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- 資本市場から見た不動産価格に対する金利上昇インパクト~インプライド・キャップレートの金利感応度分析~
2016年08月29日
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3――インプライド・キャップレートの金利感応度の推計
金利要因の代理変数は、10年国債利回りとした。これは先述の通り、リスクフリーレートとして10年国債利回りを用いるケースが多いためである。10年国債利回りはリスクプレミアム等にも間接的な影響を及ぼすが、リスクフリーレートへの直接的な影響が最も大きいと予想される。従って、10年国債利回りが低下した場合、インプライド・キャップレートの低下が予想され、想定される係数の符号はプラスとなる。また金利要因の係数は、インプライド・キャップレートの金利感応度を意味する。例えば、金利要因の係数、即ちインプライド・キャップレートの金利感応度が0.5であれば、10年国債利回りが1%上昇した場合に、インプライド・キャップレートが0.5%上昇すると予想されることを意味する。
株式市場要因の代理変数は、TOPIXとした。TOPIXは東京証券取引所第一部上場株式銘柄の株価動向を表した株式指数であり、本邦株式市場のマーケット・ポートフォリオを表す指数として用いられることが多い。TOPIXが上昇した場合、リスクプレミアムが低下すると予想される。また、株価は景気の先行指標とされるため、TOPIXが上昇すると、期待NOI成長率が上昇することが見込まれる。従って、TOPIXが上昇した場合、インプライド・キャップレートは低下することが予想され、想定される係数の符号はマイナスとなる。
信用市場の代理変数は、Markit iTraxx Japan 5年とした。Markit iTraxx Japan 5年は投資適格の本邦企業のCDSスプレッドの動向を表す代表的なCDS指数である。同指数が上昇した場合、信用リスクが高まったことを意味するため、リスププレミアムが上昇し、キャップレートは上昇することが見込まれる。従って、想定される係数の符号はプラスとなる。
不動産市場の代理変数は、東京ビジネス地区空室率の前年差とした。東京ビジネス地区空室率は、都心5区で一定以上の規模を有するオフィスビルの空室率の動向を示した指標である。また不動産市場要因は、期待NOI成長率やリスクプレミアムに影響を及ぼすため、期待の要素をどのように表現するかが重要となる。本稿では、不動産市場の先行き期待が外挿的に形成4されると仮定して、前年差データを用いた。東京ビジネス地区空室率の上昇は、不動産市場の悪化を意味するため、期待NOI成長率が低下し、インプライド・キャップレートが上昇することが見込まれる。従って、想定される係数の符号はプラスとなる。
分析の対象期間は2005年1月~2016年7月である。また経済状況や市場環境により、各変動要因の有意性や影響度が構造変化すると仮定した5。従って、全期間を通じた分析に加え、以下3期間に区切って推計している(図表―4)。また被説明変数を含め、全ての変数は1次の階差をとって推計した6。
株式市場要因の代理変数は、TOPIXとした。TOPIXは東京証券取引所第一部上場株式銘柄の株価動向を表した株式指数であり、本邦株式市場のマーケット・ポートフォリオを表す指数として用いられることが多い。TOPIXが上昇した場合、リスクプレミアムが低下すると予想される。また、株価は景気の先行指標とされるため、TOPIXが上昇すると、期待NOI成長率が上昇することが見込まれる。従って、TOPIXが上昇した場合、インプライド・キャップレートは低下することが予想され、想定される係数の符号はマイナスとなる。
信用市場の代理変数は、Markit iTraxx Japan 5年とした。Markit iTraxx Japan 5年は投資適格の本邦企業のCDSスプレッドの動向を表す代表的なCDS指数である。同指数が上昇した場合、信用リスクが高まったことを意味するため、リスププレミアムが上昇し、キャップレートは上昇することが見込まれる。従って、想定される係数の符号はプラスとなる。
不動産市場の代理変数は、東京ビジネス地区空室率の前年差とした。東京ビジネス地区空室率は、都心5区で一定以上の規模を有するオフィスビルの空室率の動向を示した指標である。また不動産市場要因は、期待NOI成長率やリスクプレミアムに影響を及ぼすため、期待の要素をどのように表現するかが重要となる。本稿では、不動産市場の先行き期待が外挿的に形成4されると仮定して、前年差データを用いた。東京ビジネス地区空室率の上昇は、不動産市場の悪化を意味するため、期待NOI成長率が低下し、インプライド・キャップレートが上昇することが見込まれる。従って、想定される係数の符号はプラスとなる。
分析の対象期間は2005年1月~2016年7月である。また経済状況や市場環境により、各変動要因の有意性や影響度が構造変化すると仮定した5。従って、全期間を通じた分析に加え、以下3期間に区切って推計している(図表―4)。また被説明変数を含め、全ての変数は1次の階差をとって推計した6。
・全期間
金利要因は有意となり、その係数、つまりインプライド・キャップレートの金利感応度は0.359である。これは、10年国債利回りが1%上昇すると、インプライド・キャップレートが0.359%上昇することを意味する。また株式市場要因と信用市場要因も有意で、モデル全体の説明力は40%程度と比較的良好である。一方、不動産市場要因は、有意とはならなかった。この理由として、J-REITの価格が決定される株式市場に対して不動産市場が遅行性を有すること、東京ビジネス地区空室率の前年差が不動産市場の期待を十分に反映できなかった可能性等が考えられる。
・2005年1月~2007年7月(ミニバブル期)
10年国債利回りは有意ではないが、その係数は0.290と全期間の推計結果と近い。他の期間と比較して特徴的なのが、信用市場要因以外に有意な変数がないことだ。ミニバブル期は、内外の資金が不動産投資市場に資金が流入し、一部の不動産はファンダメンタルズから乖離した価格で取引された。この時期は株式市場の影響は限られ、信用市場要因によるリスクプレミアム低下が不動産価格を押し上げたことが、本結果から示唆される。但し、モデル全体の説明力は20%と低い。
金利要因は有意となり、その係数、つまりインプライド・キャップレートの金利感応度は0.359である。これは、10年国債利回りが1%上昇すると、インプライド・キャップレートが0.359%上昇することを意味する。また株式市場要因と信用市場要因も有意で、モデル全体の説明力は40%程度と比較的良好である。一方、不動産市場要因は、有意とはならなかった。この理由として、J-REITの価格が決定される株式市場に対して不動産市場が遅行性を有すること、東京ビジネス地区空室率の前年差が不動産市場の期待を十分に反映できなかった可能性等が考えられる。
・2005年1月~2007年7月(ミニバブル期)
10年国債利回りは有意ではないが、その係数は0.290と全期間の推計結果と近い。他の期間と比較して特徴的なのが、信用市場要因以外に有意な変数がないことだ。ミニバブル期は、内外の資金が不動産投資市場に資金が流入し、一部の不動産はファンダメンタルズから乖離した価格で取引された。この時期は株式市場の影響は限られ、信用市場要因によるリスクプレミアム低下が不動産価格を押し上げたことが、本結果から示唆される。但し、モデル全体の説明力は20%と低い。
(2016年08月29日「基礎研レポート」)
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経歴
- 【職歴】 2006年4月 住友信託銀行(現 三井住友信託銀行) 2013年10月 国際石油開発帝石(現 INPEX) 2015年9月 ニッセイ基礎研究所 2019年1月 ラサール不動産投資顧問 2020年5月 ニッセイ基礎研究所 2022年7月より現職 【加入団体等】 ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター ・日本証券アナリスト協会検定会員
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