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2016年07月12日
NY州がPBR(プリンシプル・ベースの責任準備金評価)採択の方針を表明-必要な責任準備金保護手段設定のためのワーキンググループを設立-
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2|今回の方針変更
ニューヨーク州は、保険料収入で9%を占める米国最大の州である。一方で、前々回の保険年金フォーカスで述べたように、いくつかの規制において、特殊な取扱いを行っているケースを有している。
このため、ニューヨーク州のPBRに対するスタンスは極めて注目されていた。
ニューヨーク州で契約を引き受けている多くの保険会社は、既にニューヨーク州に子会社を設立して、事業を行っている。従って、PBR制度へのニューヨーク州の対応の結果がどのような形になろうとも必ずしも大きな影響を与えるものでもない、との考え方もあったが、今回の方針表明で、ニューヨーク州もPBRを採択する方針であることが確認されたことは、業界に安心感を与えることになったものと思われる。
そもそも、ニューヨーク州と並んで、カリフォルニア州も、以前はDave Jonesコミッショナーの下でPBRの採用に反対していたが、カリフォルニア州の保険会社が、新しい制度を監督するのに十分なアクチュアリーを確保するための資金を保険局に提供することに同意したことから、採択に同意している。
前回の保険年金フォーカスで報告したように、既に45州が採択して、6月13日にNAICが「2017年からのPBRの実施」を採択したことで、ニューヨーク州の立場が孤立した状況になっていた。
こうした状況を踏まえて、ニューヨーク州だけがPBRを採用していないことによって、却って、その規制が弱いのではないかとの批判を受けることをかわすためにも、今回のPBRの採択は不可避であった、と思われる。
3|今回の方針変更を受けての今後の動向
ただし、ニューヨーク州は無条件でPBRを採択する方針を示したわけではなく、あくまでも、「業界や消費者代表を含むワーキンググループを設定して、『必要な責任準備金保護手段を設定する』上でDFSを支援する」とし「会社の経験に関わらず、消費者に販売する全ての商品のための最低限の責任準備金フロアーの開発を支援する。」としている。
このワーキンググループでどのような検討が行われていくのかが、今後の焦点となってくる。ワーキンググループには、ニューヨーク州を本籍州とする大手生命保険会社が含まれていることから、業界側の意見も一定反映された形で検討が行われていくことが期待されることになる。
ただし、『必要な責任準備金保護手段を設定する』の意味するところが、十分には明確でなく、この内容によっては、引き続き他の州に比べて、厳しい規制が課され、状況によっては、追加の責任準備金積立を求められることになるかもしれない。
さらには、導入時期についても、NAICやこれまでの45州が想定している2017年からではなく、1年遅れの2018年からとしており、この点も上記のワーキンググループの検討状況によっては、不透明になってくることも懸念されることになる。
ニューヨーク州は、保険料収入で9%を占める米国最大の州である。一方で、前々回の保険年金フォーカスで述べたように、いくつかの規制において、特殊な取扱いを行っているケースを有している。
このため、ニューヨーク州のPBRに対するスタンスは極めて注目されていた。
ニューヨーク州で契約を引き受けている多くの保険会社は、既にニューヨーク州に子会社を設立して、事業を行っている。従って、PBR制度へのニューヨーク州の対応の結果がどのような形になろうとも必ずしも大きな影響を与えるものでもない、との考え方もあったが、今回の方針表明で、ニューヨーク州もPBRを採択する方針であることが確認されたことは、業界に安心感を与えることになったものと思われる。
そもそも、ニューヨーク州と並んで、カリフォルニア州も、以前はDave Jonesコミッショナーの下でPBRの採用に反対していたが、カリフォルニア州の保険会社が、新しい制度を監督するのに十分なアクチュアリーを確保するための資金を保険局に提供することに同意したことから、採択に同意している。
前回の保険年金フォーカスで報告したように、既に45州が採択して、6月13日にNAICが「2017年からのPBRの実施」を採択したことで、ニューヨーク州の立場が孤立した状況になっていた。
