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5――CULTURE & TOKYO in RIO
TURNは、異なる背景や習慣を持った人々が関わり合い、様々な「個」の出会いと表現を生み出すアートプロジェクトで、監修者の日比野克彦によって名付けられたものだ。これまで、野田秀樹の東京キャラバンとともに、東京2020大会の文化プログラムのリーディングプロジェクトとして実施されてきたが、TURN in BRAZILでは、4名のアーティストたちが日本やブラジルの伝統文化をモチーフに活動を展開した。まず、東京や宮城県南三陸町で研修を行った後、サンパウロの福祉施設、障がい者施設で1ヶ月以上にわたり交流プログラムを実施。リオではその成果を展示するとともに、来場者を対象にしたワークショップが実施された。
ワークショップファシリテーターの瀧口幸恵は、東北沿岸に古くから伝わる神棚飾りの切り紙「きりこ」の研修のため宮城県南三陸町に1か月間滞在し、学校や地域の人々とのワークショップに取り組んだ。ブラジルではサンパウロ近郊の福祉施設「Monte Azul」に滞在し、子どもたちや地域の人たちと「きりこ」づくりを行った。リオでは会場にきりこの型紙を用意し、来場者がきりこを作成するワークショップをコーディネイトした。
同じく日系ブラジル人アーティストのジュン・ナカオは、ブラジルの伝統的なカゴ編み「セスタリーア」を題材に、サンパウロ市に隣接するグアルーリョス市で最も古い日系の高齢者介護施設「憩の園」に通って、お年寄りと協働で独自の作品づくりに取り組んだ。入所者一人ひとりを金網越しに抱きしめて型を取り、その金網の人型にセスタリーアの技術を使ってテープを編みこんで作品を制作、リオの会場に展示した。
TURN、東京キャラバンともリオの会場はパソ・インペリアル(インペリアル・パレス)。ブラジルの独立宣言が行われたという由緒ある歴史的建造物で、現在は美術館として活用されている。外壁にはきりこの装飾が施され、TURNには連日長蛇の列ができ、18日間でパソ・インペリアルには4万人以上が来場して展示等を鑑賞し、そのうち約1万5,000人がワークショップにも参加した。江戸組紐やきりこ、江戸つまみのワークショップに熱心に取り組むリオっ子の姿が忘れられない。単なる日本文化の紹介に終わることなく、事前のリサーチと入念な準備を経て、こうした事業を実現した監修の日比野克彦や4人のアーティストたち、関係者の方々の尽力に頭が下がる思いがした。
TURNには障がいのあるなしに関わらず、アートの力を媒介に人間本来のもつ能力を引き出し、共有していこうという狙いがある。サンパウロの福祉施設や障がい者施設で行われた活動は、日本やブラジルの伝統文化を媒介にしながら、障がい児や高齢者の可能性を引き出すとともに、アーティストにとっても新たな学びや発見の機会となったに違いない。2020年に向けて今後の展開が楽しみな事業である。
なお、パソ・インペリアルの2階では国際交流基金の企画で「コンテンポラリーの出現・日本の前衛美術1950-1970」も同時開催されていた。日本が大きな変貌を遂げた1964年の東京オリンピック前後の時代に焦点を当て、実験精神にあふれる作品を紹介するもので、非常に見応えのある展覧会だった。
6――東京2020に向けて
東京2020組織委員会では、既にロンドン2012大会を参考にプランを練り、文化オリンピアードの準備を進めている。リオ大会ではそうした「公式」の文化オリンピアードはほとんど実施されなかったが、それでも本稿で紹介したように、多様な文化事業が展開されていた。
東京2020大会では、組織委員会の文化オリンピアードを強力に推進するとともに、必ずしもそれにこだわることなく、もっとおおらかに文化プログラムを展開できる可能性があるのではないか。リオ大会を視察して感じた素朴な印象である。実際、内閣官房では組織委員会とは別に「beyond 2020」という枠組みも用意し、多様な文化事業への支援をスタートさせている。もちろんオリンピックブランドを不正に使用するアンブッシュマーケティングへの規制など、オリンピックのルールは厳密に守らなければならない。
しかしそれを前提に、ロンドンとリオを組み合わせたような展開ができれば、東京2020大会では、五輪史上かつてない文化プログラムが実現すると思うのだが、いかがだろうか。
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吉本 光宏 (よしもと みつひろ)
研究・専門分野
(2016年10月07日「基礎研マンスリー」)
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