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「AI資本」大国へ-人工知能(AI)とベーシック・インカム(BI)
基礎研REPORT(冊子版) 2016年8月号

土堤内 昭雄
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本当に「労働力」は不足するのか?
2013年にオックスフォード大学のオズボーン氏等が発表した論文『雇用の未来(THE FUTURE OF EMPLOYMENT:HOW SUSCEPTIBLE ARE JOBS TOCOMPUTERISATION ?)』によると、今後10~20年程度で、アメリカの雇用者の約半分は、人工知能(AI)やコンピューターによって仕事が代替されるリスクが高いという。
ロボットがルーチン的な仕事しかできなかった時代から、AIやビッグデータを活用し、知的な仕事を代替する時代が確実に迫っているからだ。自動運転車の実用化も既に実証実験が始まり、やがてタクシーやトラック運転手の仕事を奪うかもしれない。サービス業や知的な通訳・エンジニアなども例外ではないだろう。
人口減少時代の経済成長のためには、人工知能やロボットによる労働の代替化は不可欠だ。しかし、それらが知的分野を含む社会の広い範囲におよぶと、仕事に就ける人が限定され、失業者が増加し、所得格差の拡大が一段と進むのではないだろうか。
また、AIやロボットが人間の労働を代替できる分野が限られても、その代替によって雇用や所得を奪われる人たちの消費が低迷すれば他分野の雇用の減少につながることも懸念される。
「仕事を奪われる」のか、「仕事から解放される」のか?
同戦略には、『技術や産業の変革に合わせて、人材育成や労働市場、働き方を積極的に変革していかなければ、雇用機会は失われ、雇用所得は減少し、中間層が崩壊して二極化が極端に進んでしまう』と書かれている。
最近のAIの発達は、グーグルの「アルファ碁」がプロ棋士に勝ったり、本格的な小説を創作したりと、人間本来の創造的領域にまで及んできている。その結果、これまで人間以外には困難と考えられてきた既存の多くの仕事が、AIやロボットに奪われるかもしれないのだ。
今後は、たとえ働く意欲や能力を有していても、労働市場で仕事に就けずに所得を得られない中間層が現れるだろう。その時、中間層の崩壊を防ぐためには、どのようにして日常生活に必要な所得を確保したらよいのだろう。
ひとつは最低所得保障(BI:ベーシック・インカム)の導入が考えられる。AIが生み出す経済価値をBIとして全ての国民に再配分し、経済成長に重要な分厚い中間層の個人消費の底上げを図るのだ。その場合、人間は「仕事を奪われる」のか、「仕事から解放される」のか、どちらだろう。
ベーシック・インカム生み出す「AI資本」大国へ
米国アラスカ州では、石油資源による公益ファンドの運用益から、年間一人当たり1000~2000ドルを全住民に給付している。天然資源に乏しく、消費税引き上げも難しい日本の場合、人工知能(AI)を活用できないだろうか。たとえば、雇用、医療、年金等の保険料の負担なく人間の労働を代替するAIやロボットの所有者に対しては、「AI資本」課税を行い、ベーシック・インカムの原資とするのだ。
世界一の高齢先進国・日本の針路としては、「AI資本」を巧く活用してベーシック・インカムを生み出す「AI資本」大国を目指すのもひとつの方向だろう。ただし、AI(人工知能)による仕事の代替とBI(ベーシック・インカム)による所得保障は、従来の労働観を根底から揺さぶり、『人間は何のために働くのか?』という根源的な問いを投げかけることになるかもしれない。
(2016年08月05日「基礎研マンスリー」)
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