こうした状況を踏まえて、ニューヨーク州だけがPBRを採用していないことによって、却って、その規制が弱いのではないかとの批判を受けることをかわすためにも、今回のPBRの採択は不可避であった、と思われる。
3|今回の方針変更を受けての今後の動向
ただし、ニューヨーク州は無条件でPBRを採択する方針を示したわけではなく、あくまでも、「業界や消費者代表を含むワーキンググループを設定して、『必要な責任準備金保護手段を設定する』上でDFSを支援する」とし「会社の経験に関わらず、消費者に販売する全ての商品のための最低限の責任準備金フロアーの開発を支援する。」としている。
このワーキンググループでどのような検討が行われていくのかが、今後の焦点となってくる。ワーキンググループには、ニューヨーク州を本籍州とする大手生命保険会社が含まれていることから、業界側の意見も一定反映された形で検討が行われていくことが期待されることになる。
ただし、『必要な責任準備金保護手段を設定する』の意味するところが、十分には明確でなく、この内容によっては、引き続き他の州に比べて、厳しい規制が課され、状況によっては、追加の責任準備金積立を求められることになるかもしれない。
さらには、導入時期についても、NAICやこれまでの45州が想定している2017年からではなく、1年遅れの2018年からとしており、この点も上記のワーキンググループの検討状況によっては、不透明になってくることも懸念されることになる。
4―業界からの反応
今回のニューヨーク州のプレス・リリースに対する業界からの反応として、LICONY(Life Insurance Council of New York:ニューヨーク州生命保険協議会)の会長兼CEOのMary Griffin氏は、その声明の中で、以下のように「今回の公表を歓迎する」意向を述べている。
「ニューヨーク州におけるPBRの実施が、この州における規制基準が、NAICによって採択され、45の州で実施される基準と同一歩調を取ったものとなる、との認識は、歓迎されるニュースである。」
「我々は、2018年までにニューヨーク州において統一的な実施が確保されるようにDFSと協業していくことを期待している。」
「ニューヨーク州におけるPBRの実施が、この州における規制基準が、NAICによって採択され、45の州で実施される基準と同一歩調を取ったものとなる、との認識は、歓迎されるニュースである。」
「我々は、2018年までにニューヨーク州において統一的な実施が確保されるようにDFSと協業していくことを期待している。」
即ち、長期的には、責任準備金の保守性が低下することや収益等がボラタイルになることに対する懸念が示されている。
6―まとめ
1|全体的には一歩前進
いずれにしても、その具体的な内容はともかくも、ニューヨーク州がPBRを採択する方針を示したことは、保険業界にとって望ましいことである。
これで、未だ採択していない他の州等1も採択していくことが想定され、米国の全ての管轄地域で、PBRが採択されることになっていくものと想定される。
このように、ニューヨーク州の方針変更により、米国全体が基本的には同じ原則的な考え方に立った方向に動き出したことで、PBRはその実効性ある実施に向けての新たな段階に進んでいくことを意味することになる。今後は実施に伴う各種の課題解決に向けて、着実に取り組んでいくことが重要になっていくものと思われる。
具体的には、今回のニューヨーク州のPBR採択方針の決定により、前々回の保険年金フォーカスで述べていた以下の5つの影響や課題のうちの「5|ニューヨーク州の採択動向とそれが保険会社に与える影響」については、一定程度は回避できることが見込まれることになった。
(PBR制度導入による影響と今後の課題(前々回の保険年金フォーカスより)
1|「適正なサイズの責任準備金」の考え方には幅が存在
2|キャプティブ活用の魅力の減退
3|責任準備金積立額の軽減効果
4|新たなPBR制度と既存制度との並存による負荷の増加
5|ニューヨーク州の採択動向とそれが保険会社に与える影響
また、これらの影響や課題のうち「2|から4|」に関連する内容については、前述のFitchの報告書でも触れられているとおりである。
2|今後の最大の課題
