2016年11月11日

貸家着工にバブルの懸念?-住宅投資関数で説明できない好調さ

岡 圭佑

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2|住宅ローン減税の拡充
次に、消費増税に伴う負担軽減措置として採用された「住宅ローン減税の拡充」(2014年4月~2019年6月の入居に限る)1も持家の着工に影響を及ぼしている可能性が指摘できる。住宅ローン減税は、入居後10年間にわたって毎年末の住宅ローン残高の一定割合(現在は1%)が所得税から控除される制度である(図表5)。所得税額が控除額に満たない場合は、翌年の住民税から控除することができる。こうした減税措置はこれまでも講じられてきたが、今回の措置では控除額が大幅に拡大されている。
図表5 住宅ローン減税の概要
一般住宅の場合、住宅ローン残高の算定対象額の上限が2,000万円から4,000万円へ引き上げられ、10年間の最大控除額は200万円から400万円へと増額された(図表6)。一般住宅とは別に、認定住宅2の場合は上限が3,000万円から5,000万円へと拡大し、最大控除額も300万円から500万円へと変更された。これは大規模な住宅減税が実施された2002年~2004年や2009年~2012年に次ぐ規模であり、2013年のおよそ2倍に相当する。
図表6 住宅ローン控除上限額 一般的に、住宅ローン減税の拡充は家計の調達可能金額3押し上げを通じて、住宅取得能力を改善させる効果がある。住宅ローン減税を考慮しない調達可能金額の推移をみると、2011年以降金利の低下や貯蓄の増加を受けて増加傾向にあることが分かる(図表7)。この結果、調達可能金額を住宅価格で除した住宅取得能力指数は、消費増税直後に一時的に低下したものの、その後は緩やかな上昇基調を続け2016年4-6月期には2011年以降で最高水準に達している。住宅価格がほぼ一貫して上昇し住宅取得能力を下押ししているが、金利低下を主因とした調達可能金額の増加が支えとなり、家計の住宅取得能力は改善が続いている。
次に、住宅ローン減税拡充による負担軽減効果を検証するため、借入額を予定通り返済することを前提に、減税額(借入残高×1%の10年分、10年累計の最大控除額のうち、小さい方の金額)を調達可能金額に加算して、住宅ローン減税拡充の影響を反映した調達可能金額を算出した(図表8)。その結果、調達可能金額は住宅ローン減税拡充後に100万円程度増加し、消費増税後の住宅取得能力の低下は一定程度緩和されていることが分かる。
図表7 住宅取得能力指数/図表8 住宅ローン減税制度を考慮した住宅取得能力
住宅ローン減税の拡充は住宅取得能力の改善を通じて、消費増税直後の落ち込みを抑える効果を発揮したと考えられる。しかし、以下に示す住宅関連のアンケート調査や指標を踏まえれば、持続的に効果を発揮したとは考え難い。
図表9 住宅ローン残高の推移 住宅金融支援機構が公表した「平成28年度における住宅市場動向について(2016年3月)」によると、買い時と思う要因という質問(一般消費者、複数回答)に対して、「今後消費税率が引き上げられるから」(74.7%)、「住宅ローン金利が上がる」(66.2%)との回答が7割程度に達したのに対し、「住宅ローン減税等があるから」は15.6%と低い。さらに、住宅ローン減税を理由に挙げる回答割合は、消費増税前の2014年3月調査の28.7%から大きく低下しており、住宅ローン減税拡充の効果が薄れつつあることを示唆している。

住宅ローン残高の推移をみても、前年比でプラスの伸びを維持しているものの2013年以降伸び率は縮小傾向にあり、住宅ローン減税の拡充が奏功したとは言い難い状況にある(図表9)。
 
 
1 住宅ローン減税の適用期限を2021年12月31日まで延長することが2016年8月24日に閣議決定された
2 認定長期優良住宅(長期優良住宅の普及の促進に関する法律に規定する認定長期優良住宅に該当する家屋で一定のもの)又は認定低炭素住宅(都市の低炭素化の促進に関する法律に規定する低炭素建築物に該当する家屋で一定のもの又は同法の規定により低炭素建築物とみなされる特定建築物に該当する家屋で一定のもの)
3 平均的な所得や貯蓄を持つ世帯が、妥当な住宅ローンの返済計画のもとで当該月工面できる金額
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岡 圭佑

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