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オフィス市場におけるインバウンドの影響~教育関連施設やアジア系企業の拡大などに期待~
増宮 守
4.香港での中国本土企業によるオフィス需要
香港7のプライムオフィスエリアのセントラル(中環)では、欧米の金融機関などが主要なオフィステナントとなっており、数年前まで中国本土企業のオフィスはほとんど目立たなかった。しかし、2014年11月に香港証券取引所と上海証券取引所の相互接続8が開始されて以降、香港のセントラルにオフィスを構える中国本土の証券会社や資産運用会社が大幅に増加した。当初、数社が小規模な代表オフィスを設置する程度で、まとまったオフィス需要の発生は予想されていなかったが、中国本土企業による香港オフィスの設立が相次ぎ、結果として、2015年のセントラルにおける新規契約の大半が中国本土企業によるものとなった。
2014、15年の香港経済は停滞し、中国政府の贅沢禁止令を受けた中国本土旅行客による消費の減少や、輸出関連企業の低迷が続いていた。不動産分野でも、商業施設などが大きく影響を受け、特に、都心部の時計店や貴金属店などが閉店に追い込まれるケースが相次いだ。それにもかかわらず、空室率低下と賃料上昇が続いたオフィス市場の堅調さは特筆すべきもので、中国本土企業によるオフィス需要が大きく寄与したといえる。
香港のケースは、中国本土の証券市場との相互乗り入れという特殊なイベントを背景としており、東京で同様のケースが期待できるわけではない。しかし、規制緩和などにより、新たなオフィス需要が発生するケースは様々に考えられ、また、今のところ存在感の小さい中国本土企業が、今後、東京で新たなオフィス需要を生み出す可能性も考えられる。実際、日本国内の外資系企業数を母国籍別にみると、米国系企業が減少する一方、アジア系企業は増加傾向にあり(図表-9)、今後の外資系企業の誘致においてはアジア系企業の重要性が高まる。
一方、様々な面で世界最大の都市といわれる東京では、多数のオフィスエリアが存在し、各エリアが複数の鉄道路線にアクセスできるなど、高い交通利便性を有している。加えて、2000年代以降の大幅増加により超高層ビルの希少価値は薄れ、各ビルの差別化も難しくなってきている。今後、アジア系企業の誘致を念頭におく場合、立地やビルの差別化を図るブランド戦略が一層重要になると考えられる。
7 増宮守「香港オフィス市場の特徴」ニッセイ基礎研究所、不動産投資レポート、2012年5月28日
8 ストックコネクトと呼ばれ、香港と上海の各取引所の上場株式銘柄を互いの取引所で取引可能となった。加えて、香港証券取引所と深圳証券取引所との相互接続も2016年内の開始を目指している。
9 増宮守「中国国内需要の拡大を背景に厚みを増す上海オフィス市場~国際分散投資の観点から無視できない市場に~」ニッセイ基礎研究所、不動産投資レポート、2015年4月7日
5.おわりに
今後は、メルボルンや香港のように、教育関連施設やアジア系企業によるオフィス需要なども期待したいが、こうしたインバウンドオフィス需要の取り込みには、日本の持つ魅力を十分に有効活用する必要がある。
経済産業省の外資系企業動向調査のアンケートをみると(図表-11)、日本で事業展開する上での魅力として「所得水準が高く、製品・サービスの顧客ボリュームが大きい(市場規模が大きい)」とした外資系企業が多く、やはり、多くの外資系企業は日本の消費市場を狙って進出しているとみられる。
しかし、その他の魅力として「製品・サービスの付加価値や流行に敏感であり、新製品・新サービスに対する競争力が検証できる」、「アジア市場のゲートウェイ、地域統括拠点として最適である」というアジア事業の拠点機能としての評価も多く、加えて、「インフラが充実している」、「生活環境が整備されている」という日本の快適な環境に魅力を感じている外資系企業も多かった。
これらの認識を強化できれば、広くアジア事業を展開する場合も、勤務や生活の場としては東京を選択するモデルが成り立つ。インバウンドの拡大を宿泊や買い物といった一時的な需要に止めることなく、有力な外資系企業や人材の定着とそれに伴うオフィス需要に繋げてこそ、東京の本格的な国際化といえるだろう。
(2016年06月30日「不動産投資レポート」)
増宮 守
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