今回のPBR制度の導入の最大の目標は、「生命保険商品のための責任準備金を決定する現在の定型的なアプローチを各契約の基礎にあるリスクをより密接に反映しているものに置き換えることによって、適正なサイズの責任準備金とする」ことにある。
その意味でも、今後は、上記の「1|「適正なサイズの責任準備金」の考え方には幅が存在」という点について、ニューヨーク州の対応も含めて、その具体的な取り扱いが最も大きな課題になってくるものと思われる。
このことが、Fitchの懸念に対する答えとなっていくことにもなる。
いずれにしても、PBRについては、それが今後どのような形で統一的にワークしていくことになるのか等について、米国の生命保険会社だけでなく、日本や欧州を含めた世界の生命保険会社が深い関心を持って注目している。
その意味で、ニューヨーク州を初めとする各州やNAICでの今後の検討の動向については、引き続き注視していくこととしたい。
1 NAICの情報によれば、55の州及び管轄地域(米国50州、アメリカ領サモア、アメリカ領ヴァージン諸島、コロンビア特別区、グアム、プエルトルコ)のうち、6月1日時点では、45州が採択済、アラスカ、マサチューセッツ、ペンシルバニア及びコロンビア特別区が採択予定、ニューヨーク、ワイオミング、アメリカ領サモア、アメリカ領ヴァージン諸島、グアム、プエルトルコが採択予定も示していない状況となっていた。
いずれにしても、その具体的な内容はともかくも、ニューヨーク州がPBRを採択する方針を示したことは、保険業界にとって望ましいことである。
これで、未だ採択していない他の州等1も採択していくことが想定され、米国の全ての管轄地域で、PBRが採択されることになっていくものと想定される。
このように、ニューヨーク州の方針変更により、米国全体が基本的には同じ原則的な考え方に立った方向に動き出したことで、PBRはその実効性ある実施に向けての新たな段階に進んでいくことを意味することになる。今後は実施に伴う各種の課題解決に向けて、着実に取り組んでいくことが重要になっていくものと思われる。
具体的には、今回のニューヨーク州のPBR採択方針の決定により、前々回の保険年金フォーカスで述べていた以下の5つの影響や課題のうちの「5|ニューヨーク州の採択動向とそれが保険会社に与える影響」については、一定程度は回避できることが見込まれることになった。
(PBR制度導入による影響と今後の課題(前々回の保険年金フォーカスより)
1|「適正なサイズの責任準備金」の考え方には幅が存在
2|キャプティブ活用の魅力の減退
3|責任準備金積立額の軽減効果
4|新たなPBR制度と既存制度との並存による負荷の増加
5|ニューヨーク州の採択動向とそれが保険会社に与える影響
また、これらの影響や課題のうち「2|から4|」に関連する内容については、前述のFitchの報告書でも触れられているとおりである。
2|今後の最大の課題
今回のPBR制度の導入の最大の目標は、「生命保険商品のための責任準備金を決定する現在の定型的なアプローチを各契約の基礎にあるリスクをより密接に反映しているものに置き換えることによって、適正なサイズの責任準備金とする」ことにある。
その意味でも、今後は、上記の「1|「適正なサイズの責任準備金」の考え方には幅が存在」という点について、ニューヨーク州の対応も含めて、その具体的な取り扱いが最も大きな課題になってくるものと思われる。
このことが、Fitchの懸念に対する答えとなっていくことにもなる。
いずれにしても、PBRについては、それが今後どのような形で統一的にワークしていくことになるのか等について、米国の生命保険会社だけでなく、日本や欧州を含めた世界の生命保険会社が深い関心を持って注目している。
その意味で、ニューヨーク州を初めとする各州やNAICでの今後の検討の動向については、引き続き注視していくこととしたい。
1 NAICの情報によれば、55の州及び管轄地域(米国50州、アメリカ領サモア、アメリカ領ヴァージン諸島、コロンビア特別区、グアム、プエルトルコ)のうち、6月1日時点では、45州が採択済、アラスカ、マサチューセッツ、ペンシルバニア及びコロンビア特別区が採択予定、ニューヨーク、ワイオミング、アメリカ領サモア、アメリカ領ヴァージン諸島、グアム、プエルトルコが採択予定も示していない状況となっていた。
(2016年07月12日「保険・年金フォーカス」)
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