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進化を続けるリバースモーゲージ-(その2) 英国におけるエクイティ・リリースの市場展開、フランスにおけるヴィアジェ市場とファンド創設
社会研究部 土地・住宅政策室長 篠原 二三夫
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米国のリバースモーゲージ(HECM)に引き続き、英国とフランスのリバースモーゲージの動向について報告する。
英国のリバースモーゲージは、エクイティリリース(Equity Release)と呼ばれ、米国とは異なり、公的支援を受けることなく、民間ベースで長寿と金利上昇、住宅価格下落という三大リスクをカバーしている点に大きな特徴がある。
フランスでは近年米国型のリバースモーゲージも導入されたが、ヴィアジェ(Viager)と呼ばれる不動産取引手段が古くから利用され、これが高齢者のためのリバースモーゲージの機能を果たしてきた。最近、このビアジェ取引を集めたファンドが増えており、新たな動きとして注目されている。
今後、高齢者の資金需要は急速に高まるはずであり、米英仏におけるリバースモーゲージの進化を参考に、わが国でも従来にはないリバースモーゲージ商品を創出していくことが重要な課題と考えられる。
■目次
1――はじめに
2――英国のエクイティ・リリースについて
3――フランスのリバースモーゲージとヴィアジェ市場について
4――むすび:米英仏リバースモーゲージ市場と制度比較からの示唆
1――はじめに
米国では、リバースモーゲージにおける長寿と金利上昇、住宅価格下落という三大リスクを、連邦住宅局が運営するFHA保険制度を通じてカバーすることによって、民間貸付機関が消費者に対し魅力的なリバースモーゲージ商品(HECM)を提供できるようにしている。
これに対し、英国のリバースモーゲージは、「住宅資産流動化融資又はエクイティリリース(Equity Release)」と呼ばれ、米国とは異なり、まったく公的支援を受けることなく、民間ベースで三大リスクをカバーしている点に大きな特徴がある。
フランスでは近年米国型のリバースモーゲージも導入されたが、フランス人の9割以上が周知している「ヴィアジェ(Viager)」と呼ばれる不動産取引手段が、フランス民法典に基づき古くから利用され、これが高齢者のためのリバースモーゲージの機能を果たしてきた。売り手は仲介市場を通じてヴィアジェで住宅を売却し、買い手は一時金と定期金にて支払いを行う。売り手には亡くなるまで居住権が認められる代わりに、余命に対応した家賃相当が売値から差し引かれる。ヴィアジェは、融資契約ではなく不動産の売買契約のひとつの形態である点に特徴がある。また、最近、このビアジェ取引を集めたファンドが増えており、新たな動きとして注目されている。
以上のように、本稿では英仏の新たな動きについて報告し、最後に、米英仏のリバースモーゲージ商品を比較しながら、日本のリバースモーゲージの今後について展望したい。
1 (公財)不動産流通推進センターの委託調査により、本年2月に現地調査を実施した結果に基づく。本稿執筆にあたり、同センターのご理解に深謝申し上げる。
2――英国のエクイティ・リリースについて
米国のリバースモーゲージにあたる融資商品を、英国ではエクイティ・リリースと総称している。商品として登場した時期は実際には米国よりも早く、1930年代に遡ると言われる。以下では、このエクイティ・リリースの沿革を記す。
1965年には既にホーム・リバージョン(Home Reversions)社(後にHodge Equity Releaseと改名)が、現在のエクイティ・リリースと類似した商品を市場に投入したとされる。
その後、1972年には、終身年金保険をローンで購入し、借り手は年金によって毎月の年金収入を得ながら利子分だけを返済し、元本は死亡時に担保設定した住宅を処分して返済する仕組みをもったホームインカムプラン(Home Income Plan)が売り出された。
1978年にJG Inskip & Co.(後にHome & Capital Trust Ltd.と改名)により、この一種であるキャッシュ・リバーション(Cash Reversion)が導入され、1986年にはStalwart Assurance社(後にGE Life社と改名)及びAllchurches Life Assurance社(現在のEcclesiastical Life社)によって、より魅力あるホームインカムプランが導入され人気を博した。
1988年になると、期間中の利払いが不要なロールアッププラン、固定金利ではなく変動金利ベースで借り手リスクの高いホームインカムプランも導入されるようになった。
当時、ホームインカムプランが人気を博した理由としては、1984年までは生命保険料控除(Life Assurance Premium Relief: LAPR)が導入され、終身年金保険加入者にとってはインセンティブになっていたこと、それ以後は、1983年財政法に基づき、住宅購入にあたり、さらに魅力的なモーゲージ利子支援制度(Mortgage Interest Relief at Source: MIRAS)が導入されたことが大きい。MIRASを使うと、借り手は金利の25%相当が利払いから毎月控除され、最大3万ポンドまでのメリットを得られる。この支援相当分の金利は、英国歳入庁が直接貸付銀行に補填する仕組みなので、消費者には利用しやすい制度であった2。米国HECMのようにノンリコース条件によって、リバースモーゲージの三大リスクをカバーする支援策ではないが、政府が利子補給を行うことでホームインカムプランの購入費用が下がったため、消費者の需要が急速に高まった。
