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資本市場から見た不動産価格に対する金利上昇インパクト~インプライド・キャップレートの金利感応度分析~

佐久間 誠
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金利要因は有意とはならず、その係数も0.052と小さい。当期間は金利ファクターの影響がほとんど見られない。モデルの説明力は60%程度と高いが、その大宗が株式市場要因によるものである。また不動産市場要因のt値が有意となった。当期間は、金融危機の影響で不動産市況が悪化しており、インプライド・キャップレートの上昇に寄与していたことが示唆される。また信用市場要因の説明力が弱いが、当期間はTOPIXとMarkit iTraxx Japan 5年の相関が高かったため、有意に推定されなかったものと考えられる。
・2012年12月~2016年7月(アベノミクス・異次元緩和期)
金利要因は有意となり、その係数は1.076と大きい。これは10年債利回りが1%低下すると、インプライド・キャップレートが1.076%低下することを示している。足元で両者が平行に低下している現状と整合的であり、金利低下が足元の不動産投資利回り低下の主因であったことが確認された。また同時に、現在は金利感応度が高く、金利上昇に対して不動産投資市場が脆弱な局面だということも示唆される。当期間は信用市場要因のt値が有意だが、係数の符号が想定と逆である。当期間はTOPIXとMarkit iTraxx Japan 5年の相関が高かったためである。またモデルの説明力は、約50%と比較的良好である。
以上の推計結果より、インプライド・キャップレートの金利感応度については、以下2点に要約できる。1点目は、インプライド・キャップレートの金利感応度は経済状況や市場環境により大きく変動することが示唆される7。2点目は、アベノミクス・異次元緩和以降のインプライド・キャップレートの金利感応度は1.076と、過去の局面と比較しても高いことが示された。
7 日本銀行がマイナス金利政策を発表した2016年1月以降、インプライド・キャップレートの金利感応度が変化した可能性はある。本稿ではデータ制約もあり構造変化の検証は行っていない。2016年1月以降、推計結果からは金利低下の影響を株安が相殺しているため、足元では金利低下に対してインプライド・キャップレートが高止まりしていることが示唆される。
4――金利上昇シナリオにおけるインプライド・キャップレートの上昇
次に、市場が予想する金利上昇シナリオが示現した場合、今後1年間で10年国債利回りがどのように変動するかを試算する。本稿では、2016年7月末の10年国債利回りのフォワードレートを基準として、金利スワップを原資産とした金利オプションであるスワップションのインプライド・ボラティリティ8が織り込む1標準偏差の金利上昇が示現した場合の金利水準を、市場の予想する金利上昇シナリオとした。また計算にあたって、国債利回りがスワップ金利と同様に変動すると仮定している。
市場の予想する金利上昇シナリオでは、2016年7月末時点からの金利上昇幅が、1ヶ月で0.11%、3ヶ月で0.28%、6ヶ月で0.28%、1年で0.40%になると予想している(図表―6)。即ち、金利が上昇した場合は、今後1年で10年国債利回りが日本銀行のマイナス金利発表前の水準まで戻ると見ている。
8 市場でのオプション価格から逆算されるボラティリティ(予想変動率)。
市場が予想する金利上昇シナリオが示現した場合、今後1年間でインプライド・キャップレートはどれほど上昇すると予想されるのだろうか。インプライド・キャップレートの金利感応度と市場が予想する金利上昇シナリオを下に試算した。なお、インプライド・キャップレートの金利感応度には、アベノミクス・異次元緩和期の1.076を用い、金利以外の要因は一定と仮定した。
金利上昇シナリオが示現した場合、2016年7月末時点に3.84%だったインプライド・キャップレートが、1ヶ月後に3.96%、3ヶ月後に4.06%、6ヶ月後に4.15%、1年後4.27%になると予想される(図表―7)。これは、他の条件が一定だと仮定すると、金利上昇シナリオの下では、1年間で不動産価格が10.1%下落することを意味している。
5――おわりに
現在の金利市場は日本銀行の大胆な金融政策により低位安定しており、すぐに金利が上昇基調に転じると見る向きは少ない。不動産投資市場もしばらくは超低金利の恩恵に預かることができそうだ。しかし、日本銀行の金融緩和が、一層大胆に、また更に長期的になる程、金利上昇のマグマは溜まっていくと見ることもできる。異例の低金利で不動産投資市場が好調な今こそ、金利上昇リスクに対する検討が求められるのではないだろうか。
(2016年08月29日「基礎研レポート」)
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