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- 【アジア・新興国】東南アジア・インドの経済見通し~当面は消費主導の成長、輸出はL字型の緩やかな回復へ
2016年09月23日
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1.東南アジア・インド経済の概況と見通し

消費者物価上昇率(以下、インフレ率)は、エネルギー価格下落による物価の押下げ効果の剥落と干ばつ被害に伴う食品価格の高騰により、16年前半は上昇基調で推移した(図表2)。
原油価格は今年2月に上昇基調に転じており、先行きは当研究所では17年末にかけて50ドル台前半まで緩やかに上昇すると予想している。また米国の利上げを背景とした緩やかな通貨安が進むなかで輸入インフレが物価上昇圧力となり、アジア新興国のインフレ率は今後も上昇基調で推移するだろう。もっとも(1)16年後半にはエルニーニョ現象の終息を背景に農業生産が回復して食料インフレが和らぐこと、(2)中国の過剰生産設備の解消に向けた取組みの継続を背景に国際商品市況が低水準で推移すると見込まれることから、物価上昇ペースは緩やかなものとなるだろう。

金融政策は資源安を背景とするインフレ率の低下や米国の利上げ観測の後退を受けて昨年から追加的な金融緩和を実施するケースが依然として多く見られる。昨年はタイとインドが積極的に政策金利を引き下げており、年明け以降もマレーシアやインドネシア、インドが利下げに踏み切るなど、緩和的な金融政策が続いている(図表3)。
年明け以降、原油価格の底打ちや英国のEU離脱問題による米国の利上げ観測の後退を受けて、新興国に資金が回帰するなか、アジア新興国通貨は堅調に推移してきた。しかし、当研究所では米国の利上げが今年12月に一回、来年も年二回を予想しており、先行きはアジア新興国通貨が軟調に推移すると予想する。もっともインドネシアやインドは経常赤字が改善すると共にインフレ率も低水準で推移するなど、以前ほど通貨が売られやすいマクロ経済状況ではなくなってきたこと、また米国の継続的な利上げは世界経済の動向および市場との慎重な対話のもと実施される前提のもと、アジア通貨が急速に下落する可能性は高くないと思われる。
先行きの金融政策はインドとマレーシアでは年内の利下げを見込むが、総じて物価は緩やかな上昇が見込まれること、また通貨が軟調に推移することから、各国中銀は現行の緩和的な金融政策を維持するも追加緩和には慎重になるだろう。

2016年後半の東南アジア・インドの成長率は年前半から小幅に上昇すると予想する(図表4)。海外経済は米国を中心に主要先進国の緩やかな回復が続くものの、中国・資源国経済の減速を受けて輸出は底打ち後も伸び悩む展開となるだろう。また景気の先行き不透明感は払拭されず、製造業を中心に設備投資の回復が遅れることから、輸出・民間投資主導の回復軌道に入る展開は想定していない。しかし、景気は個人消費を中心に年後半も緩やかな回復基調を維持するだろう。アジア新興国では安定した雇用環境と継続的な賃金上昇、そして低水準のインフレ環境が続くと見込まれ、個人消費は堅調を維持すると見込む。また政府によるインフラ事業の推進や景気刺激策、そして緩和的な金融政策も引き続き景気の支えとなるだろう。
2017年は、成長率が概ね横ばい圏で推移すると予想する。中国の景気減速および鉄鋼、石炭など基幹産業の過剰生産設備の解消に向けた動きは続くと見られ、輸出は本格回復には至らないものの、先進国経済の緩やかな回復と原油価格の緩やかな上昇による資源国経済の底打ちによって増加傾向が続くだろう。こうしたなかで企業収益は改善し、設備投資も持ち直すと予想する。一方、個人消費は引き続き中間層の充実が追い風となるが、緩やかな物価上昇によって家計の実質所得が目減りして景気の牽引力は鈍化するだろう。もっとも金融政策は現行の緩和的な政策を継続すると見込まれるほか、公営企業の投資拡大や追加的な消費刺激策など景気に配慮した財政運営は続くと見込まれ、景気が下振れる可能性は低いと予想する。
先行きの下方リスクとしては、米国の金融政策運営における市場との対話の失敗や中国・資源国経済の不安定化、英国のEU離脱問題を巡る不透明感などによって国際金融市場のリスクオフの動きが強まることが挙げられる。アジア新興国通貨は堅調に推移しているものの、先進国通貨に比べて信用力が低いことには変わりなく、通貨が急落するリスクには引き続き注意を払う必要がある。また道半ばとされる中国の過剰生産設備の解消に向けた動きが長期化すれば、アジア新興国の輸出の本格回復はさらに遅れることになるだろう。このほかASEANにおける爆弾テロの発生や南シナ海の領有権問題の緊張が高まれば、外国人観光客数の減少や外国人投資家の投資の見合わせに繋がり、景気の下押し要因となるだう。
(2016年09月23日「Weekly エコノミスト・レター」)
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経歴
- 【職歴】
2008年 日本生命保険相互会社入社
2012年 ニッセイ基礎研究所へ
2014年 アジア新興国の経済調査を担当
2018年8月より現職
斉藤 誠のレポート
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