しかし、80年代末からのインフレと住宅価格の下落は、ホームインカムプランの借り手の損失を累積させてしまった。これは担保を設定した住宅の評価額が下落し、さらに金利も上昇したため、借り入れた元本に対し複利で増える金利負担が担保設定額を超過するネガティブ・エクイティ(Negative Equity)の状態に陥り、借り手は債務超過分の利払いを余儀なくされたためである。もともと多くの借り手は年金で生活する高齢者であるため、超過債務分を支払うことができず、居住していた住宅が差し押さえられる事態が頻発し、大きな社会問題に至った。このため1990年になってホームインカムプランは金融規制による監督を受け、新規の取扱いは停止されることとなった。
しかし、1991年には「安全ホームインカムプラン(Safe Home Income Plan: SHIP」という新商品が市場化され、同時に、同名の「SHIP」という業界団体が設立され、従来不足していた借り手に対する説明責任やコンプライアンスの充実が図られた。特に重要な点は、住宅価格の下落などによって、債務額が担保設定した住宅の評価額を超過しても超過額の支払い義務は生じない保証(No Negative Equity Guarantee: NNEGという)をエクイティ・リリース商品に採用し、消費者の信頼と安心を高めようとしたことである。しかし、初期段階のNNEG付きSHIPは、社会問題発生から間もないことと、融資掛け値(LTV)が低く設定され、消費者の需要を喚起するには十分とは言えなかった。
エクイティ・リリースが再び普及し始めたのは、1998年に借入期間中に元利返済の必要がないロールアップ条件で、より魅力的なNNEG条件に基づくライフタイム・モーゲージ商品(Lifetime Mortgage)が開発され、売り出されてからである。
もともと、介護施設に入居を希望する持家所有者が、十分な費用負担ができなかった場合に、地方自治体が当該物件に抵当設定を行い、最終的には物件売却によって介護費用を賄っていたことがライフタイム・モーゲージ創出のきっかけとなったという。
なお、ライフタイム・モーゲージよりもやや早めに、後述するフランスのヴィアジェと類似したホーム・リバージョン(Home Reversion)3も商品化されたが、現状ではほとんど需要がない。
2004年には金融サービス機構(Financial Service Authority: FSA)によって、住宅融資や融資商品の販売に関して、適格なファイナンシャル・アドバイザーが助言や費用の説明を行うことなどを含む新たな規制4が導入された。これに呼応し、SHIPはライフタイム・モーゲージなどにおける商品説明やNNEG条件の徹底を行為規定や商品規定に設け、業界主導で消費者保護策を推進することとなった。現在、英国で提供されているライフタイム・モーゲージは、すべてNNEG条件によるノンリコース融資となっている。
このようにNNEGを含めた消費者保護策が厳格になり、さらに消費者保護策を拡充する必要性や政府に対する業界活動を効率的に行えるように、2012年には従来のSHIPを承継したエクイティ・リリース・カウンシル(Equity Release Council)が創設され、業界の関係者に広く門戸を開き、エクイティ・リリース商品や販売面での情報提供などについて総合的な活動が開始されている。
2 MIRASは財政難等のため、90年代中頃から急速に縮減され、2000年4月には完全に廃止された。MIRAS以降、英国では持家に対する融資金利を支援する制度はない。
3 Home Reversionは当初はエクイティ・リリースの唯一の形態であった。該当住宅の売買契約を締結し、売買代金を一括または分割して受け取るが、亡くなるまでの居住権が与えられる仕組みである。売却することから、融資契約とは異なる高齢者の住宅資産の流動化策である。現状ではライフタイム・モーゲージの普及により、ほとんど需要がなくなったことから、本稿では詳述しない。
4 融資契約前にファイナンシャル・アドバイザーの助言を得ることについては、FCAによる制度上の義務ではないが、助言を望まない消費者でも契約が可能なのは、融資の借換えの場合や何らかの事情で融資条件を熟知しているなどの要件がある。業界は事実上の義務と認識し、業界行為規定でもファイナンシャル・アドバイザーの助言を得ないと融資契約はできないこととしている。
(2016年05月31日「基礎研レポート」)
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03-3512-1791
- 【職歴】
1975年 丸紅(株)入社
1990年 (株)ニッセイ基礎研究所入社 都市開発部(99年より社会研究部門)
2001年より現職
【加入団体等】
・日本都市計画学会(1991年‐) ・武蔵野NPOネットワーク役員
・日本不動産学会(1996年‐) ・首都圏定期借地借家件推進機構会員
・日本テレワーク学会 顧問(2001年‐)
・市民まちづくり会議・むさしの 理事長(2005年4月‐)
・日米Urban Land Institute 国際会員(1999年‐)
・米国American Real Estate Finance and Economics Association国際会員(2000年‐)
・米国National Association of Real Estate Investment Trust国際会員(1999年‐)
・英国Association of Mortgage Intermediaries準国際会員待遇(2004年‐)
・米国American Planning Association国際会員(2004年‐)
・米国Pension Real Estate Association正会員(2005年‐)
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