医療制度として新たにスタート)が導入された。
先進医療制度は、検査や入院など医療の基礎的部分は保険給付の対象で、先進医療部分のみが自己負担となる保険診療と保険外診療の併用である2。
さらに、先進的な医療技術について、患者からの申出を前提としたより迅速な提供を目的として、患者申出療養制度が、新たな混合診療の枠組みとして導入された。
すなわち、患者申出療養制度は、先進医療制度と同様、保険外診療部分については自己負担としつつ、入院・検査費用など基礎的部分については健康保険の給付とする制度であるが、先進医療制度と異なり、患者の希望をベースに、より迅速な審査を行なう点に特色がある。
とくにその眼目は、患者自身の希望による国内未承認薬の使用にあるとされ、厚生労働省も、
と説明している。
2 先進医療の概要と保険会社の対応については、小著「混合診療への保険会社の対応-先進医療特約と自由診療保険」『基礎研レポート』、2015年11月10日、ニッセイ基礎研究所ホームページ参照。http://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=42869?site=nli
3 「患者申出療養の概要について」、厚生労働省ホームページ。
新しい医療技術の出現や、患者ニーズの多様化に対応するため、こうした混合診療を一定の条件のもとで許容する先進医療制度(1984年10月高度先進医療制度として導入、2006年10月先進医療制度として新たにスタート)が導入された。
先進医療制度は、検査や入院など医療の基礎的部分は保険給付の対象で、先進医療部分のみが自己負担となる保険診療と保険外診療の併用である2。
さらに、先進的な医療技術について、患者からの申出を前提としたより迅速な提供を目的として、患者申出療養制度が、新たな混合診療の枠組みとして導入された。
すなわち、患者申出療養制度は、先進医療制度と同様、保険外診療部分については自己負担としつつ、入院・検査費用など基礎的部分については健康保険の給付とする制度であるが、先進医療制度と異なり、患者の希望をベースに、より迅速な審査を行なう点に特色がある。
とくにその眼目は、患者自身の希望による国内未承認薬の使用にあるとされ、厚生労働省も、
「未承認薬等を迅速に保険外併用療養として使用したいという困難な病気と闘う患者の思いに応えるため、患者からの申出を起点とする新たな仕組みとして創設されました。 将来的に保険適用につなげるためのデータ、科学的根拠を集積することを目的としています」3
と説明している。
2 先進医療の概要と保険会社の対応については、小著「混合診療への保険会社の対応-先進医療特約と自由診療保険」『基礎研レポート』、2015年11月10日、ニッセイ基礎研究所ホームページ参照。http://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=42869?site=nli
3 「患者申出療養の概要について」、厚生労働省ホームページ。
3――患者申出療養評価会議の設置(2016年4月)
患者から申出が行われた医療技術について、安全性・有効性等を確認しつつ、身近な医療機関で迅速に受けられるようにするとともに、将来的な保険適用につなげていくという観点を踏まえ、専門的な観点からの検討を行う審議の場として、「患者申出療養評価会議」が設置された。
第1回患者申出療養評価会議(2016年4月14日)においては、患者申出療養としてはじめての医療を実施する場合には、かかりつけ医等との相談を経て、患者から国に対して申し出てから、患者申出療養評価会議による審議を経て、実施まで原則6週間とした(この6週間という期間の位置づけについては、事務局から、「先進医療でもっとも短いであろう3か月、その半分で頑張らせていただきたい」4と説明されている)。
患者からの相談に対しては、質の高い臨床研究を実施できる拠点として厚生労働大臣が承認した「臨床研究中核病院」5および高度の医療の提供などができる病院として厚生労働大臣が承認した、患者申出療養の窓口としての位置づけである「特定機能病院」6が対応する(特定機能病院が患者からの相談を受けた場合は、臨床研究中核病院に共同研究を提案、臨床研究中核病院が作成する書類を添えて患者が申出)。
患者申出療養が承認された場合には、臨床研究中核病院、特定機能病院に加え、患者の身近な医療機関においてもその患者申出療養を実施できることとなった。
なお、すでに患者申出療養として承認された医療技術について他の医療機関が実施する場合には、患者から国に対して申出てから、実施まで原則2週間で患者の身近な医療機関において実施できるものとされている7。
4 「第1回患者申出療養評価会議議事録」、『第1回患者申出療養評価会議資料』(2016年4月14日)、厚生労働省ホームページ。
5 国立がん研究センター中央病院(東京都)、東北大学病院(宮城県)、大阪大学医学部附属病院(大阪府)、 国立がん研究センター東病院(千葉県)、名古屋大学医学部附属病院(愛知県)、九州病院(福岡県)、東京大学医学部附属病院(東京都)、慶應義塾大学病院(東京都)の8病院(「臨床研究中核病院について」、厚生労働省ホームページ)。
6 高度の医療の提供、高度の医療技術の開発および高度の医療に関する研修を実施する能力等を備えた病院として厚生労働大臣が承認した病院で、10以上の診療科、400床以上の病床、集中治療室などが必要とされ、大学病院などを中心とした84病院。
7 「患者申出療養の概要」、『第1回患者申出療養評価会議資料』(2016年4月14日)、厚生労働省ホームページ。
第1回患者申出療養評価会議(2016年4月14日)においては、患者申出療養としてはじめての医療を実施する場合には、かかりつけ医等との相談を経て、患者から国に対して申し出てから、患者申出療養評価会議による審議を経て、実施まで原則6週間とした(この6週間という期間の位置づけについては、事務局から、「先進医療でもっとも短いであろう3か月、その半分で頑張らせていただきたい」4と説明されている)。
患者からの相談に対しては、質の高い臨床研究を実施できる拠点として厚生労働大臣が承認した「臨床研究中核病院」5および高度の医療の提供などができる病院として厚生労働大臣が承認した、患者申出療養の窓口としての位置づけである「特定機能病院」6が対応する(特定機能病院が患者からの相談を受けた場合は、臨床研究中核病院に共同研究を提案、臨床研究中核病院が作成する書類を添えて患者が申出)。
患者申出療養が承認された場合には、臨床研究中核病院、特定機能病院に加え、患者の身近な医療機関においてもその患者申出療養を実施できることとなった。
なお、すでに患者申出療養として承認された医療技術について他の医療機関が実施する場合には、患者から国に対して申出てから、実施まで原則2週間で患者の身近な医療機関において実施できるものとされている7。
4 「第1回患者申出療養評価会議議事録」、『第1回患者申出療養評価会議資料』(2016年4月14日)、厚生労働省ホームページ。
5 国立がん研究センター中央病院(東京都)、東北大学病院(宮城県)、大阪大学医学部附属病院(大阪府)、 国立がん研究センター東病院(千葉県)、名古屋大学医学部附属病院(愛知県)、九州病院(福岡県)、東京大学医学部附属病院(東京都)、慶應義塾大学病院(東京都)の8病院(「臨床研究中核病院について」、厚生労働省ホームページ)。
6 高度の医療の提供、高度の医療技術の開発および高度の医療に関する研修を実施する能力等を備えた病院として厚生労働大臣が承認した病院で、10以上の診療科、400床以上の病床、集中治療室などが必要とされ、大学病院などを中心とした84病院。
7 「患者申出療養の概要」、『第1回患者申出療養評価会議資料』(2016年4月14日)、厚生労働省ホームページ。
(2016年11月15日「保険・年金フォーカス」)
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